愛しい彼女がお弁当を作ってきてくれましたが、中にはゆでたまごしか入ってませんでした
こちらはコロン様主宰「たまご祭り」参加作品です。
「たくみくん。はい、これどうぞ」
昼休み。
校舎の屋上で僕のかわいい彼女まどかちゃんがお弁当箱を差し出してきた。
「……え? これって」
「たくみくんのために作ってきたの」
そう言って差し出すまどかちゃんの指には無数の絆創膏が貼ってある。
「朝4時に起きて頑張って作ったんだ」
まどかちゃん!
「たくみくんのお口に合うかわからないけど」
まどかちゃん!!
「召し上がれ」
まどかちゅわ~ん!!!!
なにこれ、天使か?
天使が空から舞い降りたのか?
まどかちゃんは校内一の美少女で、品行方正、成績優秀、運動神経抜群という神が二物も三物も与えたもうた完璧人間。
そんなまどかちゃんが僕のためにお弁当まで作ってきてくれるなんて。
もう天使を通り越して女神だろ。
「ありがとう、まどかちゃん」
そう言ってお弁当を受け取った僕は、ドキドキしながらフタを開けた。
すると、中にはゆでたまごが一個だけ入っていた。
ゆ で た ま ご が 一 個 だ け 入 っ て い た。
「………………」
黙ってフタをする。
そしてもう一度開けて見た。
ゆでたまごが一個だけ入っている。
「………………」
何度見ても結果は同じだった。
ゆでたまごがコロンと転がっている。
ご丁寧に、塩の入った袋までついている。
「あ、あの、まどかちゃん?」
「なあに? たくみくん」
「……これ、ゆでたまごだよね?」
「そうよ! ゆでたまご!」
「……朝4時に起きて作ったって言ってたけど」
「うん! たくみくんのために頑張って作ったの。きゃ♡」
ツッコめない!
「これ、茹でるだけだよね?」なんてツッコめない!
いや、もしかしたらこのたまご自体がかなり特殊で入手しづらいものなのかもしれない。
そう思って念のため尋ねてみた。
「まどかちゃんの家って、もしかして鶏飼ってたりする?」
「ううん、飼ってないよ?」
「このたまごが超高級品だったりとか……」
「スーパーの賞味期限間近の見切り品に置いてあったやつだよ?」
そっかー、賞味期限間近の見切り品に置いてあったやつかー。
質素倹約をモットーとするまどかちゃん、最高だぜ。
「もしかしてたくみくん、ゆでたまご嫌いだった?」
「ううん! ううん! ゆでたまご大好き! 世界一好き! もう毎日ゆでたまごでもいいっていうくらい好き!」
世界一はウソだけど。
「よかった~。苦手だったらどうしようかと思っちゃった」
何をしたら指が絆創膏だらけになるのか謎だったが、まどかちゃんがせっかく作ってきてくれたのだ。
僕はゆでたまごに塩を振って「いただきまーす」と言いながらかぶりついた。
塩のしょっぱさとゆでたまごの白身の優しい味が口内に広がる。
うん、ゆでたまごだ。
これは、まごうことなきゆでたまごだ。
ゆでたまごの味しかしない。
「おいしい?」
「うん、最高です……」
中の黄身はカッチカチに固まっており、長時間沸騰したお湯で茹でられていたことがうかがえる。
「うふふ、よかった」
そう言って笑うまどかちゃん。
天使のようなその笑顔を見て、僕はお弁当の中身がゆでたまごだったことなんてどうでもよくなってきた。
むしろ、このゆでたまごがまどかちゃんの手で作られたということのほうが嬉しい。
ムシャムシャ、ムシャムシャと一心不乱に食べ終えた僕は、まどかちゃんに言った。
「ごちそうさま。最高のゆでたまごだったよ」
「ほんと? 嬉しい! じゃあ明日から毎日作ってきてあげるね!」
ちょっと待てーい!
「いやいやいやいや! そんな悪いよ!」
「ううん、私がたくみくんのために作りたいの」
「毎朝4時に起きたらまどかちゃんが死んじゃうよ!」
「たくみくんのためなら死もいとわないわ」
……いや、いとおうよ。
ゆでたまご作るために死んじゃうのはさすがにアレだよ。
「でもたくみくんがそこまで心配してくれるなら、週一にしようかな?」
「うん! うん! そうして! 月一でもいいよ!」
正直、お昼ご飯がゆでたまご一個だけなんて、全然足りないし。
今日、放課後まで保つかしら?
「じゃあ、また今度作ってきたら食べてね」
「オ、オッス! 楽しみにしてるね!」
そんなまどかちゃんは、週一と言わず二、三日おきにゆでたまごを作ってきてくれた。
気持ちはすごく嬉しいんだけど、これだけは言いたい。
「なんでゆでたまごオンリーなんだよー!」と。
その後、主人公も彼女のためにお弁当を作ることにしましたとさ。
めでたしめでたし。
お読みいただきありがとうございました。
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