表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/70

39.『鞍馬の牛若丸』

「ちゃん。芸者ネットワーク、明日明後日休むって。スポンサーの旦那の1人が亡くなったらしい。明日明後日がお通夜告別式。殺されたらしい。京丹後市。経ケ岬灯台で。泣いてた。」

 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。

 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 子鹿・・・小雪の仲間の芸者。

 島代子たいこ・・・芸者ネットワーク社長。

 中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。

 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。

 熱田順子・・・劇団の劇団員。小雪の中学の時の同級生。

 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。

 金城神父・・・チエが日曜学校に通っていた頃の神父。

 遊佐圭祐・・・チエの幼なじみ。大学同級生。CATV『きょうとのテレビ』の広報課課長。

 藤原真吉・・・チエの幼なじみ。チエは弟分のように思っている。

 灘康夫・・・京都府知事。元作家。「康夫ちゃん」のニックネームがある。

 金平桂子・・・京都市市長。


 =====================================


 ※北野天満宮は、天暦元年(947)に創建された、全国に約1万2000社ある天神社・天満宮の総本社。平安時代に学者・政治家として活躍した菅原道真公を御祭神とし、現在は学問の神様としての信仰が厚いため、多くの受験生らが参拝に訪れる。国宝である御本殿は豊臣秀頼公が造営したもので、八棟造と称される絢爛豪華けんらんごうかな桃山建築。毎月25日の縁日では宝物殿の特別公開が行われ、境内には多くの露店が立ち並んでにぎわいを見せる。また、梅と紅葉の名所としても名高い。

 ※西陣にしじんとは京都府京都市上京区から北区にわたる地域の名称。「西陣」という行政区域はない。高級絹織物の西陣織発祥の地であり、織物産業が集中する地域である。


 午前9時。東山署。会議室。

 芸者ネットワークのホットラインが鳴った。

 民間会社とのホットラインは、本来ならあり得ないことなので、府警の大前田と東山署の捜査員以外は知らないルートの『タレコミ情報』だ。

 今日は、チエが出た。

「え?休み・・・そうですか。お大事に。」

 電話を切ったチエに、神代は尋ねた。「どうした、チエ。」

「ちゃん。芸者ネットワーク、明日明後日休むって。スポンサーの旦那の1人が亡くなったらしい。明日明後日がお通夜告別式。殺されたらしい。京丹後市。経ケ岬灯台で。泣いてた。」

「そら泣くやろ。エライ遠いな。京丹後市やったら、ウチは干渉出来へんな。あちらから協力要請でんことには。」

「署長。天橋立よりまだ向こう。車で1時間ありますな。ここからやと・・・。」

「茂原。まだ協力体制ちゃうやろ。」茂原の言葉を遮り神代は言った。

「チエも辛抱しいや。心配やろうけど。」「うん。」

「取り敢えず、大間田に進捗聞いとくわ。」

 署長の神代と府警本部長の大前田は昔からの友人で、チエは、息子の許嫁で、親同士の婚約を嫌がらず交際をし、愛し合っている。

 午前10時。チエの執務室。

 チエは所謂キャリア組である。普段、あまりいないが、チエ専用の個室だ。

 小雪から、チエのスマホに電話がかかって来た。

「子鹿ちゃんからの情報。代子さんのスポンサーの迫水徳之助さん、『西陣織の系譜』の社長さんが殺された件やけど、ウチ、うっかり小耳に挟んだの。お座敷に来てたお客さんのお連れさんが、藤下いう、社長さんとこの専務で、横領がばれたから北野天満宮に呼び出さして、殺さしたこと自慢してはったの。無関係のことやったら、代子ねえさんとこに情報流すけど、ねえさん当事者みたいなもんやから・・・小雪ちゃんに相談したら、取り敢えずチエちゃんに報告したら、言うから。」

