リヴァンティアへ
【レオン視点】
『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、4月26日 早朝』
僕とセリウスくんとサイードさんは、メルヴの南門から、リヴァンティアへ向けて出発するところだった。
あたりは朝もやが立ち込めており、空気はヒンヤリとしている。
見送りには狐のハッサン総督が来ていた。
「レオン様、いちおう護衛のラクダ騎兵10騎をつけてありますが、何かあったらメルヴまでお逃げください! メルヴの兵1万が必ず力になります!」
ハッサンが自分の胸をドンと叩く。
「わかりました。何かあったらお願いいたしますね! でもリヴァンティアへ行ったことのあるサイードさんが案内してくれるのでしょう? 大丈夫ですよ!」
ちょっとハッサンさんは心配性のようだ。
僕はしゃがんでいるラクダに横から乗り込む。
頭の良いラクダらしく、僕が乗ったのを感じて、すっと立ち上がる。
「サイード! くれぐれもレオン殿とセリウス殿を頼むぞい!」
ハッサンが自分の息子に念をおす。
「はははっ、心配いらねぇって親父。盗賊なら、定期的にメルヴの騎兵が片付けてるじゃないか! じゃ出発だ!」
サイードさんのラクダを先頭に、50頭のラクダからなるキャラバンと護衛は出発した。
リヴァンティアでは、ラクダ51頭から税金が上がる。
50頭までは、規模の普通のキャラバンとして、税金が優遇されていた。
本当は100頭のキャラバンを組んだほうが、一度に大量輸送できて良いのだが、今回の真の目的は『国交の樹立』であり、商売はそのついでだ。
ハッサンの要望で、ラクダ50頭分のペンネをメルヴで売りたいとの要望もあった。
やがてメルヴが遠のく。
僕たちが見えなくなるまでハッサンは手を振っていた。
暇になってサイードさんの方を向く。
「ねえ、サイードさん。どうしてラクダ51頭からは税金が高くなるの?」
素朴な疑問だった。
大量に品物が運ばれた方が、リヴァンティアも儲かりそうなものなのに、制限している理由がよくわからなかった。
「ああ、レオン殿。それは家畜も水を消費するからだ。砂漠じゃあ、何と言っても水が大事だからな!」
「なるほど!」
僕は納得した。
確かに砂漠では水が最も大切だろう。
『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、5月6日 早朝』
リヴァンティアについてあれこれと語りながら10日が過ぎると、中継地点であるロヴァニアへ到着した。
メルヴ草原
メルヴ(リベルタス国)
〇ーーーーーーーーー
| オーロラハイド行
砂漠 |
|
|
オアシス地帯 オアシス地帯 砂漠地帯 |
ーーー〇ーーーーーーーーー〇ーーーーーーーーーー〇ロヴァニア
アークディオン リヴァンティア |(フェリカ国)
|
砂漠 |
|
| ヴェリシア行
〇ーーーーーーーー
バロン男爵領
(フェリカ国)
砂岩で作られた小ぶりな城門からロヴァニアの街へ入る。
ロヴァニアを治めるロヴァニア伯は、フェリカ王国の貴族だ。
「エドワードおじいちゃんの国だよ。いちおう、ロヴァニア伯へご挨拶にいこう!」
僕の提案で、そこそこ活気のある市場を抜け、ロヴァニアの城へ向かう。
城の前には、ハルバードを持った皮鎧の兵士が二人いた。
「すみません! オーロラハイドから来たレオンという者ですが、ロヴァニア伯はいらっしゃいますか?」
「オーロラハイド? あんな遠方から客がくるものか! シッシッ! 失せろ!」
しかし、門番の返事はそっけないものだった。
「は、はぁ、ご迷惑をおかけしました!」
僕は小さく頭を下げた。
「どうしよう? サイードさん」
「うーん、仕方ないから宿へいこうぜ!」
それから宿の部屋を取ると泊った。
僕は宿で水を頼んだのだが、水が高くてビックリする。
価格表を見ると、ワインのほうが安かった。
それでも水が欲しくて、高いけど買って飲む。
僕たちは久しぶりのベッドでぐっすり寝て、体力を回復させる。
翌日、ロヴァニアには用は無いとばかりに、さっそくリヴァンティアへ向かう。
ここからが本格的な砂漠地帯だ。
昼の日差しはキツく、逆に夜は恐ろしく寒い。
僕はラクダに寄り添うそうにして眠った。
(ラクダって、思ったより暖かくて優しいのね)
『リベルタス歴17年、フェリカ歴136年、5月19日 昼』
12日をかけて、ようやく砂岩でできた都市リヴァンティアが見えてくる。
どうやら砂漠を流れる川沿いの都市のようだ。
僕たちはさすがにしゃべる元気はない。
それでもラクダたちは、水が飲めると本能的に悟ったのか、歩みが気持ち速くなる。
ジリジリと照り付ける太陽が、僕たちをあざ笑っているような気がした。