Cadenza 想いを背負って空気に熱を 6
「そんなの有り得ないからね、でも、その有り得ないを私が体現しちゃった、やってのけちゃった。私は…死にゆく私が奇跡を起こした、聖女の奇跡を…今回もそれを望んでるのだとしたら、ごめんだけど、私はこの先を知らないからね?知ってたらもっと具体的な策を提示するし準備もする。敵を徹底的に徹頭徹尾、死の大地を端から端まで逃げる余地すらなく追い詰めて、隙を与えることなく完膚なきまでに殲滅してみせるよ?」
此方を見ているNo2の視線がまたそらされ、小さく唇を噛んでいる…
思い出させてごめんね、叔母様の感情も湧き上がっちゃたんだね。
「本来っていうのも可笑しな話だけど、私が何度も死んだからこそ、今があるの。そして、これから先の未来は私には無い、皆で掴むしかないの…不確かで確実性があって絶対的な勝利へと導くことが出来ない私なんて、司令官失格だよね」
小さく頭を下げると同時に机が叩かれる音が会議室に響き渡り
「んなこたぁねぇ!頭あげろって!姫ちゃんは!ひめ、さま、は…司令官様は何時だって全力だった、ただ、駒であるあたいたちが不甲斐なかったから負け続けてきたんだ!そうだろ!姫様!!」
「そうである!吾輩もつまらぬことを滑らせたのである!思い返せば、何時だってそうであったではないか!敵というものは常に不確定である!毎度毎度!魔道具が変わり、癖も変わり、出で立ちも違う物ばかりである!総じて厄介な敵ばっかりだったのである!未知ゆえに、恐れる…そんなの戦士ではないのである!!」
古くからこの街を支えてきてくれた戦士二人の声に胸が熱くなる。
二人の熱が私の喉を熱くし、つい、少々喉が震えてしまう。
「策は…ないわけじゃない。さっき説明した作戦、これが…うん。私が最も成功する確率が高いって思ってる。内容が行き当たりばったり過ぎて皆が不安を感じてしまうのはわかってる、だからこそ、話し合いの時間が欲しかったの。私だって全てを見通せるわけじゃない。私が気が付いていない部分もいっぱいある、最後の最後だから、皆で話し合って作戦を決めていきたい」
頭を下げたままそう告げると
「では、会議の続きをするのであるな!さっそくであるが気になっていたのである」
こういう時のベテランさんの質問は的を得ている様で得ていない質問が多い、でも、そこから気が付くこともきっとある
「何?何でもいって、説明漏れがあるかもしれないし」
顔を上げると眉毛を潜めているベテランさんが此方を真っすぐに見ている。
「敵との距離を詰めるためにっという作戦部分であるが、誰が転移の陣を運ぶのか、人員は決まっているのであるか?」
誰を選ぶのかって事か…正直に言えばそこまで頭が回ってないんだよね、っていうか、今の私じゃ選ぶのは出来ない。
作戦の要ってわけじゃないけれど、私達の体力を温存するためと途中まで私達をサポートしてくれる人員を送り出す為の中継地点はね、今回も絶対に必須だって考えてる。
今の死の大地をノコノコと風を切って走る何て体力が持たないからね。
車で突っ込むっていう考えも無きにしも非ずだけど、敵をおびき寄せすぎてしまいそうで、却下かな?
あの時と…前と同じような作戦になっちゃうけどさ、中継地点ってのは大事。
敵地のど真ん中っていう最悪の場所だけど、直ぐに退去できる簡易的な陣を築くべき。
今回に関しては少数精鋭で挑むから前みたいにこの街から出発する戦う人達を支える為のサポーターの列なんて作ったりはしない。っていうか、作れないっが、正解かな?圧倒的に人が足りてない。
私達が前に出た分、街の最高戦力が街から消える、つまり、防衛力も大きく低下する。
先生がそれを見過ごさないわけがない、この街も防衛しないといけないんだもん。
一定の戦士達はこの街の防衛に励んでもらいたい。
「決まってはいないかな、私よりも、ベテランさんの方が誰が何に向いているのか知ってるでしょ?だから、申し訳ないんだけど、ベテランさん的にこいつらなら任せてもいいって人を見繕って欲しいんだけど出来そう?ちゃんと防衛も意識してね?」
「そうであるな。姫様が決めるよりか吾輩が決めた方が良いであるな。では、誰が何処の作戦に関るのか、人選に関しては任せて欲しいのである!っが!その前に聞いておきたいのである、王都から来ている騎士団はどうするのであるか?」
…忘れていたわけじゃないけれど、伝え忘れてた。
「王は私の隣に配置、っていうかそれ以外受け入れてくれないと思う。そして、王を守る為の精鋭騎士数名が王と共に行動する予定。後は、街を守るために残ってもらうのが正解だよね?指揮するのは当然、筆頭騎士様かな?彼と一緒にね、残ってもらった騎士団はここの防衛に専念してもらう」
自分で言っておきながら胸の端っこが締め付けられてくる。
心の問題なのかな?私としては彼に…隣にいて欲しいって思う部分がある。
でも、それを言葉にしてはいけない、言葉にすると彼は望んで隣に立ってくれるから。
あの人の…今の姿を観ちゃったらさ、あの人を戦場に…最も前に出すなんて考え、とてもじゃないけど出来ないよ。
彼はもう…ピークを通り過ぎている、彼を頼りにしてはいけない。
「王を守らなければいけないので、あるか?」
当然、そこの部分、引っかかるよね。
険しい顔…過るよね、あの愚かな特攻を…
王族と共に行動するなんて彼らからしたら忌むべき行動。
もう二度と、王族を守る何てしたくないだろうね。
でもね、これに関しては問題なし!言質とってんだから!
