Cadenza 花車 ⑧
その中でも目の前にいる彼女は親衛隊を解散したとしても退役することなく今も支えてくれている。
年齢は私よりも少しだけ上だったかな、えっと、25あたり、ぁ、そっか、違う、それは私の時の年齢だから、えっと?今って、30後半、かな?ダメだな、まだ、私の頃の年齢感覚が抜けないや。
彼女よりも古くからいた多くの戦乙女達の多くがえっと、確か、寿退団してた、よね?
若い子達が次々と幸せにこの大地から離れていくのに、彼女はまだ相手が見つかっていないのかってよくからかわれていたよね?
「それで、どうしたの?何用?」
「いえ、その、一目拝見したく」
なんだよもう、そんな扱いしなくてもいいのに、姫扱いしちゃってさ、私は本当の姫様かってーの、違うからね、私はとある貴族に捨てられた何処にでも咲いてる命短し白き花、王族のような高貴で高潔な生まれじゃないってーの
「はいはい、そう言うのはいいから、本題に入って」
「はい、もし、姫様と会うことがあればお伝えしておこうと、そのお話がありまして」
目線を泳がせないでよー、不安になるじゃん。
何かさ、嫌~な何かが、私達の知らない所で起きてあるのかって、身構えちゃう。
「過去の戦士や騎士達がこの街に集結しております、彼らの配属は如何いたしましょうか?」
「皆が?」
思っていた内容と違ったや。
過去の戦士達かー…確かさ、各々、年齢や、家族、収入を蓄えたから危険な仕事から足を洗う、っていう様々な様々な理由でこの街から離れていった人達、その皆が帰ってきたの?
…自分たちの町や村、大切な人を守るために最後の戦いを孤軍奮闘すればいいのに、壁の向こう側である此方側だったら、危険な獣が抜けていくことなんて少ないだろうにって思うのは昔の私、今代の私だったらここが一番安全だっていうよね。
あいつらの移動手段は実のところ色々とありそうだからね。
「彼らの寝る場所は…いうまでも無いか、勝手に使ってるでしょ?」
勝手知ったる古巣、ってね。
「事後承諾で大変恐縮ですが、はい、勝手に南にある無人街を使わせていただいております、それと共に、王都以外の街からも多くの人が駆けつけていらっしゃいます、ただ、姫様がおつくりになられたプリンセスウォールの外、王都よりも南の方からは残念ながら」
なんか知らない単語が聞こえてきたけどスルーしよう、私の名前が刻まれていないだけ良しとする。
「うん、南の方がたぶん、ほぼ、全滅してるだろうから、全てが終わってから…余力がある人達で救助に向かえばいいよ」
「はい、大変心苦しいですがその判断が最良かと」
見捨てる部分は見捨てる、彼女もまた武家の一族。合理的な考えが出来ている
「配置に関しては各々で話し合ってもらっていいよ」
「はい、各々が自らの判断で出来る事をしております」
気が付かなかっただけで、色んな人たちが動いてくれていたんだね。
静かだと思っていたけれど、私の周りが静かなだけだったって事かな?
少し離れた、誰も住まない住んでいない建物が機能してくれているのは嬉しい限りだよね。
私の時は、海を渡った先から多くの人が駆けつけてくれていたから、その人達の為に用意したんだけど、今代は…彼らと連絡を取ることが出来なくなってしまった。
…生きてるといいなぁっていうのは無理な話だろうね。
「以上です」
「なんだ、私が判断をするまでもないじゃん」
畏まるから何か問題があったのかと思うじゃん、ったく、思わせぶりだなー
「いえ、実は、その、少々申しにくい問題がありまして、ここからが問題っと言うか、はい、本番です」
「…ん?」
他にもあるの?何だろう?
「実は…言伝を頼まれておりまして、その」
成程ね、駆けつけたんだから報酬を弾めってことね。今そういった計算は面倒だからしたくないってーのに
「あー、何か聞きたくない内容かもー?報酬とかそういうの?全部終わってから決めるじゃだめー?」
私の財産なんて全部、復興の為に勝手に使ってくれていいのに、奪い合うのだけはやめてよ?
「いえ、その様な下賤な内容ではなく、その、お時間がある時で良いので、皆、姫様と…会話を望んでおります」
み・ん・な?
…脳裏に駆け抜けるこの街を去って行った数多くの仲間達…
すぅっと小さく鼻で息を吸い
「無理!」
何人いるんだってーの!!!100は絶対に超えてるでしょ!?無理だって!そんな時間ないよ!!!
「ですよねー!私もそう思ってます!」
戦乙女部隊の彼女もまた困った顔で苦笑している
「こんなこと、私達に頼まないで欲しいってい突っぱねたんですよ?でも、先輩方のお声なので完全に断り切れなくて~その~、ね?」
あはは~っと困った顔をしている。縦社会だから断りづらかったんだね。
「一応、駆けつけてくれたみんなの士気を高めるために鼓舞はしたいけどさ、時と場合によって出来ないからなぁ…」
出来る限り、開戦の合図とかしたくないんだよなぁ?秘密裏に動けるのなら動きたい、相手は人じゃないんだから正々堂々なんていってらんないっつーの
闇討ち上等!不意打ち最高!つってね!!…やられたら怒り心頭ブチ切れだけどね!!
