Cadenza 私の、私達の…皆の歩んできた道 7
「うん、友達・・・」
どうして、先に言ってきたのだろう?
ぁ、親友の方が良いって事かな?
「私は…友達でも嬉しいです」
悲しそうにおでこを擦り付けられてしまう
親友って言って欲しいってことかな?
「だから、私の隣にいてください、ずっとずっと」
「…うん、約束する。ずっとメイドちゃんとは友達でいるからね」
背中に回された手の力が強くなる
「はい、私はずっと、ずっと…貴女の傍に居させてください。貴女は私の事を」
「うん、好きだよ」
抱きしめ返すと
「はい、それだけで、私は十分です、貴女が何れ子を抱くことがあれば私にも抱かせてください、貴女の子を私が乳母となり育てさせてください」
そんな未来はこないのだとわかっていても、彼女が私に希望を未来を重ねてくれるのなら
「うん、そうなる時が来れば」
受け止めてあげるのが友達、だよね。
そして、友達なら、私からのお願いも聞いてくれるよね?
「お願い。私からもいい?」
「何でしょうか?」
彼女を力強く抱きしめ
「メイドちゃんも子を産んで欲しい、私と一緒に育てよう」
「・・・はい」
返事が返ってくるのに少し間があったけど?
相手がいないとかそういう事を考えたのかな?
はいって言ってくれたからいい。
私達は何が有ろうとずっと…傍にいる。
月の光が私達の友愛を祝福してくれる
そう感じてしまう程に光が暖かく私達を包んでいる様な感じがした。
─ 月の光に照らされている、とある広場
そこには、かつて姫様が皆を救う為に槍を投擲し撃ち抜いた異形な獣の遺体が置かれていた広場
全ての仕度を終え一人の戦士がその広場から動けずにいた。
広場の一点を見つめ続ける、何もない大地を、恋焦がれる子供のように
「もう、準備は終わりまして?」
静かな足音に外行きの声色、今この街には貴族が多いであるからな
「ああ、勿論である」
その声色に合わせ吾輩も威厳溢れる物言いで応えると、愛する妻が隣に立ち、そっと吾輩の腕に寄り添うように腕を絡め体重を預けてくる。
その重さたるさ、何と軽やかな…
華奢すぎる愛する妻が吾輩に全身を預ける、何度も支えてきたが、一度足りと手重いと感じることが無かったのである。
妻の温もりに恋焦がれ求めているモノを見失いそうになってしまいそうである。
「何を見てられたの?」
声色が怖いのである、妻には、二度は無いと釘を刺されたのである。
ここは正直に答えないと最後の最後とはいえ愛がすれ違ってしまうのである。
それもこれも、吾輩が熱を帯びた視線を向けていたのが良くないのであるなぁ…
直ぐにでも訂正するのが正解なのであるが、その前に
「ここには、誰も居ないのである」
貴族達が居るわけでもないっと組まれた腕を伸ばし細くしなやかな腰へと優しく手を伸ばし強く抱き寄せると
「はい、では、肩ひじ張らずに、この街に居た時と」
俺の厚い胸板に愛する妻の頬があたり、妻の吐息が熱く感じてしまう。
「同じように、だな、わがは…俺もそうするよ」
愛する妻の頬が、僅かに震えている…戦いを前にしての震えであればいいのだが
違うのだろう
俺には、この感覚…覚えがある。あの時と同じだな。
「懐かしいな、お前と一緒に…二人だけで熊を倒したときを思い出すよ」
「ええ、貴方が居たからこそ、私達はここにいる、隣に貴方がいたから」
若かりし頃の俺達、まだまだ未熟だったあの頃、二人だけで向かう初めての巡回任務…
俺は、その前日、震えが止まらなかった、いや、お互い、震えが止まらなかった。
当時の俺は当日、澄ました顔で何時も通り冷静なお前を見て、その涼やかな出で立ちにより一層心惹かれた。
時が過ぎてから教えてもらったのだったな、妻もまた、恐怖を抑え共に挑んでくれたのだと知った。
当時、目の前にいる女性にかっこつけたくて、必死に取り繕ったりもしたけれど…あの死の大地に二人だけになるのが怖かった。
戦士長も傍にいない
頼りになる先輩もいない
あの時のように妻が震えているのだとすれば
「でも、此度は違います」
此方から励ますまでもなく、妻は己を鼓舞しようとしている。
「ああ、頼りになる人達が大勢いる、だから、震えなくともいい、もしくは、寒いのであれば俺が体温を分け与える、誰の目も気にするな、ここは、貴族の場ではない、俺達の場所だ」
絡められている腕を外してもらい愛する妻の頭が俺の顎近くまでよせ両腕で包み込むように強く抱きしめると
「はい」
俺の指先に愛する妻の指が触れ、愛する妻に包まれていく
「…」
「…」
二人何も言わず、ただただ、寄り添い続ける。
俺らに言葉なんていらない、全て、伝わっている、重なっている
そんな気がする。
「それで、何を見てたの?」
心臓を刺されたかのような鋭く冷たい言葉に体が跳ねてしまいそうになる。
…わがは、俺の言葉を待っていただけだった。そのうえ、まだ勘違いしてそうであるぅ…
「ここにな、あったのだよ、槍が、それが何処に行ったのかと、探してみたんだが」
