アークディオンの生きる道
【ターリク・アークディオン国王 31歳視点】
『時は少し遡り アークディオン歴301年、リヴァンティア歴208年、5月22日 昼』
草原 砂漠 砂漠
草原 オアシス地帯 オアシス地帯 (メルヴ方面)
(西方)ー〇ーーーーーーーー〇ーーーーーーーー〇ーーーー(東方)
フロンダ アークディオン リヴァンティア (フェリカ方面)
(セダ・ヴェルデ帝国)(独立国家) (独立国家)
わたしと娘ザイナは、日中の砂漠の暑さをしのぐため、やや薄暗くした宮殿の私室にいた。
二人で立ちながらテーブルの上の地図をにらむ。
「ああ、どうすれば良いのじゃ? 西にはセダ・ヴェルデ帝国、東にはリベルタス帝国じゃと? これでは砂漠はどちらかの帝国にのまれてしまうぞ!」
わたしは頭をかきむしる。
暑さには慣れているというのに、嫌な汗をべっとりとかいていた。
「ええ、そうです父上。西の草原にあるフロンダがセダ・ヴェルデ帝国に陥とされてしまいましたわ……」
この娘はザイナ・アークディオン16歳。
自慢の娘だ。
スタイルも良く踊りもうまい。
今着ている赤のサリーも良く似合っている。
アークディオンでも、東のリヴァンティアを真似て、水の浄化の際にザイナに踊らせてみた。
これが民衆からの評判がよく、アークディオン王家は神聖視されている。
そう、そこまでは良かったのだ、そこまでは。
問題は、二か月ほど前に西の都市国家フロンダから、救援要請が来てからだ。
だが太陽神の大祝祭は砂漠の民にとって絶対……軍を動かせる日は限られる。
一か月ほど前からようやく兵を集め始めたのだが、肝心のフロンダは陥とされてしまう。
「父上、東の果ての交易都市メルヴにまでリベルタス帝国というのは迫っているようです……ここは先手を打ってはいかがですか?」
娘は、わたしのグラスに水を注いでくれる。
水は酒より高い。
水をふんだんに使えることこそ、権力の象徴であった。
「ほう? ザイナ、先手とは?」
娘が何を言いたいかは、なんとなく気づいてはいたが、あえて聞いてみる。
ザイナの指が、地図上のアークディオンからリヴァンティアへと、すーっと動いた。
「リヴァンティアを攻め落とし、砂漠の勢力をまとめ上げるのです。さすれば東西どちらの帝国に対しても、牽制することができましょう!」
悪くはない考えだった。
そう、隣国が力をつけたのならば、こちらも力をつければ良いのだ。
「ふむ、ザイナよ。それは悪くない考えだな。だが我がアークディオンとリヴァンティアは互角の力……勝てるかな? リヴァンティアには水とラクダを操る、熱砂の姫君がおるぞ?」
わたしはグラスに手をかけると水をあおる。
いくら水をふんだんに使えるからと言って、無駄にはできない。
空になったグラスをテーブルに置く。
「ふふっ、リヴァンティアの役人はワイロで動くと聞いています。ここは兵と金の両方を動かしてみてはどうでしょう?」
わたしは感心する。互角なら、まず敵を崩して勝ちたい。できれば無血で。
「おおザイナ、それは良いな! よし、兵は解散させずにこのまま訓練を続けさせよう。さっそく間諜をリヴァンティアに放つ! 敵を買収するのだ!」
わたしもザイナもすっかりその気になってしまい、リヴァンティアは敵となっていた。
リヴァンティアは、もともと仲の良い国ではない。
互いにアサシンを送りあい、双方の親世代が暗殺されたところで、暗殺はやめようと協定を結んだだけの相手だ。
だが、直接攻め取るのであれば問題ないだろう。
協定違反にはならない。
外は焼けるような暑さだ。
ザイナが再び水を注いでくれる。
わたしたち親子は、どちらともなく『チン』とグラスを合わせた。
いつの間にか、涼しい部屋で水を楽しむ余裕ができていた。