Cadenza 花車 ⑫
それにさ、閃光姫さんとこだったら武家の血筋だよね?
そうなるとさ、彼女はどう見ても武家として活躍できないタイプの人だよね?
だとしたら、貴族として娘の扱いなんて決まってる。政略結婚の駒にされちゃうよ?
そうなると、私の後押しも欲しくなるよね?貴族と平民の壁なんて私が取っ払ってあげないとね!にしし!恋に愛に生きてよね!!
「そうだよ、相手の事を好いているのなら何か起きる前に進みなよ!何か問題あったとしても私が解決してあげるから」
何が有ろうと守ってあげると宣言すると
「姫様ならそう仰ると思っていましたよ!」
筋骨隆々な戦士の人も大きく頷いてくれているが
「数多くの戦乙女達を引退させたのは姫様のその一言ですよ!」
細身の彼は耳を真っ赤にどころか、頬も真っ赤っかにして反論?してくる。
その反論の仕方は違う気がするよねー?
だってさー、好きになっちゃったら止められないでしょ?
寧ろ!止まるなってーの!恋に愛に生きろってーの!!
そうだよ、幸せに生きて欲しいじゃん。
こっちの事はこっちで何とかするから…
相手が、好きな相手が離れて…
触れることが出来ない場所にさ、行ってしまう前に事をおこせってーの。
「ここまで御膳立てされたらな、ほれ、いくぞ、素直になれ」
「わ!?ちょ、引っ張らないでくださいよ!俺はアンタたちと違って鍛えぬいたご自慢の肉体じゃないんですからね!自分で行けますから!」
両肩を掴まれ逃がさまいと連れていかれたけど、何だ、彼自身も…これ以上は野暮ってやつだね。にしし。
あーでもなー!個人的に時間があれば後をついていって影から見守りたかったけどなぁ!ベテランさん達も連れてね!なんつってね、にしし。
彼らとすれ違う様に大きな姿と小さな影が此方に向かってくる、遠目で女将と目が合うと
「おー!持って来たぞー!」「廃材持ってきましたー!」
楽しそうな笑顔を向けてくれる
ゴロゴロと太いタイヤが地面の上を転がる音を豪快に響かせている。
メイドちゃんの言葉通りなら廃材を乗せてきた大きな猫車の音だろね。
うん、見えてきた、猫車の上に廃材が乗ってる。
猫車の上だけじゃなくメイドちゃんも手に持てる程度に運んでくれている。
必要だとは言え、何度も何度も荷物運びばかりさせてしまって少々、申し訳ない気持ちもあるので、今度こそ労いの言葉を言ってあげないとね。
「力仕事頼んじゃってごめんねー」
徐々に近づいてくる早足の二人に労いの言葉を投げかけると
「あにいってんだい!今のあたいにとっちゃ、この程度の重さ赤子みたいさぁね!」
「私は重たいですー」
両手で鉄の棒を抱えたメイドちゃんは疲れた顔でさらっと文句を言ってくる。
二人が近づいてくるのを待っていると聞こえてくる二人のやり取り、華奢だねぇっという呟きに華麗な華なのでっと自慢げに返事を返す辺り、今代のメイドちゃんは心が強い。
微笑ましいやり取りを眺めていたら近くに廃材を乗せた猫車が置かれメイドちゃんが抱えていた鉄の棒も床に置かれるので、実験を始める!の前に確認しておかないとね?前と後が明確にしないとね。
「女将ってさ、過去に鉄の棒を曲げたことある?」
女将だったら何かそういうの何処かで試してみたかもしれないからね。
この質問に顎を触りながら左斜め上に視線が移動し少しだけんんーっという考え込む声が喉から零れていく、彼女が思い出すのを待っていると。
「あー、ちょっとした催し物で一芸としてフライパンを丸めたことはあるぜ?」
記憶を掘り起こし終えたのか、それに近しい出来事を思い出してくれる。
フライパンを丸める?言葉の意味が良くわからない、けど、鉄棒とフライパンじゃ強度が違うけど、念のため足とか使っていないのか確認しよう。
「腕の力で?」「ある程度は腕で曲げていったね。最後の最後、綺麗に丸める時はよ握力でなのか?両腕で圧縮する様に押しつぶすようにしたさぁね」
あーんー、がっつりと腕の力だね。
ってことは、元からある程度の厚みがある鉄くらいなら、ひん曲げることは出来たって事か、なら、大きめの鉄パイプが廃材の中にあるから、それならフライパンよりも強度も太さも高いはずだから
「そこにある私の腕くらいなら軽~く通り抜けることが出来るサイズの大きな鉄パイプがあるでしょ?たぶん、用途としては水道管かな?水を通す為に用いていたであろう廃材かな?」
「はい、そうです」
直ぐに肯定の返事をしてくれる。ってことは、あれか再利用廃材置き場から持って来たんだね。
「もう一度溶かして、再利用するために置いてたやつっで間違いないかな?」
「はい、間違いないです。あそこの廃材置き場は姫様が何かしらクラフトしたり、実験するために置いて置いた鉄くず置き場に置いてあった物です、廃材とはいえ、一応、保管の為に綺麗に洗ってます」
成程、今代の私は資源の大切さをよく理解してるってことね、リサイクルは大事だもんね。
私の時だって折れた剣も、刃先がかけた槍も、使えるものは全部!しっかりと再利用してきたもんね。最終的にいったん、融かすのであれば。
「なら、どれだけ曲げても問題ないよね」
「はい、何も問題ありません、破棄、及び、再利用の為に置いて置いた廃材です」
私達のやり取りを聞いていた女将がへーそういうのもやってんだなぁっと呟きながら廃材の中から私が指さした鉄パイプを軽々と持ち上げてくれる。
「それ、曲げれる?」「あーどんなもんかねぇ?…お?ぉー、分厚いじゃねぇか」
手に取って鉄パイプの厚みを目視で確認したり拳でコンコンっと叩いてふんふんっと頷きながら材質がどの程度なのか確かめている、女将って意外と職人気質なとこあるよね。
「あー、うん。こりゃ無理だな、幾らあたいでも軽い気持ちで曲げれるものじゃねぇよ、何度も頑張ればよ、何時かは曲げれるだろうけどな。そもそもさぁね、これってよ、用途的に曲がらないように鍛えられたやつじゃねぇのか?」
うん、そうだよ?たぶんだけど流れてくる液体によって破損したり曲がったりしないように鍛えられた直線用のタイプだと思うよ?
