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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第三章 熱砂の姫君

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砂漠の食事と再出発

【レオン視点】



『リベルタス歴17年、7月8日 夕刻 曇り』



 外は鈍い雲が垂れこめ、夕方だというのに灰色だ。


 けれど皇帝執務室の空気はやけに明るかった。


 机に残ったデーツバーの包み紙を見て、僕、レオンは半ばあきれた。


 兄のカイル皇帝と妹のエリュアが、山盛りだったはずのおやつをいつの間にか平らげていたのだ。


「なあセリウス、もう無いのか?」


 ニコニコ顔の兄がセリウスに視線を送る。


「そうよ、もっとちょうだい!」


 エリュアは脚をばたつかせた。


(そこまで気に入るとは……エリュアは相変わらず可愛いなぁ)


 僕は苦笑まじりに肩を竦めた。



「カイル皇帝、エリュア殿下。このあとの夕食も、砂漠の美味しいモノを用意してありますよ」


 セリウスくんが控えめに言うと、お兄ちゃんもエリュアも目を爛々(らんらん)とさせる。


「おお、砂漠の夕食か! それは楽しみだな! よし、みんな俺の部屋へいこう!」


「アタシもいく~!」



 4人で皇帝の私室へ向かうと、部屋ではユリアさんが座って待っていた。


「まあ、みなさん! そろそろ呼びに行こうかと思っていたところです。レオン様、セリウス様、おかえりなさい!」


 ユリアさんは胸のまえで両手を合わせながら微笑む。


「どうも! ユリアさん! リヴァンティアへ行くの大変だったけど楽しかったよ!」


 僕の義理の姉になるだろう人だ。


(そういえばカイルお兄ちゃんとユリアさんは結婚式やったのかな? あとでそれとなく聞いてみよう)


 5人でテーブルを囲んで座っていると、カイルお兄ちゃんとエリュアが、やたらファリーナちゃんの事を聞いてくる。


 踊りがうまいとか、水を操る権能を持っているとか、年齢(とし)は一つ下くらい? とかペンネが好きとか、いろいろ答える。


「おう、ファリーナちゃんはペンネが好きなのか?」


 お兄ちゃんはファリーナちゃんについて色々知りたがる。


 なんでも「義理の妹になるかもしれないから」と言っているが、まだ気が早いと思う。


「グラナリアからパスタ職人に来てもらってるよ!」


 エリュアも話に乗ってきた。「義理の姉になるかも知れない」と、言い訳っぽいことを言っている。


 だけど、単に恋話(こいばな)に飢えているだけのような気がした。


「それでしたら、色々なショートパスタ作らせていますわよ」


 ユリアさんまで話に乗ってきた。


 人の恋話は、男女関係なく興味があるのだろうか?


「そうだレオン! セリウスともう一回、リヴァンティアへ行ってくれねぇか? 親書に返事もしねぇといけねぇからな!」


 まあ、兄の言うことはもっともだ。


「そうだね、正式に親書をもらったのだから、返事は必要だね。わかったよ、またリヴァンティアへ行ってくるね!」


(ファリーナちゃん、新しいショートパスタ喜ぶだろうなぁ……)


 僕がぼんやりと熱砂の姫君(ファリーナちゃん)の事を考えていると、皆がニヤニヤしながら僕を見る。



『コンコンコンッ』


「フィオナです~お食事お持ちしました~!」


 フィオナさんが食事の入ったワゴンを押してくると、スパイスの香りが部屋に漂う。


 先ほどデーツバーを食べたばかりだが、胃袋の別のところを刺激されるような、そんな香りだ。



 僕は砂漠で見たことがあるので知っていた。


 これはカレーだ。


「おっ、おいレオン、セリウス。なんだこの茶色と黒の中間みたいなものはよ? いや、香りから食いモンってのはわかるけどよ」


 カイルお兄ちゃんが、ちょっと引いていた。


「カイルお兄ちゃん。これはカレーって言うんだよ」


 フィオナさんが全員にカレーの入った皿を並べると、テーブルの中央にオーロラハイド風のやわらかパンがたくさん入った皿を置く。


「まあ、お兄ちゃんもエリュアもユリアさんも食べてみてよ。ちょっと辛いと思うから、最初はパンにちょっとだけつけて食べてみて!」


 僕はパンを手に取るとフィオナさんに渡す。


「じゃ、毒見するっすね~! う~ん、毒ではないっすね! ちょっとだけ食べると、かえって腹が減るっす!」


 フィオナさんが毒見したあと、皆がおそるおそる食べ始めた。


 それから無言が続いた。


 美味しくて、だれもしゃべらなかったのである。


 しばらく皆の咀嚼(そしゃく)する音だけが、部屋に響く。


 一番最初に平らげたのは、カイルお兄ちゃんだった。


「レオン、もう一つミッションを与える」


「な、なに? お兄ちゃん?」


 お兄ちゃんは僕のほうへ身を乗り出した。


「カレーの材料をもっと持ってこい! あとデーツバーもよろしくっ! 親書の返事もあるから、急いで行ってこい!」


 お兄ちゃんはパンを手に取ると、皿をふくようにしてカレーの残りを集めていた。


「わ、分かったよ! じゃお兄ちゃんも明日までに親書の返事書いておいてね!」


 皇帝の私室に、皆の笑い声が響く。


 スパイスの香りは、しばらく部屋から消えそうになかった。


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