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最前線  作者: TF
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Cadenza 私の、私達の…皆の歩んできた道 1

「眠ってしまわれました」

腕の中で静かに眠っている姿を見て私も胸が締め付けられる。

彼女を想うせいか、自然と彼女に触れると彼女に魔力を流し込んでしまう。


魔力、これさえあれば、大好きなお姉ちゃんは命を繋ぐことが出来る。


皆と一緒に改造を施した私の体…

私にも何か…お姉ちゃんが魔術を酷使できたように特別な、この先に繋がるであろう大きな変化があるのだろうと


期待していた

でも

何も変化が無かった。


まったくもって変化が無かったわけではない。

魔力を渡しに渡していたからこそ、魔力が体に満ち足りていない感覚はわかる。

今は、そう言う感じが全くしない、幾ら魔力を注いでも体に魔力が満ちていく?そんな不思議な感覚がある。


…正直に言えば、それ以外の実感が何一つわかない。


たぶん、満たされる速さよりももっともっと限界まで魔力を外へと振り絞ればわかるのかもしれない。

医療班の私は、戦士の皆みたいに、闘う為に魔力で何かをするっていうのは、常にしているわけではない、魔力を使うのは主に回復の陣を起動させる為

時折、闘うことがあるけれど、それ以外で常時魔力を使うことが無い。


だから、今この瞬間、体に大きな変化何て無い。

体からはこれが本当に必要なのだろうかっという疑問が投げかけられてくる。


でも、目を閉じると反論してくる。

記憶が、心がその言葉に猛烈に申し出てくる。


必要だと


この記憶がそうしていたであろう、意識を向ける、遥かな空へ。

もしかしたら、彼女に触れていればその願いが叶うのではないかと、彼女の体に触れ意識を空へ…遥かな上空へと向けてみる。


魔力を注ぎ、彼女の体を通すように…


ダメだった、意識を何度も向けてみるが何も感じ取れない。

彼女が…今も私に支えられて眠ってしまっている姉のようにはいかない。


魔力さえあれば、私でも寵愛の加護へと何かしら触れることが出来るのだとしたら、寵愛の加護を通して魔力を満たして何か出来るんじゃないかな?そんな淡い希望を会議の間に考えてみたんだけど、ダメ。


