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54.乱闘

館内電話を受け取っていた署長と、芸者ネットワークとのホットラインの電話を受け取っていた副署長が同時に叫んだ。

「新京極で外国人が乱闘?」


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。


 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。

 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 島代子・・・芸者ネットワーク代表。

 中町巡査・・・茂原の交代要員だったが、そのまま勤務している巡査。

 遊佐圭祐・・・チエの幼なじみ。大学同級生。CATV『きょうとのテレビ』の広報課課長。

 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。白鳥の父。

 金平桂子・・・京都市市長。

 子鹿・・・小雪の仲間の芸者。

 刑部政男・・・京都地検特別刑事部の警部補。


 =====================================


 ※新京極とは

 1872年に京都府参事槇村正直によって作られた比較的新しい通りである。かつては広大な寺域を誇った時宗十二派の四条派の金蓮寺が、18世紀末から寺域の切り売りをはじめ、明治以前に売却地に料亭・飲食店・商店・見世物小屋が建っていた。一つ隣の寺町通(寺町京極)に集まる寺院の境内が、縁日の舞台として利用されるようになり、人が多く集まったため、各寺院の境内を整理し、寺町通のすぐ東側に新しく道路を造ったのが新京極通のはじまりである。明治の中頃には見世物小屋や芝居小屋が建ち並び、現在の繁華街の原型ができた。

 かつては、京都方面の修学旅行のコースに取り入れられるようになったため、修学旅行の中高生の行き来の絶えない所となり、老舗もあり地元の者も訪れる隣の寺町京極に比べて、新京極は那覇市の国際通りなどと同様の観光客向けの通りとなり、地元の者が利用することはほとんどなかった。しかし近年では、観光客向けの土産物店の他、飲食店、ファッション洋品店が混在し、若年層向けの店舗が目立つようになった。また、松竹座に代表される老舗の映画館が、ようやく、シネコンへの改装を果たし、新しいニーズに合った街へと変貌しつつある。


 三条通から四条通までが路上喫煙等禁止区域である。


 午後1時。東山署。会議室。

 館内電話を受け取っていた署長と、芸者ネットワークとのホットラインの電話を受け取っていた副署長が同時に叫んだ。

「新京極で外国人が乱闘?」

 午後1時半。新京極商店街。

 四条河原町方面から、茂原達と走って来たチエは、意外な人物を入口付近で見た。

「待ってましたよ、あばれ・・・戸部警視。府警本部に応援依頼をしたのは私です。」

「刑部さんが?」

「場所は、『真ん中辺り』の『ろっくんプラザ 新京極六角公園』。昔は、こんな粋なものは無かったんですけどね。行きましょう。」

 刑部は、京都地検特別刑事部の警部補で、普段は、反社半グレの特殊な犯罪の証拠固めに奔走している。

 芸者ネットワークに偽物が現れた位だから、その世界では恐れられているのだろう。

 チエ、楠田、茂原、中町、刑部が到着すると、現場には、2人の芸者と1人の女性を隅に押しやり、ヤクザと外国人が見張りについている。そして、手前のは拳銃を持った外国人のグループと日本刀を持ったヤクザのグループが睨み合っている。

 新京極商店街は、南北の入口を封鎖してあるが、抜け道は沢山ある。

 色んな店がリニューアルして、今はシネコンまである。

 チエは、一瞬で状況を理解した。芸者は小雪と小鹿、側にいる女性は市長だ。

 少し離れたところに、幼なじみの遊佐がいる。

 チエは、遊佐に目で合図を送った。

 遊佐は、何事か始まるのだな、と覚悟して頷いた。

 五分後。北側から忍者が現れた。

 そこへ、南側から、白鳥が『百枚漬け』が入った桶を三輪バイクに乗せて走ってきた。

 忍者達は、迷わず、日本刀を持ったヤクザの顔目がけて『百枚漬け』を投げた。

 ヤクザ達が仰け反った所を、茂原・中町を踏み台にして跳躍したチエが手刀で日本刀を叩き落とした。

 振り返って、拳銃を構えている外国人グループに向かって、チエは叫んだ。

 "There are no bullets in it." (弾は入っていない。)

 ギョッとして、下を向いた外国人グループに突進したチエは、平手打ちや肘鉄を食らわせた。

 男達は、その場に倒れた。それを見た小雪と小鹿は、見張りの者達に肘鉄を食らわせて、市長と共に逃げた。

「ヤク絡みがあるから、こいつらのガラは貰うよ、警視。」

 刑部と部下達は、ヤクザ達を連れて連行して行った。

 茂原に指示された府警の警察官は、外国人グループを逮捕連行していった。

 市長は、チエに抱きついて「ありがとう、警視。」と言い、小声で「マスコミが何か言うようなら、私が何とかするわ。お父さまの為にもね。」と囁いた。

 忍者達は、いつの間にかいなくなっていた。

 百枚漬けが散乱していたが、チエは黙って拾い集め始めた。

 白鳥も手伝った。茂原も、中道も楠田も。

 そして、小雪も小鹿も、市長も。

 見ていた野次馬達も手伝い始めて、桶は満杯になった。

 満杯になった時、白鳥が運んで来た桶の側に立った、百枚漬けの店の社長村山がチエに言った。

「後は引き受けました。『鞍馬の牛若丸』はん。大事に扱ってくれてありがとう。」

 午後5時。東山署。取り調べ室外。

 副署長が満面の笑みで、白鳥や小雪に言った。

「村山堂さんがな。百枚漬け、仰山くれたで。皆、お土産に持って帰ろうな。」

「副署長。それって・・。」

「心配ない。投げたんは、百枚漬けとちゃう。桶は本物やけどな。カットした残りの大根や。撮影用の大根や。東栄の忍者さんは、本物の忍者さんと違うけど、本物の東栄の役者さんや。地べたには投げへんかったんやろ?」

「はい。成程。チエちゃんが島さんに打ち合せしてたんですね。」

「ウチは、洗ったら皆食べられる思うたわ。」

 やがて、取り調べ室の『咆哮』が止み、茂原と中町はオムツを持って、取り調べ室にひっていき、入れ替わりにチエが出てきた。

 小雪が缶コーヒーを渡すと、「よう短い時間で打ち合せ出来たな、チエちゃん。」とチエに言うと、「手旗信号や。」と、平然とチエは言い放った。

 副署長が缶コーヒーを吹き出した。

 ―完―






「心配ない。投げたんは、百枚漬けとちゃう。桶は本物やけどな。カットした残りの大根や。撮影用の大根や。東栄の忍者さんは、本物の忍者さんと違うけど、本物の東栄の役者さんや。地べたには投げへんかったんやろ?」

「はい。成程。チエちゃんが島さんに打ち合せしてたんですね。」


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