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窓から見える空は黒く澱んで見えた。今にも雨が降り出しそうである。来年度には大学受験が控えているというのに、この箱庭から飛び出ることさえ許されない。京都にある大きな御苑とも思えるほど大きな土地に立つ屋敷。その一室に三ノ宮菜花はいた。インターネットやテレビで知る最近流行りのオシャレなお店にすら行けない。唯一、外界と接することが出来るのは週に一回。毎週金曜19時から1時間半。家庭教師が来てくれる。前回の先生は大学を卒業するとの事で4月から新しい先生が来ているのだ。この先生が良い。趣味の喫茶店めぐりの話や、自分の高校の時の話を面白く語ってくれる。幸い、専属の教師達の授業により成績は悪くなかった。だから、家庭教師の先生との時間は余裕もって受けることが出来る。特に、東北という、私からしたら異国の地と変わらない場所の話が面白い。同じ国内でも文化や人柄まで違うみたいだ。部屋の扉がノックされる。
「お嬢様。家庭教師の方が見られました。」
「分かったわ。すぐに行く。」
たった一時間半。されど一時間半。1週間この時のために過ごしているのだ。さぁ、今日はどんな話を聞こうかしら。
「おまたせ。前回出した宿題は終わってるかな?」
「もちろん、終わってますよ。」
この先生のいい所は、私をお嬢様扱いして敬語ではなく、気さくに話してくれるところだ。どこか線を引かれているように感じてしまう。前回の先生はそんな感じであったが、梔子先生はそんな事ない。だから私も普段のお嬢様言葉を使わずに済む。なにがですわだ。もっと軽く喋りたいものだ。
「ほんとに家庭教師が必要なのか?菜花さんは充分良い成績だと思うんだけどね。」
「そんなことないです。父はこんな成績じゃ認めてくれませんもの…。」
はっとする。父という立場を文章に入れるだけでお嬢様言葉が出てしまう。そんなに毒されてしまっているようだ。梔子先生は大変なんだなと口に出し、勉強を教えてくれる。そして早く終わらせるといつも通り雑談の時間になっているのだ。自分から要望し毎回話題を持ってきてくれる梔子先生はとても優しい。
「そうだな。今日は、俺のライバルであり親友の話でもしようかな。」
こんなに完璧に見える梔子先生にもライバルというか、勝てない相手がいたことに驚いた。二階堂龍騎。名家である三ノ宮家とも交流のある二階堂家は三ノ宮家とまでは行かなくとも名家である。何度か会ったことがあるが二階堂家にそんな人はいなかったからきっと赤の他人であろうと。梔子先生にもその話をする。すると、梔子先生は爽やかな笑顔を見せて、そうだねなんて言ってくれる。
あっという間に1時間半が経ち、梔子先生はうちでご飯を食べて帰る。そういう契約だから。しかし、今日はそういうわけにはいかなかった。外の雨は次第に激しくなり、暴風雨となっていた。どうやら台風が来ているらしい。そんな時に呼びつけてしまって申し訳ないので、執事に車で送るようにお願いしたがどうやら道も通行止めで帰れそうにないらしい。
「それなら、一泊していったら?先生。部屋はいっぱい余ってるし。」
少し悩みつつ、どうしようも無い現状を理解した梔子先生はそうさせてもらおうと首を縦にふった。年齢の近い男性と同じ屋根の下でお泊まりなんて、同性とすらしたことがない。今夜眠れるかな?そんなことを考えてしまった。
関西弁よく分かってねえどうしようとなってましたが。
天才的閃き。家を出たことがないお嬢様にしちゃえば関西弁じゃなくても違和感ない!!!
関西が舞台なのでエセ関西弁とか出てきても許してね。というか感想とかで修正してくれてもいいです。




