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台風が来ていることはわかっていたが、ギリギリ間に合うと思っていた。そんなギリギリをせめてでもこのアルバイトを休むという選択がなかったのだ。給料がいいのもわかっているが、生徒のことを考えると休めない。高校2年生の年齢にして未だまともに学校に通ったことがない。そんなお嬢様に外界のことを伝えることが出来るのは俺だけだ。勝手に自分に課せられた使命だと思っている。
三ノ宮家。東北にいた頃はもちろん知らなかったが、こちらに来てからできた友人に聞いたところ京都ではとても有名らしい。グループ会社を複数経営し、その家系図は平安まで遡ることが出来る。何故か関係の無い友人が鼻高く自慢していた。その友人に、三ノ宮家に泊まったなんて話したら卒倒しそうだ。俺だって緊張する。しかし、親はほとんど帰ってこないらしく、今日のこの台風もあって今日帰ってくる心配は無い。どちらかと言うと琴葉を放置することの方が心配である。宿泊用の客室にて寛がせてもらってるが、客室にあるソファですら俺の家のベッドくらいある。ちなみにベッドはつめて寝れば5人くらい寝れるのではないかという大きさだ。平安から続く名家ではあるが、家自体は洋風で屋敷と言うより館って感じではある。年頃の女の子がいる家に泊まって心配ないのかと思ったが、浴室も複数あるため問題ないらしい。SPみたいな人もいるしね。明日は早く起きて朝イチの電車で帰ろうかと思うので、日付が変わるまでまだ時間はあるが早く寝ることにした。寝巻きも用意してくれてるし、服も洗濯乾燥まで一晩あれば終わってしまうらしい。お金持ちって怖い。もこもこの布団に体を預け、まるで深海に落ちていくような気持ちで寝入ろうとしていた所部屋がノックされた。飛び起きて部屋のドアを開けるとパジャマ姿の三ノ宮菜花さんがそこにいた。
「入っていいですか?」
ここはあなたの家なんだから俺がNOと言える訳もなく、二脚あるソファに向かい合うように座った。菜花さんに指示された執事が紅茶を入れて持ってくる。
「梔子先生の話で思い出したことがあるんですよ。」
来週でもいいのではないかと思ったが、きっと外の人と喋る貴重な機会を無駄にしたくないのだろう。俺は話を聞くことにした。
「先程話にあった二階堂龍騎さんの話なんですけど。二階堂家には隠された子供がいるって言う噂があるんです。私も詳しく聞いた訳じゃなくて父親たちが話しているのを聞いたことがあっただけなんですけど。」
「つまり、菜花さんはその隠し子がたつ兄だと言いたいんだね。」
静かに頷く。
「まぁ、確証はないんですけどね!」
その後は他愛もない話を少ししたあと寝室へと帰っていった。時間はまだ日付が変わる前であった。これくらいならば朝早く起きることも問題ない。スマホのアラームを設定し、再び深海に潜るように眠りについた
名古屋から岐阜に引越しすることになった!
名古屋のこと何も学ばずに岐阜に異動とは…。
まぁ近いからいつでも遊びに行けるんですけども。




