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56.「知恵の女神」

神代が、電話で熱心に話している。

電話の相手は、副署長の船越だ。


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。


 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。


 =====================================


 午後10時。神代家。

 神代が、電話で熱心に話している。

 電話の相手は、副署長の船越だ。

「大丈夫やて、栄ちゃん。あの子は、人の『痛み』が分かる子や。分かりすぎて、苦しむこともある。京大受かった時もな。一緒に受験した同級生がスベってな。ウチ、いかへん!言うからほっぺた叩いた。その子もな。『ウチの分も勉強して。そうでないと、絶交や。』言うたんや。それが小雪ちゃんや。今でも仲良しのな。恩師が罪犯した時も、迷惑かけたな。」

「かなりの精神力で、お嬢は乗り切りました。私はピンチヒッターやっただけ。今回も。信じてますよ、お嬢を。」

「そうか。おおきに。今な。おにぎり作ってんねん。家帰るとすぐ、部屋に入って寝たけどな、夜中に腹減って、出てくるねん。」

「よう分かってますな、署長。梅干しありますか?ストレス多いときは梅干しが一番です。」「少しだけ残ってるわ。」「そしたら、注文しときますわ。お休みなさい。」

 副署長船越の親戚は、梅干しの老舗用進堂だ。今から注文して、明日の朝届けさせるに違い無い。

 チエは性犯罪に特に厳しい。それは、自分自身が被害者になりかけたからだ。

 復讐やリンチはしない。飽くまでも「懲らしめ」程度のことをし、反省をさせる。

 それが、チエのやり方だ。時々、暴走するが、周囲の助けがあるからこそ、やって来られた。

 いずれは、『武者修行』に行かさなければいけない。

 ファザコンのままなら、チエは警視にまでなれなかった。

 今はまだ、『知恵の女神』アテナの抱き枕で寝ているかな?

 抱き枕は、婚約者の白鳥が、どこかの土産に買って来たものだ。

 気配を感じた神代は、トイレに入った。

 ゆっくり用を足した後、出て行くと、チエは夢中で、おにぎりを頬張っていた。

「ちゃん、明日な。日曜日やろ?」「うん。」

「先生のとこ行って来るわ。」「了解。」そう言って、神代は冷蔵庫から梅干しを出した。

「あ。もう1個しかあれへん。買うておかな。」「もう、注文したよ。用進堂。」

「手回しええな。」「わしを誰やと思うてんねん。」「ちゃん。」

「お前には勝てん。明日、ゆっくり行っておいで。」「うん。」

 仲が良すぎる親子だった。

 ―完―



今はまだ、『知恵の女神』アテナの抱き枕で寝ているかな?

抱き枕は、婚約者の白鳥が、どこかの土産に買って来たものだ。


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