ファリーナちゃん暴走!
【レオンくん15歳視点】
『リヴァンティア歴208年、リベルタス歴17年、5月22日 昼』
「わ~はっはっはっは!」
ファリーナちゃんは僕の手を引き、楽しそうに宮殿へ向かって駆ける。
走りながらステップを踏んでおり、とても楽しそうだ。
「えっ? えっ? ええええ~!」
(これって、ぼく誘拐されちゃってる!? 普通、逆じゃない?)
僕はうろたえながらも、彼女のなすがままにされていた。
(いちおう、国交樹立が目的だから、これでいいのかな?)
楽しそうに笑うファリーナちゃんは、神秘的な雰囲気はどこかへ行ってしまい、普通の女の子のようだ。
宮殿の入口では、重厚なブロケード刺繍の入った服の、二十歳ぐらいの若い男性が待っていた。
位の高い人物なのであろう。
チュニックの上にオーバーコートを着ている。
金銀糸で花鳥文様を施した高級そうな服だ。
「ラシーム兄! 面白そうな客連れてきた!」
宮殿の入口に立っている若い男性の前で、ようやくファリーナちゃんが止まった。
(これはチャンスだ!)
僕はその場に跪く。
静かに膝を折り、男性の前に身を低く沈める。
太陽の光は暑かったが、土の地面に額を優雅に垂れる。
「私はメルヴのさらに東にある、オーロラハイドと言うところから来たレオンと申します。ぜひリヴァンティアと国交を結びたく参上した次第です」
頭を下げていたので、男の顔は見えなかったが、悪い印象は与えていないと思う。
「これはご丁寧にどうも。私はリヴァンティアの宰相をしているラシームと言う。そこのファリーナの兄だ」
(良かった! 僕のカンは正しかった! 宰相さんとお話できれば国交樹立に近づく!)
宰相というからには、リベルタス帝国でのバートルさんくらいの立場だろう。
これなら話が早そうだ!
「何を言うラシーム兄? 広間で食べ物を売っている男子が、他国の使者なわけ無かろう? それよりペンネをもっと食べさせるのじゃ~!」
「わっ! わっ!」
ファリーナちゃんは再び僕の手を取ると、宮殿内へと跳ねるように進む。
石畳を二人の足音が響く。
(あっ、宮殿の中って日陰で涼しい~)
彼女の嵐のような行動に、ラシーム宰相も警備の兵たちも呆気にとられていた。
暴走する今のファリーナちゃんを止められる者は、誰も居なかった。
宮殿の廊下は、様々な異国の品物が飾られている。
高価そうな皿や食器、歴代のリヴァンティアの権力者たちと思われる絵画、メルヴのほうから来たと思われる動物のはく製など、さまざまだ。
ファリーナちゃんは廊下を駆けると、料理人たちの働いている場所へ僕を引っ張ってきた。
厨房に足を踏み入れると、スパイスの香りが漂っていた。
「ここが厨房じゃ! 好きに使って良いぞ! 妾は見物しておるからの。さっそくペンネを作るのじゃ!」
彼女の目は大きく見開かれ、瞳は好奇心からか輝いていた。
(えっ、ええええ~! ぼく料理人じゃないんだけどなぁ……グラナリア料理風にソースとか作ってみるか……)
銀の皿が、陽光を受けて輝いている。
ファリーナちゃんの「ふんす、ふんす」と言う息遣いが、やけに大きく聞こえるような気がした。




