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最前線  作者: TF
721/725

Cadenza 私の、私達の…皆の歩んできた道 5

「そぅ、よね」

姫ちゃんの言う通りな気がする。

決めつけていたのは私ってことね。


ドラゴンという存在がこの世界にたったの一つだなんて、誰が決めたのかしら?ってことじゃない!

やだもう、恥ずかしい、お母さんは頑固で頭硬いよねって何度も姫ちゃんに言われたじゃないの~、あーやだもう、恥ずかしくなってきた。


そうよね、そもそも私は…この大陸の事しか知らないじゃないの。

そうなのよ、私達は王命によって大陸の外との繋がりが持ちにくくなっている。


この大陸の外、私達の知らない大地に住まう生き物、その全てを知っているわけじゃない。


そう、じゃないの…

外から入ってきた薬や素材だって山ほどあるじゃない。

世界はここだけじゃない、広くて壮大で未知がいっぱいじゃないの。


はー・・・やだもう、ほんっと、世間知らずの小娘じゃあるまいし、馬鹿じゃないの私…

「はは、そう、そうじゃない。私ってバカねぇ…どうしてその事に気が付かなかったのかしら?」

「お母さんは、変なところで意固地だし、頭硬いじゃん」

わかっていても、ストレートに言われると腹が立ってしまい

「いったわね!貴女だって、そうじゃないの!間違いを滅多に認めないでしょ」

「んべー!私は間違ってませーん!私は何時だって正義正解大勝利だよー!っだ!」

小生意気に挑発してくるので

「生意気な子はこうよ!」

体を捻り彼女に向き合うと直ぐに手を伸ばし両脇に指先を突っ込み巧みに動かし擽るが

「へっへーんだ私はそういうの効かないもん」

失念したわね、この子、こういう類のは、あまり効果が無いのよね

だったら!この子が嫌がることをするまでよ!

「あらそう」

笑顔へと顔を崩さない悪いこには強制的に笑顔へと変えてあげる!

この子はね!美が好きなの!美が崩れるのを嫌うのよ!こんな風にね!

「ひょっほ!ひゃめて!」

両頬をつまんで口角を強引に持ち上げると腕を叩いて抵抗してくる。

強引に笑顔にしてくる腕を何度も叩き抵抗してくる、病室に渇いた音が響き皮膚から伝わってくる。

でも、私はやめない、やめて欲しいと言われても止めて何てあげるもんですか!

そのままの流れで頭を撫でまわしたりと腕でしか抵抗できない相手に大人げも無く弄り倒していると

途中からは何も抵抗しなくなってきて

「もう、満足したー?」

両腕を伸ばし、途中から何も抵抗することなく受け止めるようになってきたので面白みが無くなってしまった。

彼女の諦めた顔を見て私も、蟠りが消えてしまった。

「ええ、満足よ」

丸めた紙のようにくしゃくしゃになってしまった髪の毛を綺麗にする為に彼女の上半身を起こし、背もたれにもたれ掛かるようにと、骨盤に手を添えて骨盤から体を持ち上げて体を移動させると、彼女もまたベッドに手を突き背もたれに体をあずけ、自身の体を支えてくれる。

愛する娘が倒れないのを確認してから、ベッドから下りて、ベッドの近くにある棚を引き、中から櫛を取り出して、ベッドに視線を向けると、笑ってしまいそうに、感情が溢れ出そうになるのを堪える。

寝起きよりも酷い髪形にされてしまったことに対して娘がご機嫌斜めに頬を膨らませている姿が…


余りにも、あまりにも…大切な日常だったから。


ご機嫌斜めな彼女の隣に座り、そっと櫛を髪へと吸い込ませていき、髪を丁寧に、ていねいに、痛みが無いように、やさしくとかしていく


「短くなったわね」

「・・・うん」


ここまで髪の毛を短くしたのっていつ以来かしら?

