sinθ≒0.156
校庭は人がいっぱい。私の身長では埋もれて何も見ることができない。だから私は校舎四階のベランダに来ていた。ここには人っ子一人いない。静寂の中、このカメラにたつ兄を写すことができる。運よくこのカメラは高性能。この位置からでも、かっこよく撮れそうだ。パパに感謝しなきゃねっ。ベンチで談笑するたつ兄もかっこいい。いっぱい撮らなきゃね。
がらがらと、教室のドアが開く音がしたので、振り向くとそこにはにっくきあの姿が...。
「琴葉ちゃん…だったかしら?」
えぇそうですけど?何の用よ!むっしゃぁぁと最大限の威嚇をした。
「下だと試合見づらいからね。サッカーよくわからないから、解説頼んでいいかしら?」
ふふっと微笑んだ。私の威嚇が通じてない…だと??なにより解説ですって?私がどれだけのサッカー漫画を読んできたと思っているのよ。私に任せなさいっ。と小さな胸を張った。っておい、誰が小さな胸じゃ。
「ほら。試合始まるよ。解説役、頼んだわよ。」
りんくんのチームのキックオフで始まる。
「ポジションでいうとりんくんはトップ。簡単に言うと攻撃する専門の人だね。身長も大きいし、たつ兄と戦うにはかなり有利なポジションだね。たつ兄の方は、トップ下。チームメイトにパス出してアシストしたり、隙があれば自分でもゴール狙ったりする場所だよ。たつ兄は、人を使うのが得意だからね。きっと相手、特にりんくんを惑わしてくるよ。りんくんはそれに揺るがずにゴールだけを目指さないとね。そんなことをしてたら、さっそく、りんくんのチームがチャンスだよ。りんくんのチームはあの右端にいる、いわゆるサイドって呼ばれる人が中学時代サッカー部だったんだよね。あの人のクロス。うーんと、りんくんに高いふわっとしたパスを出すの。それを高身長のりんくんがパパッと決める。これがシンプルで一番強いんだよね。」
たつ兄のチームは決して失点が少ないわけではない。どちらかというと取られる以上に取り返す。たつ兄指導の下、絶対的得点力が売りなのだが。右サイドの彼がクロスを上げようとしたとき違和感が走る。すでに足元にボールがない??カメラを使って観察してみると、その理由が分かった。
「たつ兄だっ!」
「どういうこと?琴葉ちゃん。」
「あれはたぶん敵の視界を巧みに使ったたつ兄の技だよ。いや、技というより術だねもう。味方が敵にマークでついたときに、その死角からボールを奪ったんだね。」
「そんなことできるの?」
普通ならできない。しかし、
「たつ兄ならできる。」
なぜならたつ兄だから!この人はそれで理由付けできてしまうんだよなぁ。かっこよ死しそう…。たつ兄がそのまま一人で攻めあがる。素人には止めることができない。その攻め上がり方はまるでダンスを踊っているように華麗。まるで氷上のプリンス。
「いや、あれはまさにエリアの竜騎士だねっ。」
「…それ、大丈夫なのかしら?」
ん?なにが?何がいけないのだろう。言ったじゃないか。私は漫画でしかサッカーを学んでいないいんだ。許してくれ。しかし、一つ大きな障害がある。
「りんくんのチームの、あのディフェンスの人。あの人も元サッカー部なんだよね。その体の大きさで、チームの守備の要になっているんだよ。おかげで、りんくんのチームはまだ一失点しかしてないんだ。」
どうする、たつ兄。ゴールシーンが近いと思ったの
でカメラを構える。さすがのたつ兄でも、りんくんのチームの守備の前に立ち止まった。ちょっと待って。今、たつ兄笑った?その時たつ兄は、ゴールを見たままバックパスを出した。仕切りなおす。会場のだれもがそう思った。しかし私は、カメラを構えた姿勢は崩さない。その瞬間、たつ兄はゴールに背を向けてもう一度味方からのパスをもらった。宙に浮いたボールをボールを胸でトラップし、左足を軸に回転した。敵の体からボール一つ分右側から、落ちてくるボールを直接シュートした。しかしそのボールはゴールから離れた宙へ。
「あれってミスしてない?」
「決まるよ。」
それは願望ではない、確信であった。たつ兄があんなに大きくミスをするわけがない。つまり。
その時、ゴールから遠く外れると思われたボールは、放物線の頂点でカーブし始め、ゴールの右上の隅に吸い込まれた。誰一人としてその場から一歩も動けなかった。会場は、体育祭とは思えないほどの歓声に包まれる。一部のファンからは少しため息が。なぜなら、あの体勢からゴールを決めるなんて誰も思わない。それ故に、カメラに収めることができた生徒はいなかったであろう。ふふふ、この私を除いてはね。一人で不敵な笑みを浮かべていた私の方へ解説を求めるように見つめてくる姿が。仕方ないな。私が解説してあげよう。
「まず、たつ兄がひとりで敵陣に行ったことでたつ兄のところに敵が集まるでしょ?それだと、さすがのたつ兄でもゴールは難しい。ここで、敵を集めたということは味方がフリーになるということ。そこで一度味方にパスを出す。ゴールを見たまま後ろにパスを出したのは、自分がゴールからどの位置にいるのかを確認するため。それに加えて、敵のマークをたつ兄から少しだけ離す。この少しの緩みさえあればたつ兄は充分なんだよね。味方のパスをわざとループさせることでトラップからスムーズに体を回転することができる。さっき確認したゴールと自分の位置から、ボールを蹴る強さと、ボールに掛ける回転を計算してシュートしたわけ。一見意味のない行動も、たつ兄にとってはすべて必要な動きだったわけなのです。」
「…そんなことできるの??サッカー選手でもあるまいし。」
できるに決まっている。なぜなら、so!!たつ兄だから。普通の人にはできないけどねん。かっこよすぎて五回は成仏しました。
それにしても、たつ兄本気だったな。今までの試合は主にアシストに回り、ゴールを決めるシーンは多くなかった。おそらくそれほど、りんくんのことを警戒しているってことなのかな。その後は膠着状態に入り、前半が終了した。りんくんがこのまま終わるわけがない。きっとやり返す算段を企てているんだろうけど。まぁ、たつ兄には勝てないと思うけどね。ちょっと期待しててあげる。
サッカーの描写を文字で伝えるのムズすぎなんだよ…
明日は日曜なので更新休み!!