当然、中身が漏れ出ないように厚みがしっかりとしてるタイプ。
過去の女将では曲げれないと確信が持てるのなら!
「試してみてよ」
既に諦めているのか、少々嫌そうな顔をされる。女将としては珍しく試そうとしない。
分かり切ってることはしたくないのか、恥ずかしいからなのか、どっちだろう?
嫌そうな顔をしても
「あたいは無理だと思うけどね、っま、師匠のお言葉だ、あんていうんだっけ?物は試しってやつかい?」
手に持っているメイドちゃんと同じくらい背丈があり、私の腕くらいなら易々と通り抜けることが出来る程の大きさがある鉄パイプを胸の前まで持ち上げる、まるで槍を構えているかのように横に向ける。
気合を込めるように?意識を集中するためなのか大きな女将の瞳が細くしている。
集中力が高まっていくのを肌で感じていると、不思議な音が聞こえてくる、パイプの端を掴んでいる拳の辺りから聞いたことのないキュゥゥっという音が聞こえてくる、拳や前腕に血管が浮かび上がっている相当な握力を込め始めているのだろう。
更に力を込めるように上腕や前腕の筋肉が太く盛り上がり、大胸筋が衣服が弾けそうな程に膨れ上がると細くなっていた瞳が大きく開かれ
「ふん!」
気合の入った声と共に爆発するような音の衝撃波が私の胸を叩く。
力を込める様に両腕を自分の胸に向かって力を込めた瞬間、聞いたことのない鉄が裂ける音が通り過ぎて行った。
初めてみる光景に、初めて感じる音に三者三葉に感想を抑えきれなかった。
「っば!?」「ぇぇ!?」「裂けるんだ」
結論としては裂けました、人の腕で裂けるとは絶対に不可能だと思っていた極太の鉄パイプが裂けました。
水道管として扱っていた金属製のパイプは見事に彼女の腕と腕の間、その中央を起点として真っ二つに裂けた
曲げる目的で造ってない金属とはいえさ、もし曲がるのならゆっくりと曲がるって、思うじゃん!?まさか、さけ、裂けるんだぁ…
力を込める勢いが良すぎたってこと、かな?
女将もまさか裂けるとは思っていなかったのか手に持っている鉄パイプの裂けた部分を驚いた表情で見ている。
「あー・・・ぁぁ?え、ど、ぇぇ?」
鉄パイプが真っ二つに裂けたっと言う状況に理解が追い付いていないのか何度も何度も鉄パイプを見ている女将を見て、少しずつ興奮が冷めてきて冷静に思考が動き始める。
あの鉄パイプを裂いたほどの衝撃、女将の腕とか何処か痛めている可能性があるよね?
「これは想像以上だったね、それとさ、その、腕とか痛くない?骨とか、大丈夫?」
自身の無茶ぶりのせいで怪我が無いか確認するために質問をすると、手に持っていたパイプを床に置いて確かめるように体の色んな部分を動かして確認してくれる。
一通り、全身を動かし終えると、不思議そうに顔で
「あ?…あーどこも、痛くねぇなぁ…はぁ、驚きだねぇ」
彼女の動きに違和感が無いのか見てたけど、腕を持ち上げたり肩を回したり手首を回したり指を開いたり閉じたりとしても何処かぎこちない動きも無かったし、痛みに対して我慢しているとかそういう素振りもなく、何一つ問題は無さそう。
あれ程の力を発生させたにもかかわらず、筋肉骨関節何処にも損傷がない。
魔力で強化するってそこまでできるの?
『当然、極めれば魔力をどの部分にどの様に作用させるのか選ぶことが出来る。自身の力で己が損傷するような下手糞な使い方を伝授したつもりはないさ、それにだ君は見落としている』
疑問に対して即座に答えてくれる、きっと、胸を張って自慢げな表情をしているんだろうね。
ってか、見落としている?何を?
床に置かれた鉄パイプに視線を落とすと




