オーロラハイド到着!
【レオン視点】
『リベルタス歴17年、7月8日 昼前』
僕とセリウスくんは、フタコブラクダ50頭と護衛と共に、ようやくオーロラハイドに到着した。
オーロラハイドの三重城壁……その南側にあるトーリン門が見えた時は、思わず涙ぐんだ。
「リヴァンティアから、49日の旅でしたね!」
セリウスくんの声は弾んでいた。
ラクダ一頭はおよそ100kgの荷物を積むことができる。
すべてのラクダには、リヴァンティアで手に入る、珍しい香辛料を満載していた。
メルヴの総督、狐のハッサンさんがつけてくれたラクダ騎兵の護衛を恐れてか、道中襲われることはなかった。
おとぎ話に出てくるような、幻獣やモンスターの類にも出くわしていない。
一番恐ろしいのは、人間の盗賊だ。
「うん、セリウスくん、ようやくだよ。あっ、トーリン門のところにいるのカイルお兄ちゃんじゃない?」
トーリン門の監視塔からは、おそらくキャラバンが見えていたのだろう。
オーロラハイドが誇る重装騎兵隊が、トーリン門の前に整列していた。
その中央には、黒の軍服に赤いマント姿のカイル皇帝がいた。
僕はラクダの扱いに慣れていた。
ラクダとの付き合いも、今年の4月1日からで、およそ3か月になる。
相棒のロープを前方に真っすぐ引いて姿勢を前傾させる。
「ヒヤッ! ヒヤッ!」
声を張ってラクダに指示を出すと、前方へ向けて駆けだした。
お兄ちゃんに近づくと、ロープを後方に引き上げるようにピタッと止める。
「ハッ!」
強く短く、止まるように命令する。
騎兵に乗っていたお兄ちゃんは「ヒュ~ッ!」と口笛を吹いて拍手した。
「おかえりレオン、お前ラクダの扱いうまいな! 今度俺にも教えてくれよ!」
お兄ちゃんは嬉しそうに拍手を続ける。
「うん、いいよ! ハッサンさんに頼んでラクダを一頭分けてもらおう! リヴァンティアと国交を結べたよ! 宰相ラシームさんから親書をもらっている!」
僕は背中のカバンから、親書を取り出そうとする。
ラクダの上での動作も慣れたもので、二つのコブに注意すればよい。
「おおっと、レオン。そういう面倒くさいことは後にしようぜ! まずはエルフの温泉に入ってから、パーッと飲もう!」
少し遅れてセリウスくんもラクダを走らせてきた。
セリウスくんもラクダの扱いに慣れている。
「カイルさん、無事に任務を果たしました!」
セリウスくんは、旅の途中で何かが吹っ切れたのか、どもることが少なくなっていた。
「おう、セリウス、ごくろうさん。お前も温泉来いよ。リヴァンティアの話聞かせてくれや!」
重装騎兵隊の後ろから、シド商会の人たちが出てくると、ラクダと荷物を引き取ってくれた。
きっとこのままシド商会の倉庫へ運ばれるのだろう。
僕とカイルお兄ちゃんとセリウスくんは、三人で温泉に入る。
温泉はヒノキの浴槽でできており、建物全体がヒノキ造りとなっている。
温泉で働いていたのは、主にエルフの男性たちだった。
かけ湯をして体を洗う。
そして、温泉に入ると、体にしみわたる!
裸で頭にタオルを載せながら湯に浸かっていると、リヴァンティアの事を思い出した。
(あそこでは、こんなに水やお湯を使えないからな……ファリーナちゃんをぜひ連れてきたいな……)
リヴァンティアのことを思うたびに、なぜか踊り子姿のファリーナちゃんが頭に浮かんだ。
(また行こう……今度はもっと色々なパスタを持って、彼女のところに……)
浴槽の湯気越しに、砂嵐をくぐり抜けたあのオアシスが浮かぶ。
乾いた風の中で笑ってくれたファリーナちゃんの顔が、一瞬だけ揺らめいた。