Cadenza 私の、私達の…皆の歩んできた道 4
視線を愛する娘に向けなおすと
「ん…」
手を伸ばして何かを掴もうとしている。
言うまでもないわね、ベッドに備え付けてある柵を掴もうとしている
「いいわよ寝てなさい」
ベッドに近づき、彼女の手を優しくつかむ。
そのまま、ゆっくりと優しく羽のように軽い腕をそっと、飛んで行かないように…
丁寧に彼女の胸の上へと彼女の手の平を置くと
「ありがとう、えへへ」
気恥ずかしそうに此方を見ている…
何をいまさら、恥ずかしがってるのよ、貴女は、あなたは…
照れて此方に上目遣いで見てくる彼女の顔は…
うん、貴女の顔、私が知っている貴女よりも何処か幼く見えてしまう。
だからといって、貴女は貴女、何も変わらないわ。
そのまま、愛する娘の手に自身の手を重ねるように添え、ベッドを軋ませ愛する娘の隣へと腰をかけ
「眠たいのなら寝ていいのよ」
「大丈夫、っていうかね、寝るつもりなんて無かったんだけど、ね」
優しく微笑むと、唇を尖らせて不本意な状況だって表情が語ってくる。
貴女としても、起きて何かやることがあったって、ことかしら?
だとしたら、手伝ってあげたいけれど、私が出来る事じゃないのでしょうね。
「っま、寝ちゃったお陰で探す手間が省けた、ほんっと、お母さんってさタイミングいいよね?ベストなタイミングで傍にいてくれる。団長やメイドちゃんを使って呼びに行かせなくてよかった、彼女たちの…手間が省けた」
濁さなくてもいいのに、私に用事があるそれが何を意味するのか気が付かない私じゃないわよ。
そう、賢い貴女が気が付かないわけ何て無いわよね。
私はもう覚悟何て出来てるモノ。
そう、わかっていても…
「あら、私に用事?今更…何のお願いがあるの?」
言ってみなさいよっと重ねた手を摩ってから、手を離し、逃げるように近くに置いてあるカルテへと手を伸ばし、無意味だとわかっていても内容を確認する。
弱いわね私…
「用事ってわけじゃないけど、気になってたんだ」
言葉が近寄ってくる、それでも、私は…
「あら、そうなの?会議室で議題に出しにくい内容ってことね、何かしら?」
弱い私は、カルテに目を通してしまう。
字の書き方からみて、団長が検査したのね。
血圧も、問題ないわね、魔力の数値も問題なしってところね
そうね、あと…後は、点滴かしら?カルテを机の上に置き、点滴の状態を確認するために体の向きを変えると
「あのさ、敵の…ドラゴンの事知ってる?」
喉の奥が閉まる、心臓が跳ねる。
耳が声を拒もうとしたが、心が覚悟を決めろと言ってくる、進まないといけない。
終わりへと
「…し、ってるといっていいのかしら」
こんなにも早く、本題へとたどり着かされるとは思っていなかった、体が緊張で強張ってくる。
「やっぱり。なんかさ、敵の事を説明してるとき、お母さんの反応がおかしかったんだもん、伝承でもお伽噺でも、どんな情報でも些細なことでもいいから、ドラゴンについて何か有るなら少しでもいいから開示してよー」
ベッドの上に置き去りにした私の手を、ペチペチと経過な音を出すように、私の気も知らないで叩いてくる。
そうよね、貴女は何時だってそう、私の気を知っていても前へ進む。
その姿がこの街では希望として皆の心に、失い過ぎた私達の心を前へと向かせてくれた。
「いい、けど、その、先にはっきり言うわね」
喉が閉まり、声に出しづらい
それでも
「私は、ドラゴンの事を敵だと思いきれない」
振り絞るように貴女がボスと定めた相手が敵だとは思えれないと伝えた瞬間
「ほ~…なんで?」
一瞬、瞬きすら、心臓の一鼓動すら与える間も無く空気が凍り付くように緊張で包まれてしまう。
凍り付くような空気から己の身を守る為なのか、毛穴が開き心臓が暴れ回ろうとする。
だけど、もう一人の私が表に出てくることはない。
「かいつまんで、経緯を説明するわね」
軽快な音を出すように叩いた手のひらは、まだ私の手の甲の上にある。
その手からある感情が伝わってくる…
許しがたいっという殺意に近い緊張が伝わってくる。
触発されるかのように、その感情が緊張感を高めてしまい、話したくても喉が閉められ、声が出しづらくなってしまい、どうやって声を出せばいいのかと四苦八苦していると
「んー?説明しずらいのなら…ぁ、ごめん、何でもない、やっぱり口に出して説明して欲しいかな」
直ぐに説明しない私を見て何か思うところがあったのか、何か良い方法でもあったのかしら?
