リヴァンティアの親書
【レオン視点】
『リベルタス歴17年、7月8日 16時ごろ 曇り』
『コンコンコンッ』
皇帝の執務室のドアが優しめにノックされる。
「エリュアだよ~カイルお兄ちゃん入るわね~」
「おう! エリュア、入れ!」
皇帝が入室許可を出す。
僕たち兄妹の末っ子で、エルフのエリュアが入ってきた。
オーロラハイドも既に初夏である。
エリュアは涼し気な、白いワンピースを着ていた。
彼女はエルミーラママとお父さんの娘なのだが、ママのほうに似ている。
緑色の長い髪を姫カットにしており、翡翠色の瞳をしていた。
「おかえり! レオンお兄ちゃん! おみやげのお菓子どこ~?」
エリュアはソファーのほうに『トトトッ』と走りよると、カイルお兄ちゃんの隣に座る。
「ははっ、エリュア。お土産なら、セリウスのヤツが取りにいってるぞ。それよりレオン、親書のほうはどうだ?」
カイルお兄ちゃんは、イチゴジュースを飲み干してしまい、エリュアの分も含めておかわりを頼んでいた。
「ちょっと待ってお兄ちゃん。けっこう時候の挨拶が長くて……やっといま本題を読んでいるところ……うん、基本的には国交樹立をお願いしますって書いてあるよ。それより二枚目があるね……あっ、これファリーナちゃんからだ」
僕はファリーナちゃんからの手紙に喜んだ。
彼女の踊りを思い出し、思わず笑みがこぼれる。
熱砂の姫君はなかなか達筆で、字がうまい。
「あら~レオンお兄ちゃん……そのファリーナちゃんって子が気になるんじゃない?」
エリュアがニヤニヤしながら僕を見る。
「ああ、本当だぜ。レオンって分かりやすいヤツだったんだな。いい女なのか?」
カイルお兄ちゃんまでニヤニヤしていた。
「ちょっと、二人とも冷やかさないでよ! まあ、確かにファリーナちゃんはカワイイけどさ。ん? リヴァンティアの西にある、アークディオンが最近兵を集めているらしいと書いてあるね」
僕は眉間にシワを寄せると、声を若干低くした。
「ふ~ん、砂漠で戦争か? レオンどうする? いちおう様子を探らせるか?」
戦争となればカイルお兄ちゃんはとても強いと思う。
小国とは言え、今まで独立を保っていたグラナリアに勝利し、リベルタス帝国に編入したのだから、その手腕は心強い。
「そうだねお兄ちゃん。狐のハッサンさんとか、ラクダのサイードさんに偵察を頼めないかな? 砂漠の情勢を探らせるんだ!」
土壁から砂岩の城壁へ移行しているメルヴの様子を思い出す。
「レオン分かったぜ。お前のオンナのためだもんな! いいぜ、兄貴として一肌脱いでやる!」
カイルお兄ちゃんは、腕まくりしながらガッツポーズをとる。
「きゃ~! レオンお兄ちゃんの好きな人ってどんな人なんだろう?」
エリュアまでも両頬に手を当てながら、腰をくねくねさせている。
座りながら器用なものだ。
『コンコンコンッ』
「セリウスです、お土産のデーツバー持ってきました」
セリウスくんが入室して、僕の隣に座る。
ローテーブルの上に、デーツバーの入った皿を置く。
「これはデーツとかナツメヤシと呼ばれる砂漠の果物を乾燥させて、ナッツと混ぜてオイルでコーティングした食べ物です。保存食としても良いですよ」
セリウスくんがデーツバーについて説明してくれる。
デーツバーはダークブラウンで小さな長方形をしていた。
「じゃ失礼して毒見しますね」
セリウスくんがデーツバーを1本とると口の中へ含む。
彼は美味しそうにムシャムシャしている。
どうやら毒はなさそうだ。
僕たち皇族もデーツバーに手をつける。
口の中に入れると、味のファーストインパクトがくる。
しっとりとしたデーツの甘みが口中に広がり、キャラメルのようなコクとフルーティーな酸味のバランスを感じる。
噛むほどに、ナッツの香ばしさと細かい粒感がプチプチと弾け、歯ごたえのあるアクセントをプラスしてくれる。
デーツの自然な甘さとナッツのほろ苦さが交互に顔を出す。
「おうっ、コレめちゃくちゃ美味いじゃん! レオンよくやったな!」
お兄ちゃんはデーツバーを平らげると、もう一本に手をつける。
「はむはむはむっ! これオーロラハイドじゃ食べられないわ! 珍しいわねっ!」
妹のエリュアも夢中でデーツバーを食べていた。
「ほかにも色々な香辛料があります。砂漠で仕入れたレシピを厨房の人に渡したので、後で味見してみましょう!」
セリウスくんが色々と手回ししてくれていたらしい。
旅の前と比べると、ずいぶんと頼もしくなっている。
(ファリーナちゃん、無事だといいけどなぁ……まさかリヴァンティアが戦争に巻き込まれたりしないよね?)
デーツバーは美味しかったが、それだけにファリーナちゃんを強く意識してしまい、胸がしめつけられるような気がした。
デーツバーの後味は、少しほろ苦かった……