会議の最中も実は、こっそりと何度も意識を空へ向けてみた、体の中に流れる魔力を、体験したあの記憶、あの感覚、忘れることが出来ない苛烈で熾烈な道。

その最中で、お姉ちゃんがやっていたような感覚、私にはそれがこびり付いている。

だから、見よう見まねでできるかもしれないと…やってみたけどダメだった。


お兄ちゃんが居たら何かアドバイスを貰えるかもって期待もして、お姉ちゃんの体に触れてやってみたけれど、ダメだった。


始祖様のお力さえあれば、お姉ちゃんを…私の大好きな姉と兄を失わずに済むって考えたんだけどなぁ。


淡い期待、小さな希望は流れるように消えた。


愛する姉であり友達である彼女の体に魔力を注ぎ終え、ゆっくりと車椅子の背もたれに体重を預けさせ、持ってきておいたおんぶ紐を使って軽く固定する。

車椅子を前へと動かす為に足と腕に力を籠め

「病室に戻ろう」

「はい」

会議室の外へ向かおうとするとメイドちゃんがドアの方へと先回りして開けてくれる。


おんぶ紐で固定された姫様と一緒に外へ出ると

「気持ちがいいね」

冷たい風が通り抜けていく熱のこもった体には心地よく感じてしまう。


つい心地よくてその場で止まってしまうと


「そうですかぁ?私は寒いですぅ」

寒いのか私の腕にメイドちゃんが絡みつくように引っ付いてくる。

彼女に引っ付かれると車椅子を動かしにくいっというのわけでもない、メイドちゃんはしっかりと私に合わせてくれるのか引っ付かれても大丈夫。

それに、くっついてくれると温かいから嫌じゃない。


「ささ、早く病室に戻りましょう」

風を感じていると腕を引っ張られてしまう

「姫様がお風邪をひかれないためにも」

何を急ぐのかと思ったら、それもそう。

うっかりしてた、私は熱くても姫様は寒い、体温の低下は免疫力の低下に繋がる。

ただでさえ、姫様は病気になると治りが遅い


ここで体調を崩されてはいけない。


メイドちゃんの意見が正しい。

「戻ろう」

車椅子を押して会議室から離れて行くと、少し遠くでNo2が私達を見ていたので、ハンドサインで『大丈夫』っと合図を送ると頷いてくれる。

彼女に見送られる様に私達は姫様の病室へと向かった。


病室について姫様をベッドの上に寝かせると

周囲には姫様に必要な点滴などが全て用意されていた。


そんな指示を出した覚えがない、きっとNo2が用意したのか、させたのだろう。

彼女には頭が上がらない、私が団長だと言っても、彼女が最も、医療班のトップに相応しいと何時だって感じさせられてしまう。


ここにいない彼女に…先輩に指示されたように姫様に点滴をセットし、用意されいている道具で体温や血圧、魔力を測定し、カルテに記入を済ます。


「概ね問題なし」

血圧も安定、体温も正常値、魔力も先ほど渡したから数値も概ね問題なし

ふぅっと息を零し、カルテを机の上に置くと


「・・・」

ふと、気が付いてしまう。


あれ?この後って、私何をすればいいのだろうか…

そう、司令官である姫様から何も指示を受け取っていない。

医療班として何か準備をするべきなんだろうけれど、何をすればいいのだろうか?


戦士代表であるベテランさんや騎士代表であるティーチャーは準備がある

No2は…何か指示を貰ってたりは…しない気がする。

先ほど、遠目で見えた、女将さんと、えっと、ベテランさんの奥様?だよね?と三人一緒に居たから

遠目だからよくわからないけれど、何か準備をしている様な感じでも無かった、だから、旧知の仲としてお茶会でもしてる、そんな雰囲気だった。


そうなると、医療班として何か用意しなくてはいけないことってないってことになる。

私としては何か予定があるのかと思っていたから、こうなるのは予想していなかった。


顎先に人差し指をあてて、どうしたものかと、天井を眺めていると

「団長は何処かに行かなくてもいいのですか?」

メイドちゃんが優しく声を掛けてくれる

「何処か…何か準備したほうが、良い筈…だよね?」

彼女の問いかけに対して問いを返す。

もしかしたら、メイドちゃんだったら何か姫様から言伝を預かっているのかもしれない。

「いえ、姫様は遊んできなさいっとだけ」

淡い期待は虚しく首を横に小さく振られてしまう。


ただ、一言だけの言伝

遊んで?…言葉の意味がわからない。


少し考えてみるが、本当に何の意味なのかわからない。

「この状況で何をするの?遊ぶ?そんな悠長なことしてていいの?」

姫様がどんな意味を込めて言伝を頼んだのかわからない。

今も静かに寝ている姫様を起して問うてみるのが手っ取り早いのだろうが

「起こしたくない」

静かに…息をしてるのかどうかも怪しいほどに静かに寝ている人を起こす。

出来るわけがない。

「メイドちゃんは…どうするの?遊びに、行く?」

煮え切れない言葉に対し

「いえ、私は…遊びに行くのでしたら、二人で」

言い淀むような返事、彼女はずっと姫様を見つめている。

空気が読めない私だってこれは流石にわかる

「誰か診ておくべき。私は何も予定が無いから、私が見てるよ。メイドちゃんはやることがあればそっちを優先して良いと思うよ」

姫様が言伝を残した相手はメイドちゃん。

メイドちゃんだからこそ、何かしら役割がある。

「いえ、私は…そうですね、はっきりと申し上げます」

やっぱり、何処かに行く用事があるんだ、遠慮しなくてもいいのに。

「私は、まだ、いいです。その時ではないっと思っています」

あ、そっか、何か予定があったとしても、その予定の時間じゃないとダメってこともある。

「ですので、姫様の傍には私が居ます。団長は…行かなくてもいいのですか?」

行かなくてもいい?どういうことだろう?

「最後の…姫様が遊んできなさいっとお伝えしてくれたのは、私達に最後のひと時を、悔いのない、悔いを残さない…そういう時間としてっという意味ではない、かと」

メイドちゃんにしては凄く歯切れが悪く言い淀んだ言い方。

何かあるのだろうけれど、聞いたとしても…きっと答えてくれない。

答えてくれるのなら、教えてくれる、空気が読めない私だってそれくらいわかる。

踏み込んでほしくない、そう言う意味合いだって。


なら、私は…この時間、残された僅かな時間、何をするべきなんだろう?

もう一度、視線を空へと天へと向ける、もしかしたら始祖様が月が導いてくれるかもしれないと。


最後のひと時…

残された時間…


遠い遠い、記憶

私であって、私じゃない記憶

ここではない、何処かわからない場所での私


その私も、最後の最後は…どうしたんだろう。

愛する家族と一緒に過ごせたのかな?

…ううん、最後は誰も傍にいなかった。

悔いはあった?

…やりたいこと、したいことは、いっぱいあった

そうだよね。だれだってあるよね?

…貴女は?

私は…悔いって、あるのかな?

やり残したことってあるのかな?


思い返す…

この街に来てからの日々を…


瞬間 ── 頭の中は一人の男性で埋め尽くされる



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