sinθ≒0.035
七月に入り、校内は試験期間中の少し殺伐とした雰囲気とは打って変わる。
まだ大会が残る一部の運動部を除き、近々行われる前期体育祭で話題は持ちきりだ。俺の所属する生徒会でも準備で大忙しになる。
…少し憂鬱だ。生徒会長だから致し方のないことだろう。さて、と重い腰を上げ生徒会室に向かおうとした時、とても聞き覚えのある、明るい声が聞こえてきた。普段ならば癒しともなるが今日はそれどころではないのだ。見つかる前に移動しようかと考えていたがそう簡単に問屋が卸すわけない。
「たつ兄!!早く帰ろっ」
上級生の教室のドアを何の躊躇もなく勢い良く開けて叫ぶ琴葉の姿がそこにはあった。
「今日から体育祭の準備で忙しいからな。しばらくは凛と二人で帰ってくれ。」
ほら、お菓子あげるから。とハムスターのように頬を膨らませ不満げな顔だが、たまごボーロのためならば…と潔く手を引いた。いつもならばもっと駄々をこねる琴葉であったが…
その視線は俺の少し後ろを見るように帰っていった。
後ろから、ハリのある元気な声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
肩に届くかどうかというセミロングが美しく夕日に照らされ、その大きな目はどんな人も心を許してしまいそうになる。身長は俺より少し低いといったところか。制服も校則通り気崩しているところが一つも見当たらない。容姿、正確ともに優等生であることを疑えない。生徒会副会長である彼女、三年七組東条清美の姿がそこにはあった。
「二階堂くん。生徒会室に行きましょ。みんなもう揃ってるらしいよ。」
「ちょうどいま行こうとしていたところだよ。よみちゃん。」
「よみちゃんはやめてって言ってるでしょ。それにしても琴葉ちゃんだっけ?いつも元気だね。」
琴葉の元気はきっと俺のを奪っているのだろうなどと冗談か、本当のことかわからないことを話しながら、二人で生徒会室に向かった。
清いから清美です。
ほんとに清いんです。たぶん…