「ですが」
「誰かと話をしないってのもアレだよね~、わかったよ、今ねちょっとだけ、時間があるから、やることがあるんだよね、それまでの間でいいのなら、運が良い人だけここに来ていいよ、僥倖を掴み取れた者だけってね」
どういう意味か彼女には伝わったみたいで
「なるほど!それもまた一興ですね!姫様は相も変わらず、ですね!」
ニタぁっと悪い顔をしてから「では、くじ引きか何かで決めてきますね!」これもまた一つのイベントだと言いたいのか跳ねる様に訓練場から出て行った。
スキップしながらそんなにうれしかったのかな?
っていうか、鎧を着てたよね?器用なもんだ。
再度、天を見上げ、祈りを捧げる、間もなく
「姫様、お久しぶりでございます」
懐かしい声が訓練場に響き渡る
「懐かしい声、元気にしてた?」
天を見上げていたが直ぐに大地へと戻されてしまうと、懐かしいしわしわの歳を重ねた顔が出迎えてくれる、元気にしてたんだ。
「何やら、一人の騎士がこの場を離れていかれたのでな、彼の者に見つからぬように、先んじて足を運ばせていただきましたが、迷惑でしたか?」
星のめぐりってやつ?彼こそまさに僥倖だよね。
「迷惑なもんか、会えてうれしいよ」
たった、たったのその一言で年甲斐もなく、大粒の涙を流し頭を下げ必死に涙を拭っている。
「その様なお言葉、それだけでただただ、この地を離れ何もなく食べて寝るだけ、何も得られず生きただけの虚しい人生に光が差し込んだようでございます、俺という人はこの日の為に意味のない日々を生きたのだと歓びを感じております」
大袈裟だなぁ…王都のどうでもいい貴族に染められちゃったの?染まっちゃったの?誰だよ、酒場で意気投合でもしたの?つってね。
どんなことでも生きてくれていることが、私としても嬉しいよ。
「王都で暮らすようになってさ、後続を育てるために色々と尽力してくれたじゃん、ただ生きただけなんて言わないでよ」
彼の歩んだ道を賞賛する。労う。私が出来るのはそれくらいだもん。
「姫様の御傍から離れた後の人生なぞ!我が人生に意味など無し!!その様なお言葉を頂けるほどの大任などしておりませぬ、ですが、その一言だけで我が人生に悔いなぞ欠片もありませんと感じました」
涙が更に溢れ鼻水も溢れ出てる。
ったくもう、大袈裟だなぁ…
今代の私が親衛隊を解散した理由がわかるよ。
これが日々少しずつエスカレートしていったらってさ、考えるとね、背中に冷や汗が出てきちゃうよね?ちょ~っと危険な香りがするよね。
「大任だよ、貴方の真っすぐな私を想ってくれる心を、後続へと伝え導いてくれたんだから、その精神を繋ぐこそが大事なことじゃない?願いが途切れた時こそ、最も良くないと思わない?」
意志を受け継ぎ後世もそれを目標として頑張ってくれるってのは良い事だよ。
「っはぁ!!さようです!さようですな!そう、そうです、さすがは姫様!私の様な考えの浅き者では考えつかない思い浮かばない言葉を、そのお心に触れただけでも親衛隊としてこの身を捧げた己を褒め称えたいと賞賛してしまいます」
涙が止まることなく溢れ出てきている…
うーん、成程、狂信者ってこうやって勝手に産まれていくんだね。
教会が信者を生み出したがるのも納得かも?
「みんなは元気にしてるの?」
少しでも話題を変えたい!
「はい、勿論っと、言いたいのですが、幾名かは月の裏側へと旅に出ております、此度の戦いに馳せ参じれぬことに悔いを覚えておるやもしれませぬ」
涙を止めるためなのか、見送った仲間をみるためなのか天を見上げ報告してくれる。
そっか、そう、だよね。
時間の流れって…そうなるよね。
逢いたい人もいっぱい居たんだけどな
彼らに言葉を届けるために、彼が望んでいることをしてあげよう。
手を前に出し
「ごめんね、私歩けないんだ、だから近くに来て」
「っは!」
彼は急ぎ足で手が届くほどに近づいてくれる。
手が届で止まると何も言わずに座り頭を下げる、何を望んでいるのか言うまでもない。
「私は聖女じゃないよ、だから、これは洗礼の真似事、それでもいいの?」
「っは!」
彼の望む様にしよう
「此度の戦いに馳せ参じ、感謝しております、最後の聖女として願いを貴方に。此度の戦い月の導きが貴方の背を照らすでしょう、いいえ、月だけではなく、月の裏側からも多くが貴方を見て貴方を導くでしょう。我ら、月の光によって死すことなくこの大地を生き抜くでしょう。我ら偉大なる始祖様から力を託された民、心を同じとして共に、歩みこの大地を人の手に…」
「っは!御身に獣の吐息すら届かぬよう粉骨砕身!獣共の絶命の叫びを聖なる巫女に捧げましょう!!」
「はい、御身に祝福を」
親指を眉間に当て祈りを捧げると近くで立ち上がる音が聞こえ
「我が身、祝福を得たり!」
祝福を身に宿したのか、足音が遠のいていく。




