Cadenza 花車 ⑩
大切な人を守る為にも気を引き締めなおすと女将にも伝わったのか表情が凛々しくなっている。
「それじゃ、師匠!魔力ってのは…どうやって、攻撃するんだい?体の調子がいいってだけで、今一つ、これをどうしたらいいのか思い浮かばねぇんだが?ってなわけでよ!あたいに全てを伝授してくれよ!そもそもさ!あれだろ?あたいが一番最初ってのはあたいが一番手がかかるってこったろ?わかってんだよ、あたいが魔力に関しては一番未熟ってのがよ!」
こういうところは凄く察しが良いよね!ベテランさんの前じゃ肩ひじ張って見栄はってさ絶対にそういう未熟な部分をオープンにしないけど、わた『ありがたい、この魔力があれば直接彼女と繋がれる』唐突な声に頭が真っ白になる。
おわ!?起きたの?ぉ、おはよう。
挨拶に返事が返ってくることなく勝手に腕が前に出される
「お?なんだい?あたいも同じように腕を前に出せばいいのかい?」
一言くらい!説明してくれてもいいんじゃないのかなぁ?ったく、私だからこそ、何がしたいのかわかるけどさー…信用と信頼の現れだろうけどー。もう、仕方がないなぁ。
愛する旦那の意図を汲むのも妻の役目ってね。
「ううん、どっちの腕でもいいから手を握って」
「あん?何の意味があるんだい?そんなの弟子が考えるまでも無いか、そうさね!師匠の言うことはぜってぇってな!」
力強く腕を握られると女将の意識が飛ばされたのか地面に膝をつき全身が脱力したかのように頭を下げる、されども、私の腕を握った手は離れることが無い。
考える間も出ないよね、まったく、愛する旦那は容赦がない。
一瞬で女将と意識を繋げて意識を自分の世界に引きずり込んだって事かな?
…ほんっと魔力の扱い方は飛びぬけてる。
『ふふ、僕が居るからね』
ん?もう一人の旦那も起きてたみたい。おはよう。
妖精ってみんなそうなの?だとしたら、子供達を怒らせるのは怖そうだね。
『そんなことないさ、子供達は滅多なことでは怒らないよ。妖精たちはね、遊びを通して魔力の使い方を覚えるのさ、彼らが怒るとすれば、理由なき暴力くらいさ、命が奪われる様なことでもなければ我ら妖精が他者に怒りを覚えることはね、滅多にないさ』
なら、大丈夫かな、私、理由なく暴力振るったりしないもん。
遊びで相手を傷つけてしまうことはあるかもだけどね
『追いかけっこをして慌てふためいて転んでしまったくらいであの子らは怒ったりはしないよ、■■■は優しいね』
にしし。
『でも、妖精の子達でも産まれて間もない子は魔力の扱い方を間違えて他者を傷つけることはある』
それは仕方がないんじゃない?相手を傷つけたり自分が怪我をすることで学ぶこともあるよ、問題はそれが致命傷になって取り返しのつかないことになるってことじゃない?
『その点は大丈夫かな、産まれて間もない子が扱えれる術程度では誰かが死ぬことはない、あるとすれば遊んでいた相手を転ばしてしまったりとか、その程度さ』
それくらいなら、遊びの範疇、王様は過保護すぎない?ってね、にしし。
『終わったぞ』
っわ!?とう、とつっていうか、早くない?
『身体操作について教える程度だからな直ぐに終わったよ、ついでに彼女と魔力の流れを繋げつつ、悪いが魔力を粉砕先輩から拝借した、一連の流れに対して保存されちえる魔力をほぼ使っていないぞ』
お、ぉぉ、そんな芸当も出来るの?
『魔石から魔力を得るという経験を■■■が経験してくれているからこそ出来た芸当だ、君の…君たちの人生が俺達を導いてくれる』
そう、言ってくれると嬉しいけどさ、いつの間に私達の経験まで、会得しちゃってるの?
…あ!だから、なのかな、泥の中にいる私達の反応が鈍いのって■■■くんと何かあったってこと?
愛する旦那に質問を投げかけ返答が返ってくる前に
「なるほどねぇ、ありがたい話だよ、戦士長自ら技術を叩きこんでくれるたぁね」
脱力し頭を垂れていた目の前の巨体が唐突に立ち上がっ、たと、思ったら
「こう!」
物凄い速さで上半身が起き上がり、見上げるころには、視線の先には飛び上がった彼女の足先しかなかった。
立ち上がる為に膝を伸ばす様に地面を蹴りジャンプした、んだけど
足先から先を見るために空を見上げると
「ぉ、ぉぉ!?」
あの巨体が立ち上がるついでに、軽くジャンプしたのだろうけれど!
1メートルくらい飛んでるんだけど!?
「おおお!?」
目の前に驚いた表情のまま、巨体が地面に大きな音を出して着地する。
ドズンっと重たい音と同時に地面に衝撃が伝わり、車椅子が一瞬だけ宙に浮いてしまったのでないかと錯覚を覚えそうな衝撃がお尻に伝わってきたんだけど!?
「っば、うっそだろぉ?あたい、勢いよく立ち上がろうとちょ~っと膝を気持ち強めに伸ばしただけだぜ!?魔力を筋肉に混ぜ込むってのは、こ、こんなことが出来ちまうのかい!?」
今まで生きてきた、日常を送ってきた感覚と大きなずれが出来るのって良くないんじゃないのかって思っちゃうけど…そんなことよりも試したくなっちゃわない!?
