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33.狂信

チエは、お参りしてから、イチョウ並木を堪能していた。

突然、スマホが鳴動した。署ではない、芸者ネットワークだ。

小雪が泣きながら言った。「チエちゃん、私、悲しい。」「どうしたん?」


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。

 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。

 大前田警視正・・・京都府警本部長。

 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。

 島代子しまたいこ・・・芸者ネットワーク代表。元芸者で元プログラマー。小雪の先輩らしいが、小雪以外には、本名は知られていない。また、本部の住所も極秘である。

 飽くまでも、私的組織だが、警察にはチエを通じて協力している。可能なのは、情報提供だけである。現地調査が必要な場合は、小雪や、後輩芸者が動く。


 =====================================


 午前8時。下鴨神社。

 チエは、お参りしてから、イチョウ並木を堪能していた。

 突然、スマホが鳴動した。署ではない、芸者ネットワークだ。

 小雪が泣きながら言った。「チエちゃん、私、悲しい。」「どうしたん?」

 電話口に、島が出た。「島です。永福寺・蛸薬師堂の方に『本能寺跡』の石碑があるでしょ?」

「ええ。」「そこにね、毎日お参りして液体かける女の人達がいるって言うから、小雪ちゃんに見に行って貰ったの。そしたら、臭うのよ。どこから臭うのかって思ったら、石碑。液体の正体は『お小水』、つまり、オシッコだったの。その付近をよく通る人に尋ねて回ったら、手水桶ちょうずおけに柄杓入れて歩いていたけど、その近くから臭っていたって言うの。詰まり、水桶持って来て『お参り』していた訳じゃ無いの。蛸薬師堂にお参りに行くのに持って行くのも変だな、って、その人が言ったって言うの。毎日、それが続いているようだけど、日替わりで女がやってくる、って言うの。外国人観光客じゃないの、今回は。」

「いつ頃?」「決まって午前9時。軽犯罪になるかも知れないけど、出来れば止めさせたいわね。外国人観光客の模倣犯が出たら、もっと過激なことやらかすかも知れないしねえ。」

「了解しました。いつもありがとうございます。」

 チエは、側にいた楠田に、「行くわよ。」と声をかけた。

 出勤後なら、父の警視正(署長)に相談するところだが、パトカーの中から、署にかけた。

「ふむ。聞き捨てならん事態やな。とにかく取り押さえろ。茂原達をそこに応援に行かせるよ。」

 午前9時。本能寺跡石碑。

「そこには、神さんも仏さんもおらんよ。」

 臭った手水桶を持った、和服の女が振り向き、「そうなんですか?でも、信長様はおられるんですよね。」と言った。

 楠田は、瞬間、狂ってるな、こいつ、と思った。

「取り敢えず、今日は『お休み』するのはどうかな?信長様は、動かへんやろうし。」そう言って、チエは女に当て身を食らわせた。

 午後5時。東山署。会議室。

 管内電話が鳴った。署長は暫く話していたが、「病院からや。やっぱり薬物中毒で一時的に錯乱状態やったらしい。何か話したいことがあるそうや。茂原・・・はもう帰ったな。」

 副署長の船越が、「ほな、私がお嬢と行って来ますわ。」と進み出た。

 午後5時半。パトカーの中。

「何か嬉しそうやナア、船越のオッチャン。」「お嬢とデートするの、久しぶりやから。ルンルン気分や。」「ルンルン?」「ルンルン♪」

 午後6時。中京区。悲喜病院。

 医師と看護師の付き添いの下、2人で事情聴取をした。

「私、レイプされたのを思い出しました。それで、何か注射されて・・・どこかに監禁されてたみたいやけど、『大丈夫ですか?助けに来ました』って言って助けてくれた男の人について行って、変なお香焚いてる会場で、熱弁する人を見たんです。それで、信長様を成仏させるのは、貴方たちの役目です、って言われて・・・集団生活している仲間と当番決めて、『聖水』をかけに行ってたんです。私、『メバチこ』出来てたから、早く正気になれたんかなあ。」

 医師が苦笑して、「『メバチこ』かどうかは分からないけど、処置しました。注射されてた幻覚剤の分量の影響かも知れませんね。」と言った。

「お嬢。所持品に地図があったよ。」船越は、スマホに写した地図を見せた。

「この場所から手水桶運んだんやな。500メーターくらいかな?オッチャン、宗教団体探して。」「了解。」

「この人がまた何か思い出したようなら、教えて。」チエは立ち会った白鳥に後を託した。

 午後7時。中京区。あるキリスト教会跡。

『また明日の会』の看板が出ている。宗教団体の体裁だが、認可されていない宗教団体だった。『総化学の会』から別れたと標榜していたが、無関係らしい。

 異様な臭いと照明だった。

 警察官達は、無遠慮に逮捕連行して行った。

「放って置くと『インコ聖教』みたいになる。全員逮捕や。」

 指揮は、大前田本部長自ら執った。

 午後9時。神代家。

 NewTubeやTVのニュースで、逮捕が報道された。

 風呂から出た2人は、それを見ながら、アイスを食べた。

「薬抜けても、後遺症が出るかも知れんな。教祖は、織田信長のファンやったらしい。裁判になったら、長引くな。」

「私は、太閤さんの方がええな。」「聞いてへんし。」

 2人は爆笑した。

 ―完―


『また明日の会』の看板が出ている。宗教団体の体裁だが、認可されていない宗教団体だった。『総化学の会』から別れたと標榜していたが、無関係らしい。

異様な臭いと照明だった。

警察官達は、無遠慮に逮捕連行して行った。


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