表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最前線  作者: TF
693/697

Cadenza 花車 ⑬

彼の指摘によって気が付き、つい、声が漏れてしまった。

「うっわぁ」

驚くべきは真っ二つに割れた鉄パイプ、その中央が裂けた部分、それだけじゃないってことだね


剛力によって生み出されたの力によって鉄パイプが真っ二つに裂けた、気が付くべき点はそれだけじゃない。

女将が握っていた部分にも相当な力が加わるからこの結果は当然だよね…ってことはさ、これって、大丈夫じゃないよね?


この疑問に静かに頷いてくれたような気がした。


彼女が握っていた箇所、中央みたいに裂けてはいない、裂けてはいないけれども…

手に持っていた箇所に複数の亀裂が生まれている…

人差し指と中指と親指かな?その触れていた部分が小さく凹んで、更には小さなヒビが走ってる…

由々しき問題だよね…解決策、考えないといけない。

この疑問に対して彼は頷くことも無く微笑んで此方を見ているような気がした。

「どしたんだい?」

驚いた声に女将が反応してくれたので、鉄パイプの一部分を指さすと

「お、ぉぉ?…これ、こうなっちまうってこったぁよ?あたい、自慢の武器をさ壊しちまいそうだねぇ」

これを見て直ぐに何が危険なのかどういった問題があるのか直ぐに気が付くのは長年闘ってきた戦士としての勘なのか、過去に力いっぱい振り回して壊してしまった経験でもあるのか気が付くのが早い。


そう、私が感じてしまった不安を彼女もまた直ぐに気が付く。


たぶんだけどさ、幾ら女将愛用のあの斧だとしても、この握力によって振り下ろしちゃうとさ?彼女専用に調整された特製の斧だっていっても…


先の跳躍、先の鉄パイプを裂いた一連の流れから想像するに易し


全力で叩いたら持ち手が凹むか、力を伝える胴の部分が衝撃で曲がってしまいそう…

あれもまた直ぐに替えがきく品物じゃないんだよなぁ。

「だねー…女将がつかっても、こわ・・・れない、ぶき・・・」

ってなるとさ、女将が全力を出せる武器が必要になってくる、すぐによう、い、でき…


声に出しながら脳裏に浮かぶ上がらされるように出されてしまった答えと同時に

『彼女にならあの剣を託しても良いと思うぞ、思い出に浸る為に用意したわけではないだろう?』

あの大剣の本来の持ち主から使用許可を突きつけられる…

私はてっきりさ、あの大剣を扱うのは団長だって、思っていたんだけど。

合理的に考えれば、団長よりも、そうだよね。団長よりも女将の方が適任だよね。


思い出の品にするにしては勿体なさ過ぎるよね。

全ての物を出しつくす、出し惜しみは一切しない!


なら、運ぼう、彼の意思を…ここに。


天を見上げ祈りを捧げるように落ち着いた声で

「ねぇ、メイドちゃん」

「は、はい!!」

声を掛けると、どうやら、彼女もまた上の空だったみたい、返事に焦りが混じっている。

そりゃ、誰でもそうなるよね、あんなの目の当りにしたら、衝撃が強すぎて意識が飛んじゃうよね。

私の声によって正気を取り戻したメイドちゃんの足音が近づいてくる、足音的にちょっとまだ心ここにあらずって感じが伝わってくる。

天を見上げたまま、彼女に指示を出す。

「団長と一緒に入った小部屋にさ、大きな剣、無かった?」

「ぁ、はい、中央によくわからない道具の隣にありました、運ぶべきなのかと悩んだのですが、重すぎて、運ぶのを躊躇ってしまいました、団長もその大きな剣に関しては何もおっしゃってくれなかったので」

そうだろうね、団長もアレの扱いは私に一任するつもりだろうから、下手に運ぶようにとは言わなかったんだろうね。

そもそも、あの質量をメイドちゃんが運べるとは思えれないし、他の荷物も多かったから、頼まなかったのかもね。

「それを、女将の新しい武器として渡してあげて欲しい」

「あ!なるほど!確かに女将さんなら…ぇ?でも、良いのですか?あれは姫様が扱われるのかと」

メイドちゃんはあの剣が何を意味するのか知ってる。

知ってるからこそ、女将が扱うことに対して疑問を抱いてしまったんね。

メイドちゃんが辿り着いた結論にも納得だよね、無限の魔力があれば、私であれば術式を用いてあの剣を扱う事なんて容易い、私が彼の意思を背負い共に戦うのに適しているのだという結論に辿り着くのも納得だよね。


そりゃ、私だって、あの剣を女将と言えど、誰かに託すのに抵抗が無いわけじゃない。

あの剣を受け継ぐのは私か、団長だって、感情が決めつけていた。


私と団長以外にあの剣を自由に扱えれる人なんて、合理的に考えれば女将しかいない。

頭の中にある合理的な部分、あの剣を扱えれるのは女将しかいないって納得している。

でも、感情がそれは良くないって止めに来ている。

ってところかな?自分の感情に向き合ってみるとそういう感じが蟠りとして残っているのを感じる。

今は感情に引っ張られるわけにはいかないってことだよね、■■■くん。

愛する旦那の進言が何も間違っていない、そう心の中で頷き

「いいよ、彼もそういってるから、運ぶのはメイドちゃんじゃ難しいから女将と一緒に取りに行ってくれる?」

天を見上げていた視線をゆっくりと下げメイドちゃんと視線を合わせると

「わか、わかりました!」

目が合った瞬間、ほんの僅かな一瞬、切なそうな顔をされてしまった。私、そんな酷い表情してたのかな?


