cosθ≒0.998
新月。星が瞬く夜空。すっかり夜は更け、夕闇に包まれた窓の外には幾許かの星の光しか無かった。遠くにはまだ燦燦と輝くビル群が立ち並ぶが屋敷の周りは真っ暗であった。深海に沈んだ意識は窓の開く音で活性化される。背景の暗闇に朧気に浮かび輪郭は人の形をしていた。メガネをしていない今その姿ははっきりとは見えない。はっきりとは見えないが確かにそれは人であった。
「だ、だれ?」
寝起きの喉では大きな声は出せず問いかけることしか出来ない。
「誰とはなんだ。俺を忘れるなんて寂しいなぁ。」
その声を忘れることは出来ない。数年ぶりに聞いたその声は彼のものであることは寝ぼけていてもわかる。
「た、たつ」
そこまで声に出したところで耳元でしーっと言われる。静かにしろってことか?
「お前、この家と関わるのをやめろ。」
それ以上は何も言わなかった。そのまままた深海へと沈む意識から逃れることは出来なかった。
翌朝、開けられたと思われる窓を調べるが特に痕跡はなく夢だったのではないかと思った。しかし、彼のことである。仮に夢だとしても無意味に出てくるわけはない。早朝であるため菜花さんはまだ起きていない。起こさないように、執事の方達にだけ挨拶をして三ノ宮家を去った。
たつ兄は警告してきた。つまりこの家には何かが隠されている。いや、まぁ、あのお嬢様を家から出さないって言う徹底ぶりを見る限り異常な家ではある。しかし、菜花さんは普通の女の子だ。好奇心旺盛な可哀想なお嬢様。関わるなと言われると関わりたくなるのも仕方がない。次回の家庭教師の時に少し探ってみよう。そう決意した朝であった。
さらに翌日。三ノ宮家から連絡があった。家庭教師はしばらく休みにするそうだ。給料はしっかり払うからとりあえず休みにしてくれと。
俺は大学が終わると直ぐに三ノ宮家に向かった。
昨日忙しくて投稿出来ませんでした!!
2本更新しちゃうよん。




