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最前線  作者: TF
698/719

Cadenza 花車 ⑱

この宣言に対して大きな声援が響き渡ることは無かった。

でも、私には彼らの声援が聞こえる、彼らの叫び声を感じる。

だって、私達の様子を遠巻きで見ていた人達が声を出すことなく音が鳴り響きかないように手を叩く素振りだけで此方に向けて拍手してくれている、声に出してはいないが手を上げて口を開けて叫んでる素振りをする人達がいる。


彼もまた全員で叫ぶと良くないっと言うことを理解してくれている。

願うなら、これくらいなら、何かの催しだと思ってくれるといいなぁ


空を見上げると鼻で笑った後、容赦ない一手を繰り出してくる邪悪な笑みを浮かべた先生の顔が見えたような気がした。

…そんなに甘くないだろうけどね、だって、先生はその頭脳を利用されているだけ、獣共にな、故に情なんてない。


空を見上げていると手を叩くような音が聞こえてきたので、視線を空から大地へと戻すと、声を揃え誓いを立てた三人達は各々の拳を合わせたり手を叩きあったりしている。


戦士たち特有の士気を高める儀式かな?これ以上、騒がないで欲しいんだけどー?っま、彼らが揃えばお祭り騒ぎになるってのはわかっていた話、大人しくろなんてさ、土台無理な話だったかなっと


仕方のない人達だなぁっと眺めていると

「いいですね、こういうの」

ふぅふぅっと息を切らしながら額に汗を浮かばせながらメイドちゃんが近くに来てくれる。

頬を赤く染め、額に汗を流し、肩で息をしている彼女の姿

「珍しいじゃん、息切れなんて」

彼女はどんな時でも優雅さを失わないようにある程度、余力を持って動く。

そんな彼女が余力を失う程に急いでくれたことに少しばかり嬉しいと感じてしまった。

「しょうがないじゃないですか、女将さんが!あの!女将さんがですよ?私よりも足が速いんです!本当に、物凄く足が速くて、それだけじゃないんです!あの!女将さんが!体力が落ちてきている歳には勝てないとおっしゃっていた!あの女将さんの走る速度がずっとずーーと落ちないんです!」

言い訳が物凄い速さで流し込まれてくる、別に攻めるつもりでいったんじゃないんだけどね?

「体力が落ちているってお聞きしていたのに、おかしな話ですよね?持久力も凄いんです。私が全速力で追いかけても置いてかれてしまったんですよー」

無限の魔力によって女将が手に入れたのは身体の雨量の向上だけじゃなく、魔力を体力へと変換された結果、無限のスタミナも得たってところかな?


いざ、こうやって女将の現状を目の当たりにして気がついちゃったんだけどさ、もしかしたら、私も、その感覚はあったかも?いっぱい動いてるのに疲れ知らずって感じだったかも?


思い返してみると、私ってあの時はそりゃ、体力を向上させるために適度に運動はしていたけれど、基本的に体力が伸びない私が…疲れ知らずで動き続けれていたのって、そういうことなのかな?


うん、きっとそうかも。

魔力が生命を支えるのであれば、そういった効果もあるよね。

肉体を強化できるのなら肉体を動かすエネルギーの代わりになってくれるって作用もあるって、ことだよね?


…あの時は、他の事でいっぱいいっぱいだったから、そこまで気が回らなかったや。


すーはーすーはーっと深呼吸をして呼吸を整えハンカチで額の汗を拭っているメイドちゃんに

「にひひ、女将に新たな力が宿っているからね」

女将が強化されたことを自慢げに話してみると

「へー…初見では何も変化が無いと思っていたのですが、彼女の背中を見て気が付きました、背中に取り付けられた魔道具がそういった補助をしてくれているのですか?あれは、確か、小部屋から団長が持って行った姫様の魔道具ですよね?」

詳しい説明っていうか原理とかは…ここではしたくないかな。一応ね。

「っそ、戦いに向けて準備を進めているって感じかな」

成程っと、小さく呟き、真剣な瞳が私に向けられる。

「私の役目はありますか?」

深呼吸も終わり、汗も引き、綺麗な…いつもの華になっている。

覚悟を決めた彼女はこんなにも美しいんだね。

「あるよ、団長の補佐をお願いしてもいい?」

折角覚悟を決めてくれ事に対して申し訳ないんだけど、ぶっちゃけここでは、特にメイドちゃんの仕事はないんだよね。今更、修練場を囲むように遠巻きで此方を見ている人達を払えなんて頼めれないしね。


ここで誰でも出来るような雑用させるくらいだったらさ、何かと忙しい団長の方、そっちの補佐をしてくれた方が有益かな?

此方の意図を組んでくれて入るのだろうけれど、納得はしてくれていない、そんな表情を向けられてしまう。

「わかり、ました…あの、些細な小間使いでも、私は」

どんなことでもいいから私の傍に居たいって?殊勝な心掛けですねー、私の時のメイドちゃんってわけでもないのに

…ってことは、単純に医療班の中に居たくないんだろうね。

「些細な、っじゃないでしょ~。自分を卑下しないの、使える駒はどしどし動いてもらうからね?私の予想だとね、団長の方が今は大変だからそっちの手伝いをして欲しいかなってだけだよ」

例え、メイドちゃん的に長居したくない場所だとしても、メイドちゃんしか出来ない仕事があるんじゃないのかな?…今のところ病棟は落ち着いてるみたいだから人員的な余裕はこの瞬間なら有りそうだけど、精神的な柱として団長を支えれるのはメイドちゃんしか出来ない気がする。

…ついでに、No2もメイドちゃんを見て気力を奮起してくれる気がするからね。なんつってね、にしし。

「…そのお言葉、他意はないですよね?」

他意?

