sinθ≒0.122
お腹空いた…
全校生徒が集まっても、なお余裕のあるこの広い体育館は、陸奥第三高校の特徴に一つである。この体育館では、バレーボールとバスケットボールに二種目。校庭でサッカー。野球場でソフトボール。合計四種目が前期体育祭で開催される。例年では、一日目に二回戦。二日目に準決勝と決勝が行われる。しかし、今年は、たつ兄の件があるので、一日目にサッカーとバスケットボール。二日目にソフトボールとバレーボールが行われることになった。おれは、二日目が暇になってしまうので、何をして過ごそうか悩んでいると、前に座っている琴葉が目配せしてきた。たつ兄のあいさつの時間のようだ。琴葉は習ったばかりのカメラを構える。シャッター音が目立つのでやめてほしいのだが…。しかし、その心配は杞憂に終わった。多くの女子がカメラを構え、例えるなら記者会見のような、すさまじい量のシャッター音が、体育館中を木霊した。ステージへの階段を上りセンターに立つ。背伸びをしているわけでもなく、底の厚い靴を履いているわけでもない。しかし170cmの身長とは思えないほど大きく感じる。きっと、彼自身の態度の大きさに起因するのだろう。普段の制服姿とは違い、クラスTシャツとジャージであるが、半そでから見える腕は帰宅部とは思えないほど筋肉がついている。それに加え、首から見える鎖骨が女子の心を動かすんだ。と、琴葉に力説された記憶が蘇る。そして、たつ兄の挨拶が始まった。
―準備はできてるか!!生徒諸君!俺は生徒会長の、二階堂竜騎だ。皆も知っているとは思うが、俺はすべての種目に出場する。そして、俺はその全てで“絶対に”優勝する。挑戦者たちよ。俺に勝ってみろ。―
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
男子からは怒号とも、ブーイングともとれる叫び。女子からは歓声や歓喜の悲鳴があがる。体育館のボルテージは最高潮まで上がった。パフォーマンスも含まれるとはいえ、ほとんどが本音であろうな。兎にも角にも、校内は最高の雰囲気の中、体育祭の火蓋は切られた。
眠い…