オラわくわくすっぞ!!!
滾ってくる好奇心を抑えることが出来ず、つい声を張り上げてしまう
「女将女将!全力でとんでとんで!!」
「おうさ!」
オーディエンスに堪える様に力こぶを見せてから
飛ぶ際に発生する何かで私を巻き込まないように軽く距離を取ろうとしたのか一瞬だけ膝を曲げてバックステップをするように片足で地面を蹴ると
「わっぷ」「ぉ、ぅぉぉ!?」
ただそれだけの動作なのに風が巻き込まれ彼女が飛んだ方向に向かって風が吹くが、車椅子から落ちることは無かった。
バックステップによって発生した突風に引き込まれそうになる、車椅子から転げ落ちなかったのも
『まさにエンジンを乗せた人っという感じだな』
旦那が私の体を念動力で支えてくれたおかげってね!
一瞬だけ感じた彼の温もりに感謝を捧げていると
「わりぃ!!大丈夫か!?」
僅かな屈伸で距離を取った大きな女性が心配そうに手を振ってくれている。
一度の軽いステップで…瞬くような一瞬で女将はあんな距離まで、距離にすると感覚で言えば戦士としての間合いの外、目算だけど、たぶん5メートル近くかな?
離れた距離に女将も問題ないと判断したのか心配そうに此方を見ながらも次の動作を起こしても良いのか周囲を見渡している。
彼女もまた、待ちきれないのだろう!
開始するための合図を送る為に手を上げて
「大丈夫!何も問題ないよ!」
声を張り女将に届けるとこれから起こすことに興味が湧き上がっているのか大きな女性の口角が上がり
「っしゃ!こんだけ距離がありゃ大丈夫さぁね!」
気合を入れた声が通り抜ける間も無く、膝を曲げたその刹那、大きな体躯が空を舞う。
飛…飛んだぁ!?
ッゴっと、突風が飛んでくる音が私の体を通り過ぎ、地面を蹴った衝撃を受け止め、直ぐに視界を空へと向けると、上空で女将の姿が見える。
その高さはただただ、軽く垂直飛びした高さとは思えれない程にとても高く、ゆうに建物を飛び越えている。
っていうか、これ高すぎない!?2階よりも高くない!?建物の高さ超えてるよね!?
戦士達の修練場にある屋根よりも高く飛び上がったとおもったらやや小さく見えた女将の体が徐々に大きく見えてくる。
当然、高く飛んだものは地面に吸い寄せられる、雄たけびのような声と共に女将が上空から下りてくる、大きな声と共に女将が地面に激突する!?
「おおおおおおおおおおお!?」
上空からあの重さが地面に叩きつけられたら生まれるであろう衝撃波、それが此方に来るのかと身構えていたら…こなかった。
いざとなれば魔力を使って助けようと思ったら、その必要は無かった。
落下してくる彼女の瞳が衝撃に備えるのではなく次の動作に向けてしっかりと周囲を見ていたのと、体を捻る動作をしていたのが見えた。
女将は高所からの落下訓練をしていたのか、地面にダイレクトに着地することなく体を捻って地面を転がるように衝撃を逃がしていた、その姿に拍手を送りたくなる。
「そぉい!って、おわぁ!?」
最後に地面を叩いて衝撃を逃がそうと受け身を取るために地面を叩いた、だが、その地面を叩く衝撃がすさまじく、女将が叩いた地面から此方に迄、力が伝ってきて私にまで届く。
その衝撃波はすさまじく車椅子から私のお尻が離れてしまうほどだった。
女将が驚いていた声を出したのも頷けるよ。
私もその一連の流れを見て声を失う程に驚いてしまったから。
受け身で地面を叩いて衝撃を地面に逃がし止まろうと思ったのだろうが、受け身で叩いた腕の衝撃も力強過ぎたのか、あの巨体が勢いよく転がっていた、あの巨体が突如、浮いたのである。
浮いた理由が驚くことに受け身の為に放った地面への一撃。
本来は体の勢いを止め衝撃を地面に逃がす為の行動なのに、その受け身という僅かな力によって体が浮いてしまった。
更には受け身と勢いよく回る力が作用してなのか、浮いてしまったあの巨体が空中で軽く一回転し、腕で勢いを止める予定がしっかりと両足で着地し、足裏を地面に擦らせるようにズザザァっと地面を擦る音を響かせ土煙を巻き上げながら大股で仁王立ちするかのような姿勢で止まった。
『はは、あの巨躯が浮くというのか!凄いな、俺は凄いモノを目の当たりにしたよ、あの体の軸が横を向いている状態での空中一回転!君の記憶を覗き見た時に垣間みたダンスシーン、エアートラックスっというダンスの技みたいだな』
愛する旦那が笑い興奮し心の奥底で一連の流れを喝采するかのような拍手する音が聞こえてくる。
これに関しては私も同意だよね。
まさか、女将がそんな軽業をやってのけれるなんて思わないじゃん?
だって、あの巨躯だよ?体重は断トツで誰よりも重たいんだよ?
彼女って飛ぶのですら少々嫌がるくらいに地面から足を離す技を苦手としているのに!
あんな風に軽々と…重さを感じさせない動きが出来るなんて思わないじゃん?




