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交易路の守護者!~理想の国づくりと貿易で無双したいと思います~  作者: 塩野さち
第三章 熱砂の姫君

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異国の話と味

【熱砂の姫君 ファリーナちゃん14歳視点】



『リヴァンティア歴208年、5月22日 午前9時過ぎ』



 (わらわ)は目の前のレオンという男子を見つめていた。


 年は少し上にも同じにも見える。


 赤毛が特徴で、麻のようなもので編まれた、ツバが広くて丸い帽子をかぶっていた。


 暑いのか少し汗ばんでいるようだ。


(なんじゃ? この程度の暑さで汗とは軟弱じゃのう……)


「はいっ! それではお湯も沸いたので、ペンネの実演販売を始めますっ!」


(いよいよ始まるのじゃな!)


 妾はいつの間にか両手を胸の前に出し、握りしめていた。


(いつもは妾が見られる側じゃからのう、見る側というのは新鮮じゃ!)


「ここに取り出したるはペンネ! 東の交易都市メルヴのさらに東の地、オーロラハイドで作られたものでございます!」


 レオンが麻袋から右手でペンネを取り出すと、頭上にかかげた。


 妾はそれを目で追う。


(なんか乾いていて堅そうじゃの? あんなのが食べられるのかえ?)


「このペンネを美味しく茹でるには、まず塩を少々!」


 彼は左手で塩を少し鍋へいれる。


 リヴァンティアのバザールでは、大声を出すのは価格交渉の時ぐらいだ。


 なぜなら暑くてすぐ喉が枯れるからである。


 その点、この声を張り上げる実演販売は珍しかった。


「そして、ペンネを投入っ!」


 鍋にペンネが入り、色が少し変わる。


(なるほど! 堅いから、ああやって柔らかくしておるのじゃな!)


「そして、混ぜること11分! 少々暇なので、ここで僕の故郷オーロラハイドの話をしましょう!」


(おおっ、待っている間に語り部もやるのか! 気が利くのう!)


「僕の故郷では、冬になると雪というものが降ります! 白く冷たい粉のようなものが空から降ってくるのです!」


 レオンの話は、実に興味深いものだった。


(雪!? 雪とはなんじゃ? おとぎ話に出てくるアレかえ?)


「おっ、おぬしの故郷では雪が降るのか! ほっ、本当か?」


(しまった! 身分を隠してお忍びで来ているのに、これではバレるではないか!)


「はい! それはそれは冷た~い雪がふります。そして寒いのです!」


「そっ、それは砂漠の夜より寒いのか!?」


 いつの間にか妾は身を乗り出していた。


 レオン(こやつ)は妾の知らない事を知っている。


 聞きたい、もっと話を聞きたい……


 連れて帰りたい!


「はい! それはそれは寒いのです! 水も氷になってしまいます!」


 また見た事のない聞いたことの無い言葉が出てきた。


「氷? 氷とはなんじゃ?」


 妾は身を乗り出していた。


 いつの間にか、口を覆っていた赤い布が落ちた事にも気が付かなかった。


「はい、水が氷ると、カチカチに固くなってしまうのです! そうですね……水晶のようになります!」


 妾は衝撃を受けた。


 水がそのようになるとは……


「さて、そろそろペンネの出来上がりです!」


 レオンはそう言うと、取っ手付きのザルでペンネをすくいあげる。


 よく湯を切ってから皿に盛りつける。


 横では金髪の男子がソースを作っていたようで、ニンニク、唐辛子、オリーブオイルをかける。


「ではお客さん、どうぞ! ペンネでございます!」


 レオンが皿を差し出すと、護衛の男が毒見をする。


「毒は無いようですが熱いです! 食べる時はお気をつけて!」


 この時ばかりは、護衛が邪魔だった。


 すぐ食べたかった。


 レオンが作ったペンネの一番乗りになりたかった。


 妾は皿を持ち、フォークをペンネに刺す。


(柔らかい! あんなに固そうじゃったのに……)


 思い切って口に入れる。


「あっあちちちちち!」


「あっ、お気をつけて!」


 レオンが水を差し出す。


 だが、妾はそれを手で制した。


「なんじゃこれは! 熱いのにツルツルしておる! 柔らかいしニンニクと唐辛子と言うシンプルな味なのに奥深いのじゃ!」


 妾ははしたなく、ガツガツとペンネを食べる。


 あっと言う間に減っていくペンネ。


 食欲をそそるニンニクの味と、唐辛子が口と胃に刺激を与えてくれる。


 そして最後の一口をツルッと食す。


(ふ~っ! 美味かったのじゃ! もっと食べたいのじゅ! こんなに美味しいものが作れるのじゃ! よし、やっぱり連れて帰ろう!)


「お主、レオンと言ったな! 宮殿まで来るのじゃ~!」


 妾はレオンの手を引くと、宮殿へ向かって走り出した!


「えっ? えっ? えっ? いきなりは困ります~!」


 妾はレオンの手を引くと、抗議の声を無視して宮殿へ走る。


(これでも妾は毎日踊っておるから、体力はあるつもりじゃ)


 後から護衛の兵たちが焦ってついてきた。



 太陽が昼本番とばかりに、天頂へ登ろうとしている。


 今はこの太陽の暑さすら、楽しいと思えた。


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