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いつも通りの時間。いつも通り。いつも通りを心がける。少しでも違和感を持たれると困るからだ。いつも通りチャイムを押す。いつも通りの執事の声が聞こえ、いつも通り門が開けられ、いつも通りの部屋に通される。
予定だった。今日はいつも通りとはいかないらしい。それはそうである。なぜなら三ノ宮菜花さんはこの家にはいないので、いつも通り菜花さんの部屋へと案内されるわけが無いのだ。しかしここで何もリアクションしないと疑われかねないので、ちゃんといつもの場所じゃないんですね〜なんて言っておく。通された部屋は以下にも食卓。しかし、一般家庭で見るようなサイズではなく、両脇に8人。前と後ろに1人ずつ座れる。縦長になった食卓である。大きなモニターも見受けられるので、家内会議等に使われているのだろう。その食卓の、1人席。所謂下座の方に座るように促された。すげぇ。ふっかふかだな。あの時のベッドを思い出すようだ。なんて、くだらないことを考えていると奥の扉が開かれてスーツを着た一人の男が入ってきた。年齢はおそらく50歳前後。しかし、そうとは思えないほど引き締まった肉体。生やされている髭もオシャレに見える。この人が三ノ宮家の当主であり、菜花さんの父親であろう。俺はとりあえず椅子から立ち上がり、会釈をする。一応の礼儀である。
「やぁやぁ。かけておくれ。面接では無いからリラックスしてくれ。」
「面接ではなくてもリラックス出来ないですよ。こんな仰々しい雰囲気ですと。」
なんて軽口も叩いておく。余裕を見せておくことが交渉を進める上で有利に働くとたつ兄から聞いたことがあるからだ。
「君が、梔子凛太郎くんだね。今年から菜花が世話になっているよ。その件はとても助かっている。菜花も楽しそうにしていると執事から聞いてる。」
「ありがとうございます。それで、今日はどんな要件でしょう。」
「君に来てもらったのはね、この男のことを知っているか。それを聞きたくてね。」
そういうと、大型のモニターに1枚の写真が映る。
「その人は…。知っています。十六夜九十九くんですね。」
「ほほう!知り合いであったか。」
「知り合いという程では無いですが、何度か交流はしたことがあります。私が、というより私の幼なじみが友人であります。」
「そうか。実はこういう写真もあってだな。」
その写真は十六夜九十九の屋敷に訪問した時の俺の写真だった。良かった。知らないと言っていたらきっと俺は帰れなかっただろう。ここら素直に言っておいてよかった。
「それは以前に幼なじみに呼ばれて向かった時の事ですかね。まさか十六夜九十九くんがこんな恐ろしい組の組員だとは思わなかったですけどね。」
笑顔を見せる。嘘はついていない。余裕を見せるのだ。
「ところで、九十九くんがどうかしたんですか?」
「実は、うちの菜花が攫われてだな。」
「えぇ!だから家庭教師を休んでいらしたのですね!心配だな。相談してくれたら良かったのに。あぁ、でもただの学生にできることなんて何も無いですからね。警察の方にはもう?」
「いや、警察には言っていない。が、そういうのが得意な親戚に任せている。」
「つまり、三ノ宮さんは九十九くんが攫ったと。そう言いたいわけですね?」
「そういうことだ。君の姿を十六夜のところで発見した情報が上がってきたからこうして話を聞いているんだ。」
どうやって攻め入ろうか。この強固な城をどう攻め落とすか。会話をしつつそんなことを考えていた。
尋問です。三ノ宮家当主は三ノ宮浩二。かっこいい名前にしようと思ったけど、それだと目立って行動しにくいだろうなって考えて普通の名前にしたらしい。ハリソンとかつけたかったけども