思い返してみれば、初めてかもしれない。


この子は定期的に髪の毛を切ったりしていた長い髪が好きだとは言え、研究の邪魔になるからと、何かしらの理由で唐突に切ったりしていたわね。

髪を切ったとしてもここまで短く切ることは無かった、短い時は大体、髪の毛が肩に届くか届かないくらいだったわね。

でも、不思議なことに次の日には肩甲骨の下端まで長くなってるときもあったのよね。

確か、ウィッグ?カツラ?エクステ?毎回、言葉が違っていてわからないけれど髪の毛を何かしらの方法で増やしてお洒落を楽しんでた、らしいのよね。


この子は昔っから、自分の中にある美を大事にしていた。


そう

この子はね、お洒落が大好き。


好きなお洋服じゃないと着たがらない

この子が好きなお洒落なデザインの服なんてね、彼女がこの街やってきた当時何てね、なかったのよね。

私達が用意する服は可愛くないから着たくないっていって、この街に来たばかりのときは、ずっと実家から持ってきた服を使いまわしていた。

最初は、実家の事が忘れられないのだと思っていたけれど、違ったのよね。

行商人の方に服を用意できないか頼んで、行商人の方に運んでもらって用意してもらったら、目を輝かせて運んできてもらった服を楽しそう選び始めたのよね。

それでわかったのよ、純粋に服の好みと拘りが強いのだとわかったのよね。


そうそう、あの頃は服の数が少なくて、それでも、外に一緒に敵の迎撃に出たりすると当然、服が汚れてしまって手持ちが無くなることもあったわね。

洗濯中で渇いていない時だけ嫌そうな顔で当時の色んな人が使いまわしていたボロボロな隊服を着ていたわね。

その時はほんっと機嫌が悪くて大変だったわね。

あの子の口癖、お洒落は頭からつま先まで!拘りぬくのがお洒落なの!っだったかしら?

