皇帝の弟として
【レオン視点】
『リベルタス歴17年、7月8日 15時ごろ 曇り』
僕とカイルお兄ちゃんとセリウスくんは、温泉からあがると皇帝の執務室へ集まった。
執務室の隅にあるソファーへ僕とセリウスくんが並んで座り、対面にお兄ちゃんが座る。
「失礼しま~す!」
メイドのフィオナさんがローテーブルにイチゴジュースを並べる。
イチゴはエルフたちが栽培しているものだ。
エルフの権能は植物に関するものが多く、冬のように極端に寒い状況でなければ、大抵の植物は栽培できる。
かと言って、砂漠でしかとれないような農産物は、作るのが難しいだろう。
あくまでもオーロラハイド周辺で栽培できる農産物に限って育てられる。
「フィオナさん、僕たちがリヴァンティアから持ち帰ったデーツバーも持ってきてよ。セリウスくんも一緒に行ってきてくれるかな? どれがデーツバーかわからないでしょ?」
僕はフィオナさんにお願いする。
デーツバーは、お兄ちゃんへのお土産に買ってきた食べ物だ。
「かしこまりました~!」
フィオナさんは僕と同じく15歳。
ほかのメイドたちと違って、皇族や王族相手でも態度を変えないところが良い。
(僕たち相手だと、変にかしこまっちゃうメイドさんいるからなぁ……)
「レオン、わかったよ。ちょっと行ってくる。たぶん、商会に運ばれちゃったと思うから取ってくるね」
セリウスくんはイチゴジュースを飲み干してから、執務室を出て行った。
「フィオナさん、あと妹のエリュアも呼んできてくれないかな? お土産の食べ物があるって言えば来ると思うよ」
「は~い!」
フィオナさんも一礼すると退室していった。
後には僕と皇帝だけが残される。
「お兄ちゃん、リヴァンティアからの親書読んでみてよ」
僕は親書をカイルお兄ちゃんに渡そうとする。
ラシーム宰相からの親書は、きちんと木の箱に入れて保管してあったので、曲がったりシワになってはいない。
「あのよ、レオン」
お兄ちゃんは右手のひらをこちらに向ける。
「わりぃけどさ、オマエそれ読んでないの? 旅の途中で紛失とか考えなかったワケ? 場合によっては荷物捨てて逃走ってことも考えられるぜ」
皇帝の指摘はもっともだった。
理にかなっている。
戦争に巻き込まれたり、盗賊にあったり、自然災害も考えられる。
万が一ということがあった。
「そうだよね。今のところ僕が皇位の継承権第一位だもんね」
そうなのだ。
考えたくもないが、兄に何かあれば皇位を継ぐのは僕なのだ。
「まっ、そういうこった。あと書類に関しては、オマエのほうが扱いが上だ。読んで要点を聞かせてくれ。バートルもいないんじゃ、宰相の代わりができるのがレオンしかいない」
カイルお兄ちゃんは脚を組むと、イチゴジュースに口をつける。
「お兄ちゃんの考えは分かったよ。じゃ開けるね」
兄がペーパーナイフを持ってきてくれたので、それで封を切った。
僕は親書を広げて読むことにする。
砂漠のカラッとした暑さとは違い、オーロラハイド特有のジメッとした暑さが室内に満ちていた。