窓の外、おっさんパンツ
タイトル通りくだらないです……
「おーぅい」
自室でパソコンいじりをしている僕の耳に入った声。
どうやら外から聞こえたようだ。顔の横にある窓から見てみると、隣の家に住む人だった。
その人は上下灰色のスウェットに丸眼鏡をかけたおじさんである。
「そこのお姉さん、俺のパンツ拾ってくれ」
パンツッ!? なんと破廉恥な……。
慌てておじさんの目線の先、下の道の方へ目を向けてみると、ウォーキング中であろうおばさん……。
何がとは言わないが、期待した自分が恥ずかしい。
それに年上の女性をお姉さんと呼ぶ当たり、まさにおっさんだ。
「あ、それ未使用のやつ洗っただけだから」
手に取るのをためらうおばさんに向かってベランダからおじさんが言う。
それを聞いて少し安心したのか、おばさんはパンツを手に取る。だが、ゴムの端っこを摘まんでいるのが見え、僕も同じことをしただろうと共感する。
「上まで投げてくれ!」
「何言って……届かないですよ」
それもそのはず、話している二人は地上と二階のベランダで距離にして五メートルほどある。
下にいるパンツを拾ったおばさんと指示するおじさん。この変な状況に僕は微笑する。
「じゃあこれキャッチして!」
そういっておじさんは布団ばさみを落とす。
一瞬なぜそうしたのかわからなかったが、答えはすぐわかった。
「布団ばさみ? あぁそういうこと」
おばさんは何かを理解したように布団ばさみでパンツを挟み上を見上げた。
重くすれば狙った場所へ投げるのも容易である。「なるほど!」と僕は感心した。賢いと思う一方、投げるものがパンツであることが馬鹿らしく感じさせてしまう。
「じゃあ投げますよ」
「はい、いつでも」
ゴクリと息をのむ。見ているだけの僕にも緊張感が伝わり、その瞬間を見逃さんとさらに凝視する。
そして、パンツは宙を舞い、キャッチミスしそうになったものの、無事おじさんの手に戻った。
「サンキュー! ありがとさん」
感謝の言葉を受けたおばさんは手を挙げ返事を返し、そのまま歩いて行った。
おじさんはかなり慎重そうにパンツを物干し竿に掛け始め、更に洗濯ばさみ三つで挟んだ。よほどパンツを落としたくないのだろう。その行為に反省の意を感じる。
何か視線を感じたのか、おじさんがこっちに顔を向けてきた。一連の出来事を窓から眺めていた僕はおじさんと目が合いそうになり、慌ててパソコンに目を移す。
そして、まるでコントのような二人のやり取りを思い返し笑いが込み上げてきた。
僕の住むこの町は少しずれている気がする。この町の人々という方が正しいだろうか。
決して悪い人ではないことは知っているが、やはり価値観がずれている。
ふいにパソコンの電源を切った。
インドアでなかなか外に出ない僕がランニングをしたい気分になっている。つまり、僕はこの町が好きなのだろう。もしくは今さっき好きになれたのかもしれない。