熱砂の姫君来る!
【レオンくん15歳視点】
『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、5月22日 午前8時頃』
僕は広間の使用許可を取るために、現地にある役人のテントへ入った。
ここでお金を払うと、広間の利用ができる。
価格はそんなに高くない。
役人はいろいろな客に応対するため忙しそうだ。
僕の番が来ると、昨日と同じように自分の名前と出身地を言い、ペンネの実演販売をしたいと告げた。
「お前がオーロラハイドのレオンか。それでペンネを売りたいと……通りにある一番広い場所を使え!」
「えっ、でもそんないい場所使っても良いのですか? 昨日はもっと端のほうでした」
役人は周囲を見て、こちらに手招きする。
僕が近づくと、役人も顔を寄せてきた。
(ナイショの話でもあるのかな?)
「ここだけの話だが、昼前に熱砂の姫君がお前のペンネを食べに来る。実演販売するならその時間にしろ」
僕は黙ってうなずくと、広間の使用料を支払う。
少し多めに渡すと、役人はニンマリと懐へ入れた。
(う~ん、リヴァンティアでは役人の規律が乱れているかな? オーロラハイドだと、ちゃんとお釣りをくれるのにね!)
心の中で故郷の自慢をしつつ、リヴァンティアの役人の不正を嘆く。
テントを出て、そのまま指定の場所へ向かう。
僕が場所取りを終えると、セリウスくんが燃料やら水やらを運んできた。
燃料はラクダのフンを乾燥させたものだ。
リヴァンティアではよく使われる燃料らしい。
それから二人で、場所を確保しつつ、交互に材料を運んだ。
肝心のペンネは『交易都市メルヴ』の名義で借りている倉庫に置いてある。
メルヴの兵もいるので、安心安全だ。
メルヴの兵も何人か手伝ってくれた。
それから昼を待つ。
砂漠の気温はどんどん上がっていく。
いつでもペンネを作れるように、火種を絶やさずに見張っているのはなかなか苦労した。
昼になってしまうと、暑すぎるのでバザールは休憩になる。
そして、また夕方近くに再開される。
セリウスくんが買ってきたソースの材料は、ニンニクとオリーブオイルと唐辛子だった。
セリウスくんのほうも、包丁を研ぎながら待機していた。
やがて昼前になり、暑くなるとバザールも空いてくる。
そろそろ休憩の時間だ。
そんな中、宮殿の兵と思われる人たちが、僕の販売スペースを取り囲んだ。
兵たちは頭に白い布を巻いていた。
おそらく暑さ対策だろう。
皆が白い服を着ており、皮鎧にシミター(三日月のように反りのある剣)を腰につけている。
(明らかに重要人物の護衛だろうな)
その兵の中に、赤と白のサリーを着て、口元を赤い布で隠した少女がいた。
少女は護衛の兵士を何人か連れて、ペンネを茹でる鍋の前にくる。
「妾はペンネを所望するっ!」
間違いない、今朝聞いたファリーナちゃんの声だ!
普通の人には見えないようだけど、青白い権能のオーラもある。
「わかりましたっ! このオーロラハイドのレオンの実演販売、とくとご覧あれっ!」
僕は鍋の火力を上げるために燃料を足した。
(たのむよっ! ハッサンさんから教わった実演販売!)
サリーの下からのぞくファリーナちゃんの目が、好奇心で輝いていた。