何かを受け止めたかのように大きく頷いてから視線を外し、近くで独り言をつぶやいている大きいけれど背を丸めて小さくなっている女性に視線を向ける。

大きな体の女性が何を呟いているのか、耳を澄ませて聞いてみると、鉄パイプを見てどうすっかぁっと、何度も呟いて悩んでいる。

背を丸くしてこの問題にどうやって向き合えばいいのか悩んでいる女将に

「女将さん!師匠からの伝令です、貴女の新しい武器を取りに行きますよ」

メイドちゃんが丁寧に声を掛けると、女将も「用意してくれてたのかい!?」驚き此方を見てくるので、用意してあるんだよっと伝えるように静かにゆっくりと頷くと、嬉しそうな顔で頷き

「では、行きましょう!」「応さ!」

背筋を伸ばし希望が見えたのか元気な声を置いていくように駆け出して行った。

二人一緒にあの剣が待つ小部屋に…ずっと静かに彼の意思を背負いこの時を待ち続けている大剣が居る部屋へと駆けて行った。

その二人の後を追う様に他の人達も付いていく。

きっとメイドちゃんが声でも掛けたのかな?騎士の人達も慌てて彼女達の後を追いかけて行った。


そしてまた、自由を失いし者は独りとなるのでした。なんつってね。


一人になんてさせてくれそうもない、誰かが去ればまた誰かがやってくる。

女将とメイドちゃんが走り去っていったのを見ていた人が修練場に私しかいないのを見て近づいてくる。


どうやら人気者は休ませてくれないみたいだね。なんつってね。にひひ。


「女将に何を教えたんだ?」

兜を外し近づきながら質問をしてくる、その人物は、当然、私とも面識がある人。

よく一緒に行動しているのはベテランさんかな。

ええ、ベテランさんと一緒に行動しているって言うのは当然、あっち方面だよね!

ほんっと、あっち方面のことを楽しそうに話をしているのを何度も目撃している、それくらい二人の仲はたいそう仲がよろしい。

今のように奥様がベテランさんの近くにいる時は、絶対にベテランさんの傍に近寄って欲しくない奥様の機嫌が悪くなるのが目に見えているほどに!ちょっとした友達、っていうよりも、女性からしたら悪友だよね!この二人が揃うと何かしらセクハラ事件が起きるからね!私の旦那に悪影響だっつーの!がるるるる


表情を一切崩すことなく、近づいてくる悪友に問いに対してはぐらかすことなく答えてあげると

「別に、君たちからすればごく普通の技術、戦士となるには必須技能である、魔力の使い方だよ」

投げかけた問いに対する答えに納得したのか小さく頷いている。

「…そうだったな、先輩は確かに魔力の扱いがなっていなかっ。と、本人の前で絶対に言えぬことではありましたな。先のように思う事もありましたとも、ですが…俺とて額が無いわけではない、それだけで?それだけで人の域を超えることが出来るのか?だとしたら俺達はどうしてその域に届かない?」

頷いてくれたけれど、納得してはくれていないね。

「力を求めるの?」

戦士であれば誰しもが求めている、求めないわけがない、それがわかっていても、この質問は必須。

「もちろん欲しい、願わなかったことなぞ一度たりとも無い。我が友、我が盟友、我が…愛を守る為ならどのような」「一週間しか生きれなくても?」

彼の想いや願いの発露に対して差し込む様に代償を伝えると、想定外の言葉だったのか、目を開き、言葉を飲み込めたのか開かれた瞳は細くなり私を睨みつけてくる。

だけど、直ぐに首を横に振ってから、何かを求め静かに顔を上げ天を見上げると彼の頬から一滴の涙が流れ落ちていった…

これだけで女将がどういう状況なのか直ぐに理解したって事か、ほんっと地頭は良いよね、ベテランさんに悪知恵ばっかり授けてたのは流石ってところかな。

「彼らを、生かすにはどの様にすればいい?」

彼ら…複数?っは、カマかけてきたって言うよりも確信したってところかな?

女将だけがそれを施されたわけじゃないって直ぐに理解したってことね。

っま、別に声に出したところで、何も問題なんて無いよ、ねぇ?先生…

「一週間…理想は一週間が限界かな、その期間以内に決着をつけるよ」

天を見上げていた彼は月がある方へと指を刺し

「あいわかった!我が友を死なせるわけにはいかん!月に誓おう!我らが始祖様に誓おうぞ!」

理想から現実へと視線を下ろし、現実を突き付けてくる私を…睨みつけることは無く、その瞳には決意に満ちていて表情も若々しくなっている。

「やる気出た?」

「ああ!出たとも!正直に言えば、若かりし頃の挫折が俺の心を蝕み折れかけていた」

へー…初耳なんだけど?騎士団の人に挑んで負けたりでもしたの?正直に言うとあんまり興味ないんだけど?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