Cadenza 私の、私達の…皆の歩んできた道 9
魔力を込めているのは吾輩だけではないのであったな。
独りよがりな行為はお互い幸せになれない、俺は、学んだではないか、愛する妻と共に。
手を繋ぐというか妻の手を覆いつくしているというか、俺の大きな手の中で意識を集中している愛する妻へと視線を向けると、苦悶の表情で大粒の汗を流している
「・・・!」
俺と同じく魔力を込め続けている
魔力を込め続けるのが辛いのか、歯を食いしばり、下唇を丸め込むように少々下あごが出ている。
妻に…愛する妻にこのような表情をさせてはいかんな。
妻が苦しいのであれば、手を出し支える
俺が苦しいのであれば、抱きしめ支えてくれる
俺達はそうやってお互いを支えてきたではないか。
妻が苦しいのであれば!
鼻から息を早く吸い込み肺の中に空気を流し込む
男、そう、吾輩は男である!!!
愛する者の為に吾輩は、男であり続ける!!
強く!
雄々しく!
何時までも!
猛々しく!
高々に!!
男であれ!!
肺に込めた空気を全力で吐き出すように手のひらに魔力を全力全開、後の事を考えずに男の意地だけで魔力を流し込む
されど、妻に負担が行かないように手のひらから伝わる感覚を寄り添うように優しく包み込むように繊細に!妻を守るという意志を込める!!
持てる全ての魔力を流し込んだ。
背中から感じる、魔力の流れが悪くなっているのを…
これ以上は魔石を交換せねばならない、一旦、技術屋の方へと向かうべきかと
そう感じた瞬間
「ぬぉ!?」
「・・・!!」
わがはい、いや、お、俺達の手のひらから一本の槍が…
突如として産まれた
その槍は黒く、それど、月明りによって青く光り輝いている。
そう、この輝きこそ、まさに、男の象徴!…ではなく。
俺が、夢で見た、幻の世界で見た、槍…形は違えど、色は違えど、見間違うことない、輝き!
姫様が放った槍と同じ輝きを放つ不可思議な槍!!!
「でき、た」
「っである、か」
お互い、突如として手のひらから産まれてきた槍に驚き言葉を失い、ただただ、お互いの手を握り締めるように一つの槍を握り続ける
「貴方、どうぞ、振ってみてください」
「ああ!」
妻の言葉に強く返事をし、槍から手を離すように、手を離すと、妻も俺の手から解放され槍から手を離してくれる
槍がゆっくりと真っすぐに地面へと吸い込まれる様に落ちていく
ゆっくりとゆっくりと
槍の柄が地面に触れる前に俺は、槍を掴むと
「・・・!」
妻は既に遠くへと離れ力強く頷いている
距離を空けてくれたことに感謝を
妻の気づかいに俺は何時だって感謝を忘れない
一礼をしてから槍を構える。
持てる全ての演武を開始する
「せい!っや!っだ!!!」
その一撃は鋭く、全てを突き通すほどの突き
その一撃は重く、全てを叩き壊すほどの打撃
その一撃は速く、全てを置き去りにする程の剣舞
その一撃は軽やかに、全てを回し受けるがごとく転輪の動き
その一撃は…涼やかに
全ての命を穿ち止める
例え、形無き者であったとしても
今なら、全てを…
長く、いや、短く感じてしまう、偉大なりし戦士長から伝えられし演武を終え
槍を構え一礼をする。
そして、ゆっくりと月を見上げると
「嗚呼、戦士長おれは」
月が、戦士長が、俺の肩に触れてくれた気がした。
その手が俺を、この弱き俺を認めてくれた気がした。
今この瞬間、貴方に、いや、貴方と、肩を並べれた気がします
何時までも貴方の背中を見ていた俺ではない
俺は今、いまなら、貴方の怨敵を穿つことが出来そうです。
槍に…
月に…
戦士長に礼をする。
俺という弱き男を立派に導いてくれた全てに感謝を捧げ
俺という弱き男を支えてくれた妻を見つめる
「妻よ!!」
「貴方!!」
妻を呼び両腕を広げると妻も察してくれたみたいで飛び込んでくる
華奢な妻が俺の胸に飛び込んでくる、凄まじい速さで飛び込んでくるがその程度の衝撃、俺には微塵も感じはしない、いや、寧ろ心地よい、この衝撃が夢や、幻ではなく現実であると実感させてくれる。
妻という衝撃、妻という愛する存在に
叫ばずにはいられなかった。
「ありがとう!愛しているぞ!!」
「私も、愛してます!!」
力強く抱きしめると妻も力強く抱きしめ返してくれる
この温もり、この感動、俺は…ずっと、この境地に、この頂に辿り着きたかった。
俺は、何て最高で最愛の、言葉を並べることが出来ぬほどに
良い人生を共に歩めた、全ては彼女という存在が俺の中に居てくれたからだ。
このパートナーを絶対に、何が有ろうと俺は守り抜く、俺の命を失ったとしても。
俺達は月明りに祝福される様に
あの頃のようにお互いの愛を確かめるように唇を交わした。
あの頃の、初心な俺達のように…
長き抱擁に終わりを告げようと目を開けると
「それにしてもおま…ん?」
「どうされたのです?」
不思議なことが起きていた。
月明りだろうか?金色の髪色をしているはずの、妻の髪の毛が、白く輝いて見える
「ぇ?ぁ、貴方?髪の色が白く姫様のように」
なんと?俺の髪の毛もか!?