「ううん、守らなくてもいい」
たったこの一言で、全員が白目を大きくさせてしまった。
「王を守るのは、私達の仕事じゃない。そういう仕事はちゃんとそういう任務を拝命している人がやればいい。現に一緒に行動してるんだもん、王を守るのは王を守るためについて来た騎士達に任せればいいの」
それは、そうですがっと、小さく呟いたのが、元王族であるティーチャーくんが困った顔をしている
「だいじょーぶ!もしも、もしもだよ?アレを守れなくても私達が罪に問われることなんて無いからね!ちゃ~~んっと!その一点抜かりなし!言質取ってるよ!それにね、たぶん、アレは死ぬつもりできてる。その覚悟も示してくれているし、自分が死んだ時の事を想定して動いてくれている。今更アレを呼びつけて確認する必要も無い、アレはね、自分が月の裏側へと招集された後についても念書を用意してるはずだよ。だから、気にしないでいいよ。アレを守ろうなんて一切考えなくてもいいから、ほっとくのが一番!」
守らなくてもいい、罪に問われないという発言に女将とNo2とベテランさんが同時に大きな息が漏れだしていく。
「なら、良かったのであるな、アレは正直に言えば目障りであるからな!」
「とーしろがよぉ!しゃしゃってくんじゃねぇってな!ったく、たけぇたけぇ椅子にでも引っ込んどけってな」
二人同時に零れ出る悪態…良かった、アレを会議室に呼ばないで
だって、悪意たっぷりで二人が笑ってんだもんダーッハッハッハって、こんなの見られたら即不敬罪で打ち首だっつーの。
っていうか、隣にいる奥様もさ、旦那のそういった王族に対しての不敬な物言いは咎めるべきじゃないのかなって一瞬思ったんだけど、これダメだ。
奥様のあの一件以来、王族への不信感とか募らせてるんだろうなぁ…だって、何度も何度も眉間に小さな皺をこさえて頷いてるんだもん。
今代の記憶だと、アレって、人望が無いわけじゃないんだけど、この街にいる古株からしたら全員から心の底から、産毛の一本足りとて、アレを許容する気なんて無いんだよね。
アレもほんっと心臓が強いよね?この街に来てからずっと嫌な視線を感じているだろうに…
慣れちゃったんだろうね、人の悪意に。
「っま、そんなわけであれらの事は気にしないでね、元々、居ないモノなんだから」
「モノって」「人扱いしてないのであるなぁ!」
ダーッハッハッハっと二人が笑いあっているのをティーチャーくんまでやや困り顔で微笑んで見守ってないで止めたら?一応、古巣でしょー?ったく。良い根性してるよ。
「そんなわけで、会議が終わり次第、準備に取り掛かって欲しいかな。作戦ごとの人選に関してはベテランさんに任せる。当然、私の直轄部隊だろうと関係なく選んで術式部隊も乙女部隊も関係なく」
「わかったのである、魔道具に関しては彼らの協力は不可欠であるからな、此方で手配を整えておくのである。そうなると、であるな。うむ、吾輩はこれ以上何も疑問が無いのである、であれば、時間も切羽詰まってきているっと見るのが正しいである。そうと決まれば、会議が終わったらと悠長に構えるべきではないのであろう?吾輩は先に動かせてもらうのである」
大きく笑った余韻なのか顔を皺だらけにして部屋を出ていく。
止めるつもりなんて無いよ、彼の言い分が正しいんだもん。
堂々と胸を張って会議室から出ていく後ろ姿を見送ったのは良いんだけど、一緒に行かないんだ。
てっきり奥さんも付いていくのかと思いきや?閃光さんは背筋を伸ばして此方を注視している。
細かい作戦は奥さんが把握して後でベテランさんに伝えるって感じかな?
お互い何も言わず意思疎通が出来てるなんて、ベストパートナーじゃん。
さて、人員の選定はベテランさんがやってくれるから。後は
「では、騎士の部代表として発言させていただきます。」
何かを言う前にティーチャーくんからの申し出?が、あるみたいなので頷くと
「騎士の部としましては、先にお伝えしていただいた通りで問題ないと思います、転移の陣を守るために精鋭達と共に奮闘する、そして、前に出せない騎士達は街の防衛に努めてもらう」
確認の為って感じかな?間違ってないよっと頷くと
「では、此方も誰が何処に配属するのかお決まりで無ければ先輩と同じく、僕の方で決めさせていただいても」「うん、問題ないよ、寧ろお願いしたいくらいかな」
彼の言葉に続く様に、即座に返答を重ねると、彼もまた先輩と同じく静かに頷き
「承りました。騎士の部としても何も滞りなく準備いたします。続きましてお聞きしたいのですが」
んお?さっきのは前置き?何だろう?
「姫様がお持ちになっている敵の情報、その全てを教えていただきたいです」