お洒落をすることこそが彼女の信念だったわね。


その彼女が、髪の毛を、うなじが見えるほどに短くするなんてね。


そうしないといけなかった、私達が弱かったから。

私達はこの子から大事なものを、奪い続けている。


命までも…


短い髪の毛はすぐに整い綺麗になる

それでも、私の腕は止まらない、とまってしまうと・・・



もう

お別れになってしまうから



離れたくない


傍に居たい


ずっと


一緒に居たい


まだまだ


傍にいて欲しい


スピカが大きくなるまで


いいえ


この子が、彼女が…貴女が幸せになるまで

死んでほしくない。


私は…この子が短命という運命を乗り越えたのだとずっと思っていた

この子には明日があると、未来があると、私と違い好きな人と添い遂げる未来があるのだと…



でも

スピカを託された日に

打ち明けられてしまった。


『私の時計は何時止まってもおかしくない』


その言葉が私を突き動かした。

そして、彼女が予見していたであろう人類にとって起こりえる災厄、滅びるかもしれない運命

今この瞬間も敵は私達を滅ぼし絶滅させようと狙い続けている。


私達の未来を勝ち取るために

この子は…自身の未来も運命も…願いも私達の為に捧げてくれた。


私達が弱いせいで


己の不甲斐なさ、からなのか

この時間がもうこないのだという絶望感、からなのか

瞬時に…瞬きの度に、瞼の裏に彼女と過ごした日々が映し出されていく


色褪せることが無い記憶

色を失った私に見せてくれた

輝ける日々


辛くも

悲しくも

大変だった記憶ばっかりだけど


私に

生きる意味を

明日を与えてくれた



貴女は私に母の姿を映し縋ったのかもしれない

貴女にとって私は母親の変わりなのかもしれない

それでも

それでも…



私は良かった。

求められることに安堵していた

求められたことに歓喜した

この子の求める…全てに応えれるように頑張ろうとした、いいえ、是が非でも応えたかった。


そして

彼女と共に歩むうちに私は…


私の人生よりも彼女の幸せを願うようになった。

彼女が幸せで笑って…二度と悲しみで心砕かれないようにしたかった。


もう二度と

あんな、絶望に満ちて狂い落ちてしまいそうな涙を流させたくなかった。


私は

この子に笑顔で生きて欲しかった


「泣かないで」

頬が暖かく優しく感じる…彼女の手が触れ、心が張り裂けそうになる

「うわっと、もう、お母さんは仕方がないなぁ」

抑えきれることが出来ない、目の前にいる大切な娘を手の届かない、月の裏側なんていかせたくない。

湧き上がる感情が衝動となり彼女を抱きしめる。


小さくて、細くて、昔に比べると大人になった

生きる為に手放した成長するっという未来

それでも、私は、私達は努力した。

彼女が成長するようにと願いを込めて研究した


街に来た時よりも立派な淑女へと育ってくれた。

細い二の腕

細い腰

細い体…

本当にちゃんとご飯を食べているのか心配になってしまう。

私達と違って貴女は、飢えとは無縁の生活を送れるほどにこの街は変わった。

いいえ、変えてくれたのに…


貴女は何時までも細く軽かった。


貴女の命が軽いのだと言わんばかりに…


「しなないで」

喉が震える

「いきて」

腕が振るえる

「ずっとそばにいて」

全身が怯える

「いっしょにいきて」



彼女を失うという未来に

私の全てが受け入れようとしてくれない

どんなことをしてでも抗いたくなる


たとえ…娘の未来を奪おうとする相手が始祖様であろうと、私は愛する娘の為なら槍を持つ。

いいえ、得意とする薬学の知識を持って、誰をも殺すことが出来る毒をもって抗ってみせる。




大粒の涙が降り注ぎ私の頬を伝っていく…小さな水が熱を伴って伝っていく…

彼女の熱が想いが伝わってくる、熱を通して、壊れ行く人形である私の心を叩く、叩き続ける。


目の前にある母性の象徴、大きな胸に顔を埋め大粒の熱源を受け止め続ける。


彼女から伝わってくる悲痛な叫び、その叫びが忘れていた、ううん、何処かに置いてくるしか無かった、過酷で悲惨な救いのない世界を生きた私に、もう一度、置いてくるしか無かった熱を与えてくれる。


「わたしだって」

言葉にするつもりなんて無かった

「わたしだって」

叫ぶつもりなんて無かった

「わたしだってぇ」

だって、叫んだところで誰も助けてくれなかった

「わだじも」

手を差し伸べてくれる人はいた

「いきたかった」

でも、私達が最も助けを求め続けている人には届かなかった

私達の祈りは、届かなかった


どんな手段を使ってでも彼をもう一度、この大地に来ないといけない理由を伝えようとしても

彼は、きてくれなかった


救世主はいない

粛清にも来ない


「いきたかぁったぁ」

だから

「おかあさんと」

だから

「いもうと、と」

だから

「みんなと」

なるしなかった

「すぴかとぉ」

祈りを届け人類を纏める聖女ではなく…全てを救う救世主に

「いきたかったぁ」

残り僅かな時間を人類の未来、明日へと繋げるために消費するために

「いきたい、生きたい!!!」

今代の私は、祈りを止め、命を紡ぐことへと、己の人生を捧げてくれた

「いきたいよぉ!!」

だからこそ、今この瞬間に、全てを失った私がいる

未来の私が、過去の私に託した


そんな私が

失ってしまった

敗北者が


叫んではいけない

心の膿を


私は…止めることが出来なかった。



大粒の涙を流す二人、私達は似た者同士

愛する人を救うことが出来なかった似た者同士

容姿も似通った、偽物の聖女

誰も導くことが出来ず

誰も救うことが出来ず

奇跡を体現することが出来なかった紛い物の聖女


二人の願いは何時だって叶う事が無かった

何を望んでも、何を願っても

叶う事が無かった


ただ、この瞬間だけは、誰も触れることが出来ない

二人だけの瞬間

お互いの全てを吐き出していく、二人が歩んだ過酷で悲惨な道

辛く辛く辛い、救いようのない道…


その終わりが近づいてきている

永遠ともいえる、終わりのない旅路、その終わりが近づいてきて

私達は、その旅路が…まだ、そう、私達はまだ、実感がわいていなかった。

終わりを迎える事に心が追い付いていなかった。


私は、私達は…死が、当たり前すぎた。

最後の、この残された時間、私達はお互いを抱きしめあい過ごした。

全ての感情を吐露し、苦しみを吐き捨てるように、何度も何度も悲しい叫びと共に







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