表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/145

砂漠の水

【レオンくん15歳視点】



『リヴァンティア歴208年、リベルタス歴17年、5月22日 昼』



 僕はどうしようか悩んでいた。


 ペンネの食べ方はいろいろある。


(たしかグラナリアだと、トマトソースが人気らしいんだよね……おっ、トマトあるじゃない! でもなぁ、一人でトマト潰すの大変だしなぁ……)


「ねえ、ファリーナちゃん……」


 セリウスくんも厨房に呼んでもらおうと思い、なるべく気軽に彼女(ファリーナ)に声をかける。


「ファリーナちゃんとはなんじゃ? 『ちゃん』とは? ファリーナ様かファリーナさんと呼ぶのじゃ! まあ、女王でも良いぞ?」


 ファリーナちゃんが、ギロリと白目多めで僕を睨む。


(ああ、なるほど。子供っぽい呼び方は嫌なのかな?)


「すみません、ファリーナさん。レディに対して失礼をしました。どうかお許しください」


 ファリーナちゃんの顔が『パアアアッ』と明るくなる。


(うん、分かりやすくて可愛いな)


「そうじゃ、それで良いのじゃ! して、何か言いたいことがあるのかえ?」


 彼女は右手で口を隠しながら、くすくすっと無邪気な笑みを浮かべる。


(よし、ファリーナ『さん』だね! 心の中にメモメモっと!)


「広間にもう一人、金髪の男の子がいたよね? 彼も連れてきてくれないかな?」


 ファリーナちゃんがちょっと下を向く。


「おぬしと二人がいい……じゃがの……」


 彼女は、僕の足元のほうに目を向けると小さく言った。


(おや? セリウスくんのことはあまり気に入ってないのかな?)


「彼は商売も料理もいろいろと詳しいんだ! 彼に作らせている間に、僕が異国の話をしてあげるよ!」


 ファリーナちゃんは僕を上目遣いで見ながら、目を『キラリーン』と輝かせる。


「なぬっ、それは本当か? ちょっと待っておれ、ラシーム(にい)に言って連れて来させるでの!」


 彼女は厨房を飛び出すと、廊下を跳ねるように進んでいった。


(はあ、嵐のような女の子だな。年齢(とし)は確か14歳だったよね。どうも宰相のお兄さんのほうが実権を持っているようだ)


 待っている間、何もしないのも悪いので、トマトソースに使えそうな材料を探す。


(けっこう野菜があるな……バザールだと高かったけどな。砂漠の川沿いに畑でもあるのかな?)


 それから材料をチョイスして、キッチンの上に並べる。


・オリーブオイル

・にんにく

・タマネギ

・トマト

・砂糖

・塩

・こしょう

・乾燥オレガノ

・バジルの葉

・バター


 僕は厨房にいた料理人さんに話を聞いて、水の入ったツボを教えてもらう。


 ツボの水で手を洗っていると……


「おいっ! 赤髪のボウズ! そんなもったいない水の使い方をするな!」


 中年の料理人さんに怒られた。


 おじさんは黒髪で、年齢の割に筋肉質な体をしている。


「すっ、すみません! まだ、砂漠の流儀に慣れていなくて……」


 僕はとっさに頭を下げた。


「お前よそ者か? 熱砂の姫君のお気に入りのようだが教えてやる。その水は、お前さんが責任をとって飲め! 砂漠じゃ朝起きて、顔を洗い、歯を磨き、そのツボの水一杯で一日過ごすんだ! 分かったな!」


 おじさんは青筋を立てている。


 どうやら本気で怒っているらしい。


「は、はい……」


(あ~あ、早くオーロラハイドに帰りたいよ……あそこは虹の滝から流れてくる水も、井戸もあるし、エルフの温泉だってあるしなぁ……)


 しょんぼりしていると、遠くから『わ~はっはっは』という、ファリーナちゃんの声と足音が聞こえてきた。


 ツボの水面に映った僕の顔は、波紋で少し歪んでいるように見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