「社長さんのお通夜、どこのお寺さん?上京区?」

「ううん。北区。北山大橋の近く。」

「子鹿ちゃん、誰にもこのこと言わんとき。命危ないから。」

「やあ、いややわあ。ほな、チエちゃん、頼むな。

 チエは、方々に電話を掛けまくった、部屋の電話で。

 翌日。午後6時。北区。北山大橋近くの『永劫寺』。

 記帳受付。小雪が弔問客の内、2人を呼び止め、「喪主の縁者が特別にお話をしたいと申しております。」と言って、別館のような裏手に案内した。

 その2人は、当て身を食らい、気を失った。

 北山大橋。

 2人が目を覚ますと、故人の会社の専務である藤下と一緒にロープで括られていた。

 辺りには、誰もいない。

 実は、この時、橋の両側は『工事中』の看板とコーンが立っていた。

 3人に向かって話かけてきたのは、狐の面を被った、妙な出で立ちの男だった。

 藤井は、思い出した。首から下は、時代劇で見た『牛若丸』の格好だった。

「私は『鞍馬の牛若丸』と呼ばれている。天満宮に呼び出し、海の近くで『旦那』を殺し、海に沈めたのは、お前らだな。」

 3人は、一様に首を振った。

『鞍馬の牛若丸』は、根気よく自白を迫った。

 1時間半が経った。葬儀に間に合わないと叫んでいた藤井が、とうとう根を上げた。

 藤井は、腎臓の持病があり、尿意が満ちてくると落ち着かなくなる。

 とうとう、チビリながら、他の2人に殺しを依頼したことを自白した。

「はい、カット!!」という声が聞こえた。

 すると、黒衣衣装を着た黒子がやって来て、また3人に当て身を食らわせた。

「シンちゃん、芝居上手いじゃない。」「少しの間だけど、役者だったからね。」

 遊佐と真吉の声が聞こえたかどうかは分からないが、藤井は失禁していた。

 午後9時。京都府警の前。

 ライトバンがいつの間にか止まっていて、車体には『西陣織の系譜』という文字が入っていた。

 大前田警視正が、灘府知事と金平市長と連れだって出て行くところだった。

「こんなところにライトバンが。駐車違反じゃないのかな?」と灘が車内を見ると、男3人が後部に転がっている。

 一緒に来た白鳥が、「あ。何かフリップ・・・スケッチブックかな。書いてあるのは、『この3人が、西陣織の系譜社長殺害の犯人です。鞍馬の牛若丸。』ですね。」と、読んだ。

「まるで、ドラマね。」金平市長が言った。

「新年会はお預けですな。純一郎、中に運ばせろ。取り敢えず、『事情聴取』だ。」と、大前田は言った。

 午後9時。神代家。

 大前田家から届いた雑煮を平らげ、ご満悦の神代は「何か変やな。『鞍馬の牛若丸』って、今度ケーブルテレビで始まるドラマのタイトルと違ったか?」

「パクリやな。お風呂から上がったら、あずきバー食べような。」

 神代は、全てを知っていた。

 大前田が、怪しんで、部下が取り調べ中、真相を聞き出し、神代に連絡したからだ。

 今回の『旦那殺人事件』の解決編は、チエが仕組んだことで、チエの『ネットワーク』がフルに活躍したのだ。

 京都に戻っていた熱田順子の劇団、ケーブルテレビの遊佐、今はコンビニ経営者で芝居経験のある真吉が全ての『お膳立て』と『片づけ』を行ったのは、賢明な読者の推察通りである。

 入浴前、チエのスマホにメールが届いた。島からだった。

「チエちゃん、ありがとう。」そんなタイトルだった。

 ―完―



大前田家から届いた雑煮を平らげ、ご満悦の神代は「何か変やな。『鞍馬の牛若丸』って、今度ケーブルテレビで始まるドラマのタイトルと違ったか?」

「パクリやな。お風呂から上がったら、あずきバー食べような。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