「槍?槍なら」
妻がある場所を指さす、そこは戦士達の武具が保管されている保管庫
確かに、間違いではない、そこには使い捨ての槍が山ほど用意されている
だが、違う、俺が、一目ぼれのように幼き頃、騎士達が持つ特別な剣に恋してしまったあの頃のように
俺はあの槍に恋をしてしまった。
俺が欲したのは有象無象っというと武器商に悪いが、言葉の通り
何処にでもある鉄の槍ではない、俺が欲したのは…あの特別製の槍
「違うんだ、俺が欲しいと、最後の戦い、この手に取り共に戦いたいと願ったのは、何処にでもあるただの使い捨ての槍ではない」
俺の熱い想いをぶつけると
「・・・?」
俺の顔を上目遣いで見る妻は何を言っているのだろうかと不思議そうに此方を見ている。
俺らが扱う武器は全てに置いて消耗品、闘えば欠け、受ければ折れる、壊れてしまえば使い捨てるのが武具だと声なき声で反論してくる。
その意見、正しいと俺も思っている、だが、俺は見てしまったのだ。
ここにあった、槍が、ただただ脆く時が来れば使い捨てる武具とは違うのだと
異形な人型を貫き、我らを救う為に姫様がはるか遠くから放った槍
あの時、その場に居た戦士達、全員が思ったであろう…俺を除いてな。
この槍さえあれば異形な人型と闘えれるのだと、この槍さえあれば英雄になれるのだと勘違いした人たちが大勢いた。
力無き姫様でも敵を貫くことが出来るっということは、この槍が特別で特殊な魔道具なのだと誰もが思い、その力欲しさに、我さきへと槍に触れた
だが、誰一人として槍が誰かの手に渡ることが無かった。
有り得ぬことにな、異形な人型から槍を引き抜くことが出来なかった
誰しもが欲した槍は、丸で医師でもあるかのように誰もを拒んだ
考えられるか?そんな非常識…相手は死んでいるのだぞ?
死んだ肉塊に刺さったいれば肉や骨に阻まれることなくいずれは槍を引き抜けるのが道理であるのに
あの槍は、我々を拒むかのように抜けなかった、時が過ぎても抜くことが出来なかった。
だというのに
気が付けば槍は姿を消し異形なりし人型の死骸だけがこの広場に転がっていた。
目撃者を探し聞けば、姫様がこの広場を通ったらしく、それから槍の姿が無くなったのだと
槍を放ったのも姫様
だとしたら、姫様であれば何かしらの方法で槍が誰かの手に渡らないようにしていたと
我々では考えつかぬ細工を槍に施していた、つまりは、この槍は魔道具の一種。
つまるところ、魔道具であれば姫様が回収する、魔道具の管理は姫様がしているからな。
あの槍が特別製であると妻に伝えると小さく頷いてくれる。
「何度考えても、そこに辿り着く、あの槍は姫様の手にある…はず」
「でも、槍なんて長物、持てそうもありませんよ?そもそも、凄まじい衝撃によって敵を貫かれたのですよね?槍としてはもう使い物にはならないのでは?」
そうなのである。
妻の言い分も最もである、だが、俺は、戦士達はしっかりと抜け目なくチェックしている、俺も最初はあの槍はただの使い捨てで姫様が放った一撃が凄まじいのだと思っていたさ。
俺もまた妻と同意見、姫様を何度か遠くでお見かけした時に槍なんて持っていなかった。
どの槍にも代えがたき、すさまじき槍を誰かに託し何処かに保管するとは姫様の性格を考えれば、有り得えない。
何処かに隠し持っているのかと、何かこう小さく折りたたんだり、パーツをばらして組み立てる槍で車椅子の後ろにでも保管し姫様がずっと肌身離さず持っているのかと思っていたのだが
持っていなかった。
もしかしたら、信頼できる人、元筆頭騎士様、我らが戦士長の御父上であれば槍を渡しても己が懐にはいれはしまい。
だとしたら、何処かに保管しているかもしれないと、槍の行方を、戦士や騎士達にそれとなく探してくれるようにと、頼んでいたのだが、誰一人として見つけていない。
まだ探していない場所、迂闊に立ち入れない場所となると、考えられるのは姫様の病室。
そこであった場合、俺達は近寄れん!俺だけだとさらに近寄りがたし!
日頃の行いっというやつか?
俺が姫様の寝室や病室に近寄るのは良くないのはわかっている。
かといって
視線を下げて愛する妻を見ると不思議そうに小さく首を傾げ此方を見返してくれる。
「・・・?」
そうであるな、女性であれば病室に向かうことに関しては問題は無いのであろうが、規律を重んじるべき幹部としては規律を守らないのは良くない、幹部だからと言って面会謝絶の病室に知り合いを向かわせるっと言うのは、良くない。
愛する妻であろうと、姫様がいる病室に出向いてもらうっというわけにもいかない。
誰もが咎めることが無い相手っとなれば、No2、彼女に頼んでみればよかった。
今になって少々、後悔してしまう、会議室に集まっている時に話をしておくべきであった。
つい…準備をしないといけないっという部分に気を取られ過ぎてしまった。
齢をとると、すぐに何かを忘れてしまう、俺も、若くはないな。




