cosθ≒0.993
「東京ってすごいですわ!!!」
興奮のあまりお嬢様口調が出ていた。しかし、立ち振る舞いは気品あるけれど傍からみれば観光で興奮しているだけの女子高生にしか見えない。流石に服が目立つのでテキトーに私服を見繕い、俺もテキトーに服を着ていたが。周りの視線が気になる。ハイネックにジャケット。白のパンツでコーディネートしていただけなのだが、俺があまりにもイケメンすぎる故に…。
「龍騎さんってかっこいいだけじゃなくて取り付きやすい性格だからモテますよね。」
この子はよく分かっているな。褒めてやろう。
「菜花ちゃんは外の世界で交流したことないから忠告しておくが、あまりそういう事は言わない方がいい。俺じゃなければ落ちてた。」
落ちる?と頭にはてなマークが出ていたが、すぐに次の興味の対象へと気が散っていた。しかし不味いな…。菜花ちゃんはまだしも俺が目立ちすぎている。俺に隠れているが九十九だって目立つだろう。
「菜花ちゃん。移動しよう。」
さらに北へとこの子を連れていくことにする。俺の故郷へと。
東京から車で5時間。高速道路を使わないようにしていたので思ったよりも時間がかかってしまった。途中での休憩も挟む必要があるしな。しかし辿り着いた。うん。懐かしい。
そこは中学時代に引越しで住んでいたところ。宮城県の中でも田舎中の田舎。辛うじて村では無いが、住民のほとんどは自給自足によって生活する場所。今の時代でもそういった場所はある。もちろん、畑仕事の収入で発展した街へと出かけるから別に現代から隔絶されてる訳では無い。
これは日本全体の話ではあるが。日本において大規模な機械の農作を行うことが出来ない。平野がとにかく少なすぎる上に、その少ない平野は発展し農業から離れて言ってしまうからだ。そうなると自然と山の中での生産が主となり、段々畑のような土地の使い方になる。最近ではドローンによる農薬散布や水撒き等が導入され改善されているようだが、大きな機械での自動化は難しい。
畑仕事で生計を立てている住民が全てでは無い。畜産農家もいるし。数少ないが、リモートワークを用いた現代的な仕事をしている人だっている。そんな人達だって小さい畑くらいは持つ。畑が小さいので全て手作業である。かなりの重労働にはなるが気分転換の運動にはちょうどいい。俺みたいな健康的な人間なら。では、家から出たことがない。運動とは縁のないお嬢様がやったらどうなるかというと。
「楽しいですわ〜!!」
そうやって畑を耕していた。思ったのと違うな。もっと苦戦したりすぐに疲れるものだと思っていたのだけど。
「私だって運動してますよ!広い庭でそれなりに!地下にはジムありましたしね!」
なるほど。思っていたほど貧弱な訳では無いみたい。そうなると、虚弱体質だから家に閉じ込めていた。という訳では無いな。あまり詮索しない方がいいのだろうか。九十九はさっさと帰ってしまったので彼から聞きようがない。気づくとお昼ご飯の時間であった。12時になるとサイレンがなるこの地域は、住民皆規則正しい生活を行っている。
「たっちゃん。ご飯ですよ。」
サイレンがなる前に呼ばれた。久しぶりなため、昔より曲がった腰は、それでも元気に畑仕事をしている証拠であった。メインは和牛の生産などらしいけど。清ばあに呼ばれたので、菜花ちゃんを呼び戻しご飯の時間である。




