cosθ≒0.996
連れていかれた(ほぼ攫われた)場所は、京都の一等地にある大きな館であった。
「ここが三ノ宮家だ。」
後部座席で横に座る九十九が言った。
「この家のどこかで暮らしているが、そこまでは情報を掴めていない。だが多分1番厳重に警備がいるところだろう。この家の警備員に潜り込ませている奴がいる。夜間警備でそいつが担当の時に攫ってきて欲しい
。」
九十九は簡単そうに言ってくれた。まぁそこまでしてくれたなら簡単なんだが。
「多分そこまでしなくても出来るぞ。今夜でいい?」
「そんな今度ご飯に行こうぜって言って今夜にするやつがいるかよ。まぁ何時でもいいが。」
攫うにあたっていくつか注意を受けた。三ノ宮のご令嬢を攫ったあとは事務所や十六夜組に関わる施設に連れていくことはないように。いざとなった時に関係を疑われる可能性があるため。攫った後はすぐに車に乗せて東京まで連れていく。いや、東京でなくてもいいが、遠くへ連れていくらしい。東京が人が多すぎて紛れるのにうってつけらしい。
「そこには俺も案があるが。とりあえずパパっと攫ってきちゃうわ。」
結構は夜中の1時。周りには高層ビルが立ち並んでいるはずなのに、この館の敷地が広すぎてその区画のみ真っ暗に見えた。特に今夜は台風が来ていて忍び込む際の音が掻き消えてくれる。絶好の攫い日和だ。そんな日和があるのかは知らないが。
裏門は潜り込んだ警備員が開けてくれているらしいのでそこから普通に入り、真っ黒の衣装によって夜闇に溶け込む。警備の問題からきっと部屋は2階。窓のない部屋はないとの事で、各部屋の窓を覗く。すると見た事のある姿を見た俺はついついその部屋に侵入してしまった。こいつを関わらせては行いけない。俺はもう誰も巻き込みたくないから。そいつに忠告はした。後彼がどう動くかは彼次第だが…。琴葉だけでもちゃんと守ってくれよ。と祈りながら、探索を続けると目的の部屋は簡単に見つけることが出来た。夜中だと言うのにその部屋には明かりが灯っていた。部屋のライトではない。ベッドの横の小さいライトだが確かにその部屋の住人は起きていた。その住人は、俺の存在に気づくと窓に近づいてきた。まずい!そう思った俺は窓の横に隠れる。しかし彼女は窓を開けて、
「やっと迎えに来てくれたんだね。」
そう言って俺を受け入れた。衣装は真っ黒であるが、それはまさに魔王に連れ去られた王女を助け出す一国の騎士のように、手を差し伸べる。そうか。九十九とこの子は繋がっていたんだなとそこで理解した。
「さぁ、行くよ。」
そう言って彼女。三ノ宮菜花さん。いや、十六夜菜花さんなんだろうか。お姫様抱っこの状態で素早く連れ出す。
「あなたがお兄ちゃんが言ってた王子様なんだね!」
そう無邪気に笑った笑顔で言ったセリフは龍騎の耳には届かない。風と雨が強くなってきたせいだろう。
次の日。三ノ宮家は、まるで台風が家の中で起きたかのような騒ぎになった。
引越し準備で土日の更新は無理っす
平日はちゃんと仕事サボって更新するので…