…話で聞いたことがある、魔力を使い過ぎると髪の毛が白く染まってしまうと。
恐らく、この槍を生み出すのに魔力を使い過ぎたのだろう
だが、それ以外の症状は何もない、知恵として知識としてはある。
気分が落ち込んだり、気が滅入ったり、何事においても後ろめたくなるのだと
だが、今の俺はそんなもの、微塵も感じぬ
寧ろ、満たされている、俺は、俺の中は、愛という言葉で満たされている。
愛する妻の髪色が変わったくらい、何も…
「っふは、それくらい何もない、俺はともかく、妻は似合っているぞ、とても…まるで教会に描かれた聖女のようではないか」
感じないと思ったが、これはこれで似合っていてとても美しく可憐ではないか。
姫様がファッションはてっぺんからつま先までだったか?その様なことを言っていたのを思い出してしまった。
色が変わるだけでも印象が変わるのだな…とても、綺麗だ。
「ふふ、貴方も似合っていますよ、まるで、聖女を守る白髪の騎士様みたいに…私の髪色も白くなったのですね、それに関しては嬉しいくらいです、憧れの方と同じ髪色になったのですから」
月明りに照らされた白髪の美女…
聖女というのはきっと、お前のような美しく気高き人物だったのだろう
「とても、綺麗だ」
一言だけ呟き、もう一度、愛する妻を抱きしめてから、俺達は部屋へと戻っていく…
二人、腕を組み、片時と離れることは無く
っと、その前に。
「…寝る前に魔石を交換しておく方がよいか」
「ええ、そうですね、そうしましょう」
肩を寄せ合い二人仲睦まじく技術屋のもとにいくと、睨まれてしまった。
許せよ、お主と姪との噂は妻の耳に入れないようにしておくのでな。
愛はいいぞ?ぬあぁっはっはっはっと、技術屋に聞こえる程度の小さく声で呟くと足を蹴られてしまったのである。
─ 月明りも薄く食堂へ続く小道に二人の女性が仲睦まじく腕を組み歩いている。
「そういえば、前も聞いたかな?メイドちゃんってさ料理って出来るの?」
「・・・」
ふと思ってしまった疑問をぶつけると、腕を組んで歩いているメイドちゃんから目をそらされてしまった。
「・・・?」
目をそらされてしまったので覗き込むと
「もう!」
頬に彼女が小さく振りかぶった手のひらが触れる、痛くもなく優しく触れられる。
私の頬に触れた女性は、頬を膨らませ困った顔をしている。
何か聞いてはいけない内容だったのだろうか?
「できますけどぉ、王宮や貴族の方のような手の込んだのは、苦手です。必要最低限の事しか出来ないですよ?」
てっきり、出来ないのが恥ずかしくて抵抗してきたのかと思ってしまったけれど違うみたい。
「出来るんだ!それだったら私と同じだよ」
切って煮て焼く、それくらいなら私だって出来る。
王宮や貴族がどの様な物を食べているのか知らないっていうとお爺ちゃんに怒られちゃうかな?お爺ちゃんの家に出されたご飯って貴族のご飯だよね?お爺ちゃんとこみたいな複雑な味付けはできない。
私が作れる料理は味付けもシンプルに塩だけ、ソースとか、だし?っていうの?そういう類の作り方はよくわからない。
基本的な料理の手順は知ってる。
適当なサイズに切って大雑把に煮て、浮いてくる灰汁を取るくらいしか複雑な工程は知らない。
お店で売ってる調味料を使って料理する事しか出来ない。
それでも、食べれる料理が作れるから、私は料理が出来る方!メイドちゃんと同じ!
ふふんっと自慢げに胸を張ると返ってきた反応が予想と違った。
「あー…はい、そうですね、団長と比べたら私は出来る方です」
目を平行にして呆れた様な顔?ううん、違うこれは、馬鹿にしたよね?
組んだ腕を彼女の腰に伸ばし引き寄せ抱きしめるようにしてそのまま覆いかぶさるように体を抑え込み
「ちょ、やめてください~髪の毛が乱れますぅ」
そのまま、姫様から教わった(やられた)擽り術を使ってメイドちゃんに攻撃する
耳に向けて息を鋭く吹きかけたり
「ふぁ!?」
腋を撫でるように摩るようにされど、触れるか触れないかのギリギリで皮膚をなぞるように擽ってみたり
「っやぁ」
背筋を指先で振れるか触れないかの人が何か背筋を通り過ぎていると感じてる距離で滑らせたりして、馬鹿にしてきたメイドちゃんの反応を楽しんでいると
「そういった行為を月明りが微笑む場所でするものではない、蜜月とは誰も見ぬ、誰にも憚れぬ甘き一部屋でするのが常識だ」
全然意識していない方向から聞き覚えの無い声が聞こえてきて驚き
「わぁ!?」
メイドちゃんから手を離してしまった、それも勢いよく。
そのせいで、私が抱きかかえている様な状態から唐突に解放されたメイドちゃんが地面に膝をついてしまった。