他に何があるのかと考え直ぐに答えに辿り着く、私の頭は恋愛脳。

…あー。そっち?気を使ってるって思ったの?私が?

「他意は無いよ、でも、そういった邪な考えで近づくと容赦なくNo2が阻止してくるからね?」

にひひっと笑いながらメイドちゃんの脇腹を突くと微動だにせず

「やめてくださいー、私は団長と違って擽られる類には耐性がありますからねー?」

時と場合によっては笑ってくれたりするけど今はしてくれないや。

「知ってるよ。ほら、ここでノンビリとしてないで…愛してる人を少しでも支えてあげて、ほら、行ってきなさい」

照れ隠しをするようにしっしっと追いやる様に手を動かすと

「はい!何かあればお申し付けくださいね!」

さっきまで息切れしていたってのに急いで駆け出していく。

大きなスカートをたなびかせながら…愛だねぇ。


大きく、成長した華の姿に見惚れえていると

「姫ちゃ…おっと、師匠!」

女将に呼ばれたので気持ちを切り替える。

「これ、本当に、あたいが使ってもいいのかい!?」

謙虚な物言いとは裏腹に■■■くんの大剣をぶんぶんと豪快な音を出し軽々と振り回している

「女将の怪力に耐えられるのはそれしかないから、遠慮なく使って」

にこやかに最終許可を出すと真っすぐに切っ先を天へ向けて

「っへ、嫁さんのお許しがあれば戦士長もおこりゃしねぇよな!」

輝く眩しい笑顔が天に吸い込まれていく。

その姿を見たベテランさんが

「吾輩も新しい槍や剣が欲しいであるなぁー」

女将の手にある大きな大剣を物欲しそうに見つめている。

そんなベテランさんの呟きが聞こえたのか剣の切っ先を大地へ向け

「ほれ!こういった剣の扱い方、あたいに教えておくれよ!千差万別の手数を変幻自在に生み出し扱う手練れ!千の手を持つベテランさんよ!」

「っふ、手ではないのである技である、手だと違う意味に聞こえるのでやめて欲しいのである。姉弟子から教えを請われてしまったのなら応えるのが弟弟子としての務めであるな」

うんうんと頷きながら女将の言い間違いを訂正したのはいいんだけど、ベテランさんが言うと、全部あっち方面に聞こえてしまうのは気のせいかな?

「良かろう!基本的な型を授けるのである!っと、大きく胸を張って言いたいのであるが~、そもそもその大きな剣…吾輩もその大きさの剣を見たことも触ったことも聞いたことも無いのである、故に!共に探ろう!であるな」

「あんだい?おめぇ…」

ベテランさんの発言に違和感を感じたのか、ちらっと此方を見てくるので首を横に振るとにたっと笑みを浮かべ

「ああ、そういうことかい、なら、二人で探ろうじゃないか!わけぇころみてぇにな!」

大きな剣を団扇みたいにふって地面から煙が巻き上がっている。

その豪快な動きを見て

「その剣での模擬戦は勘弁してくださいよ?先輩、っである、修練場にある鉄剣全てが折れてしまいそうであるからな」

そんなへまはしねぇよ、だっはっはっと笑いながら修練所の端の方へ二人は歩いていく。


何故か知らないけれど、その後ろ姿を見ると、昔の事を思い出したような感慨深い感情が心を締め付けてくる。

「あの、姫様」

感傷に耽っていたら?ベテランさんの奥さんが私の前に立ち真剣な瞳を向けてくる。

そうだね、次は奥さんの出番かな?

「えっと、閃光さんって呼べばいい、かな?」

「はい、勿論です。お名前を呼んで欲しいっという個人的な願いもありますが、ここではそちらの方が私としても馴染み深いので、閃光とお呼びください」

丁寧にお辞儀されてしまう。

年齢はそちらの方が上だし、ここでは貴女の方が先輩なんだけどな?

っていうか、何時も通りせっしてこなくてもいいよ?王都で何度かお会いしたときみたいに丁寧な言葉使いなんてしなくてもいいのに。

「それで、どうしたの?配置についての願い?」

一応、先に彼女が心配していることについて聞いておく。

「いえ、配置に関しては姫様の御意志に従う所存です」

とか言いながらね、ベテランさんの隣から外したら文句言うくせに、なんつってね。

彼女もここまで来たらそうなることなんて無いってわかってんだろうね。

「その、医療班の団長から肉体を強化してもらったのですが、その、実のところ」

成程ね、その不安げな顔は改造したのに劇的な変化を感じ取れなかったってことかな?

女将みたいに明確な実感がわかないってのは仕方がないんじゃないかな?

だって、閃光さんって実戦から長い間、離れすぎていたからさ、体の変化に気が付いていないっとかじゃないの?


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