sinθ≒0.530
一体あれは何役なんだろうか。作り物ではあろうが、蛇に巻き付けられ恍惚の表情を浮かべるたつ兄は、微動だにしない。
どうやら、この文化祭の紹介を演劇混じりに紹介してくれてるらしい。設定としてはこうだ。
来年我が校を志望している中学生カップルが、その中学出身の先輩に案内してもらうという。
なるほど。よく出来ている。立地の問題でお客さんが入りにくそうな出店の紹介や、校庭で行われている、野球部、サッカー部のストラックアウトなど気づきにくそうなお店を中心にすることで、上手くバランスを図ろうとしているらしい。うん。素晴らしい。でもね。あの人必要?!ずっと看板やってるだけって。
「りんくん。ここで見てたんだ。」
少しやつれたような見た目の中学生だ。
「誰が中学生じゃ!!」
ちょっ。痛い!まだ!口に出してない!
「琴葉は何でこんなとこにいるんだ?あのたつ兄の姿を近くで撮らなくて良かったのか?」
ふふん。と胸を張った琴葉は誇らしげに。
「あの雑踏の中、私がいったら潰されちゃうもん!」
誇ることでは無いな。つまり、人が少なめな4階から撮ろうということか。
「ねぇ知ってる?」
なんか懐かしい感じの聞き方だな。豆○ば?
「あれね。たつ兄が自ら演劇部に頼んでやってるらしいよ。」
なんだろう。涙が出てきそうだ。そこまでして目立ちたいんですか…。
「たつ兄曰く。「文化祭で俺が主役の場所ないから。ないなら作るまで!」だって。」
たつ兄へカメラを向けながら、説明してくれる。体育祭の時とは比べ物にならないくらいカメラの扱いに慣れたものだ。感心感心。
「ねぇ。見てこの写真。」
琴葉に差し出された一眼レフの液晶をのぞき込むと、そこにはまぁたつ兄が映っているのだが。こいつ。なぜカメラ目線を…?微動だにしないように見せてまさか、全てのカメラに目線を向けようとしているのか。
どのカメラがどのタイミングでシャッターを押すのかなんて分かるわけないのに。いや、たつ兄なら分かるのか。大体の謎も、なぜならたつ兄だからで解答出来るのが楽なところだな。
「まだまだ撮るぞ〜♪♪」
「おい、待て!琴葉!危ない!」
「あ…。」
俺の手の先を、琴葉の手から滑り落ちた一眼レフが摺り抜ける。データは大丈夫だろうが、あの一眼レフは琴葉のお父さんのやつ!!やばい!何故かわからんが俺が怒られる!!
羽?
幻覚かもしれないが、天使の羽が落ちてきたような。
気づくと、中庭に落下するはずだった一眼レフは、恐るべき速さでキャッチしに来たたつ兄の手元に。
何がどうなったんだ…?




