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3.無双

「この人、痴漢よー。誰かー。」と言って、通勤途上の男性サラリーマンが、1人のOL女性に無理矢理連れ出されて、列車から駅に降りた。

ガシャッ!!


 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、祇園交番に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。

 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。

 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。


 =====================================


 午前7時。JR京都駅。駅のホーム。

「この人、痴漢よー。誰かー。」と言って、通勤途上の男性サラリーマンが、1人のOL女性に無理矢理連れ出されて、列車から駅に降りた。

 ガシャッ!!

 OL女性の手首に、冷たいものが降ろされた。

 黒い女性用スーツを着た女性がニッと笑った。手錠をかけた手と違う方の手で、その女性は警察手帳を差し出し、言った。

「音無今日子。詐欺現行犯で逮捕する。あんたは、行ってええよ。会社に遅れるやろ?」と、男性サラリーマンにウインクした。

 京都駅。駅長室。

「つい出来心やとぉ!!!お前、何人分の『えん罪』で稼いだ?100万か?200万か?お前が福島駅で乗ってから、ずっと見張ってたんや。あの人は、お前に指1本触れてへん。他の男性もや。その、他の男性は皆警察官や。『間違えました』って言い訳もできへんぞ。あ。嘘泣きは止めときや。男の警察官やったら、通じるかも知れんが、女性警察官を舐めるなよ。」

「お嬢。その位にしときや。いくら前科五犯でもなあ。取り調べ室でする仕事や。後は任しといてんか。」

「バラさんが、そう言うならな。今日は、この位にしといたるわ。」

 黒い女性用スーツを着た、戸部チエは、さっさと出て行った。

 バラさんと呼ばれた、ベテラン刑事、茂原太助は、逮捕された女にこう言った。

「運が悪かった、って思うてるやろ?運は良かったんや。取り調べは、俺が担当したるからな。カメラの回ってる前で。」「カメラ?」

「知らんのか?そうか、知らんか?この間、『閣議決定』したんや。セキュリティークリアランスとかでな。密室での取調べは御法度や。録画も録音もされる。もし、裁判とかになったら、提出するっちゅう訳や。あんたの、今の犯行も録画しといたから。お父さんお母さんに書く手紙の文章でも考えとき。」

 女は泣いたが、構わず茂原と相棒の刑事は、駅長室から女を連行した。

 午前10時。東山署。署長室。

「そやかて、ちゃん。相手は『性悪女』やで。男の敵だけとちゃう。『女の武器』使った犯罪者や。ビンタもデコピンもしっぺもしてへんで。」

「チエ。その、『ちゃん』だけは止めて欲しいんやけど。時代劇みたいや。『大五郎』と違って、お前はチエやで。おばあはんが付けてくれた、ええ名前やで。」

 そこに、副署長の船越が顔を出した。

「大前田警視正が、及びです、署長。」「どこにいてはるんや?」「自販機の前。」

「また、ココアがないぞ、って嫌味言う気か?」「いや、お嬢のことと思いますけど。」

 船越の言葉に、憮然として、神代署長は出て行った。神代署長は、実はチエの実の父親である。その為、チエが警視になったのは、身内のえこひいきだと噂されている。だが、チエは、四年制大学を出て、警察学校をトップの成績で卒業したキャリアで、しかも、検挙率完落ち率100%という前人未踏の業績がある。署内のマラソン大会で、ゼッケンに『無双』と書いてあった為、暫く無双と呼ばれていたが、いつの間にか『暴れん坊小町』とあだ名されるようになった。「小町」というあだ名は、京都の葵祭の“ヒロイン”斎王代からで、粗暴な言動から、暴れん坊が前に付いた。

 自販機の前に来ると、大前田警視正が署長を持っていた。大前田警視正は、大きな事件が起ると本部長を勤める大物だが、署長とは、小学校時代からの友人だ。

「チエちゃんな。『マトリ』の転籍、断られた。ペーパーだけやと実績買われるとこやけど、素行が口コミで広まってるんや。ごめんな、宗佑。」

「まあ、しゃあないわな。大阪の小柳にも打診してるけどな。」

 そこへ、小町がやって来た。自販機の前まで来ると、「2人とも、ちょっと下がって。」と言った。

 2人が自販機から離れると、小町は助走をつけて走り、自販機をキックした。

 すると、『売切』ランプの幾つかが消えた。

「これな、ちょっと詰まると売り切れに変わってしまうねん。パトロール行って来ます、署長。」と、小町は敬礼した。「うむ、ご苦労さん。」署長は仕方無く敬礼を返した。

 小町が出て行くと、机の下に隠れていた署員は、何事も無かったかのように、仕事を再開した。まるで、地震の後みたいやな、と署長は呟いた。

 大前田警視正は、売り切れで無くなったココアを買うのも忘れ、外をそっと伺ってから、出て行った。

 署内に『平和』が戻った。

 ―完―



2人が自販機から離れると、小町は助走をつけて走り、自販機をキックした。

すると、『売切』ランプの幾つかが消えた。


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