途中で止めて方向転換するっということは、きっと魔力を消費する類の何か。
彼女にとって貴重な魔力、それを、たかが、たったの、会話程度で使わせるなんて出来るわけないじゃない。
そんな選択肢を頭に思う浮かばせてしまうなんて、情けないわね、娘に助け舟を出させるなんてね…
そもそも、ここに来る前から、こうなってしまう、姫ちゃんから刺すほどの殺気を浴びせられるなんて、わかり切っていたことじゃない。
あの子は…姫ちゃんは敵と見なした相手には許すという言葉が無い、敵は何が有ろうと徹底的に叩き潰す。
敵であれば容赦しない
それでも、私は、伝えないといけない、本当にドラゴンが悪しき存在なのかと
彼女に問わないといけない。最後の判断はどうなろうと考えて欲しい。
踏みとどまって欲しい。
それが、ドラゴンという存在に二度も助けられてしまった私のするべきこと。
恩を仇で返すわけにはいかないのよ。
「これは、あくまでも私の体験、古い記憶だから大人しく聞いてね」
前置きを言うと、手の甲から伝わってくる殺気が幾ばくか和らいでくれる。
そのおかげか喉の緊張が抜け、少しずつ、当時の思い出したくない出来事を語っていく。
最初は喉の滑りが悪かったけれど、話を続けていくと手から伝わってくる彼女から放たれる緊張も完全に抜けおち、時折優しく、手の甲を撫でてくれる。
そう、私は助けられた。
二つの命を…かけがえのない大切で私の命なんか投げ捨ててでも、捧げても足りないほどに大切な人の命を救うことが出来た。
あの一度だけ、ほんの僅かな一瞬
見えた、見たことも無い光景
澄み渡る空に、一つだけ、たった、一つだけ
私に知恵を授けてくれた
空の真ん中?いいえ、アレは何処か見たことのない丘?崖?
そこに佇んでいる、御伽噺の中だけにある、古い書物にだけ描かれている空想上の生き物
ドラゴン
私は、そのドラゴンに何かを授けられた、何か?いいえ、わかってるじゃない。
魔術
今まで苦手だった、得意としていなかった術式に対して
突如、理解が深まった。
そして、魔力の使い方なんて殆ど知らなかった私が
魔力を他人に渡すという奇跡を起こすことが出来た。
これが無かったら、この出来事が起きなかったら
私は…愛する人の命を繋ぎ止めることが出来なかった。
あの出来事があったからこそ、愛する娘の命も繋ぎ止めることが出来た。
私にとって、ドラゴンという存在は悪ではない。
あの状況で、愛する人の命を助けてくれた唯一の存在。
こんな私に知恵を授けてくれた存在が、悪しき存在だとは思えれないのよ。
敵の親玉だとしたら、あの時、私に知恵を授ける意味がない。
それだけじゃない、私だけじゃない
王都に危険が迫ってきていた時も
ドラゴンという存在が奇跡を起こし、私達に、王都にいる皆に生きる為の時間を作ってくれた
そう、王都を守るために始祖様がおつくりになられた壁を王都の南側で築いてくれた
それによりわずかな時間、姫ちゃんが策を講じるまでの時間を稼いでくれた。
アレが無かったら、私達は…
王都が滅び、北からも南からも、敵に囲まれこの街は破綻していた。
敵がドラゴンであるのだとしたら…何故、どうして?私達を助けるのか
私はその疑問を解消できない限り、心からこの作戦を応援できることが出来ない。
場合によっては私は、前に出る、ドラゴンに問う、問わないといけない。
「貴女は…どうおもう?」
「んなもん、答えは決まってんじゃん」
驚いたりしない、間髪入れず答えを提示される。
彼女はとても頭の回転の速い子だから、決断力も高い。
冷酷で無慈悲で、されど、守る相手にはとても優しい。
そんな彼女が下す決断に私は逆らう事なんて出来ない、彼女が下す決断に手のひらが濡れてしまう
「他にもドラゴンがいるってことでしょ?何処かに息を潜めてさ」
提示された答えに私は馬鹿だと突きつけられてしまい、頭が真っ白になる。
「・・・ん?」
ほか、にも?
「お母さんさぁ、世界は広いんだよ~?妖精だっているんだから、ドラゴンが居てもおかしくないでしょ?私達がこの世界の、星の全てを知り尽くしてるわけないじゃん、この星に住んでいる全ての生命体の数何て把握できてるわけないでしょ?」
「・・・ぇ、ぁ」
たしか、に?ぇ?そもそも、妖精っているのかしら?そんなの見たことなんて無いから、わからないわよ。
「普段はさー、私達に気が付かれないように何処かに息を潜めて、されど、色んな場所を観察しているかもしれないじゃん?もしくはさ、お母さんを助けたドラゴンにも事情があって私達と接触できないかもしれないじゃん?ほら、王様みたいにさ、何かしらの条件や制限があって、表に出れないとか」
確かに…その通りじゃない、あのドラゴンが魔術を授けることが出来るのであれば知識や知能は高いってことじゃないの、だとしたら、人と同じように文化や文明がある、国があるかもしれないじゃない!
「私が、ううん、私達が戦おうとしているドラゴンと私達は心の底から敵対しているのは間違いないよ?でも、その個体だけが私達を滅ぼしたいと思ってるかもしれないじゃん?お母さんを助けたドラゴンはそれに反対しているけれど、何かしらの事情があって表立って私達に支援できないとか、そういう理由があるかもしれないじゃん。姿を出さないっていうのは、そんなところじゃないの?そもそも、あの糞ドラゴンが私達を助けるような事をさ、するわけないじゃん、するのなら何で私を噛み殺すのさ?」




