sinθ≒0.087
ここに来るのは一か月ぶり。外は夏模様で、とても日差しが照り付けている。運動部の活気のある声が響き渡る校庭の横を抜けると、古びた建物がそこにはある。七年前に出来上がったきれいな新校舎と対照的な、旧校舎である。この世のものとは思えないものが出てくるような感じ、といえば伝わるだろうか。建付けが悪く開けにくい入口も、今ではもう開け慣れてしまった。美術室へは奥の階段からが近い。周りを森で囲むこの旧校舎は外の夏模様とは打って変わり、涼しい風が抜けて過ごしやすい陽気に包まれる。美術室にはまだ数名ほどしかいなかった。
「会員No.32か。好きなところに掛けてくれ。」
風通しの良い窓際の席に座り、人が揃うまでスマホゲームで遊んでいることにした。このゲームに出てくる俺様系のメガネ男子が私の推しである。竜騎様はまさにこの人が現世に生まれた存在!!このファンクラブがあることを知った時、気づけば入会していた。誰がつくったかわからないこのファンクラブには、何人の会員がいるか把握していない。私も所属から約一年経つが、会員No.1の姿を見たことがなかった。現状全体の指揮を執るのは、先ほど指示していたNo.3である。しばらくすると、"始めるよ"とNo.3から声がかかった。今日は何としてでも参加しなければいけない日。なぜならば、今日の議題が「二階堂竜騎様が体育祭で何種目に出るのが一番かっこよいか」である。私は悩みに悩み抜いて、バスケにした。いや、竜騎様は何に出てもかっこよいし、何に出るかは竜騎様次第であるのだが。しかしここでNo.3から発言があった。
「みんなとても悩んできてくれたのは申し訳ないが、No.1から素晴らしい提案をいただいた。」
No.1いたんだ。とおどろきながらも、みんな続く言葉に耳を傾ける。
「竜騎様はすべての種目に出てもらう。というものである。ちなみにすべての種目に出るようにする手筈は整っている。とのことである。」
そんなもの賛成以外の何物でもない。もちろん全会一致で決まった。それにしてもNo.1とはどんな人なのだろう。どんな手筈を整えれば、すべての種目に参加なんてことができるようになるのだろう。などと疑問に思っていたが、その場はそこで解散となった。
数日後、校内新聞を見て驚いた。本当にすべての種目に出場することになったらしい。私はすべての疑問を吹き飛ばし、竜騎様の雄姿を目に焼き付けるべく、体育祭の計画を立て始めた。
暗躍部隊…!!