Cadenza 花車 ⑤
「つまるところ、肝臓の付近ってこと、背中に関しても胸椎の9番目辺りかな?上過ぎず下過ぎずってあたりかな?」
場所を伝えると直ぐに挙手が上げられ
「外部ユニットはかなり小さいんだよね?仕込んだ後にさ、外部ユニットが鎧に当たらない?戦士達の動きの邪魔にならない?今更、大きさは変えれない、よね?」
うん、それに関しては今更仕様を変更するのは出来ない、けど、魔力が常に溢れ出るのなら、溢れ出た余分な魔力を吸収させればいい、そのために
─ その為の戦闘服、魔力さえ流せば下手な鎧よりも強固となる
今日は前に出たがるね、今代の記憶。
アレが量産できるのなら知りうる限り最強候補、まったくもってその通りだよ。
魔力を捧げることによってアレは鉄よりも、鋼よりも合金よりも!
…強固と成る。
記憶から呼び出された情報によって再度確認した、あの戦闘服の中身がどれ程までに強固なのか。
「心配無用だよ、あいつの毛皮なら軽々と敵と言えど貫くのは困難、理にかなってる」
「あいつ?…誰だろう?」
「我ながら驚くよね人だけではなく、敵の毛皮も培養しちゃってんだから、恐れを知らないね私…」
団長の質問に答えることなく小さな声で呟いていると
呟きが聞こえてしまったのでアイツが誰なのか教えてあげる。
「今回用意してある、とびっきりの戦闘服、その中身にはね、団長の皮膚を焼いた猿、あつの毛皮が内包されてる」
「あいつの?…そっか納得、硬かったなぁ、思い出したくない」
今代の私は禁忌とか畏怖とか、お構いなし、何処でどうやって入手したのか、どうやって培養したのかわからないけれど、あの爆裂猿の毛皮を培養して戦闘服へと応用してる。
─ 入手は普通に敵を仕留めた時、培養の関しては、かなりの材料が必要だったので戦闘に参加する人、その全てを用意できなかった。
かなりの材料ってことは、特定の敵から得るしか無かったのかも、希少な素材ってことだね。
概ね、質問が落ち着いたので次のステップへと説明を進めていく。
②埋め込んだ後は、外部ユニットと接続して魔力が体内へ流れていくのか観察
これに関しては特に質問が無かった、補足として外部ユニットには交換できるタイプの小型魔石が入る設計になっていてバックパックのような形状をしているが、サイズ的に背中全部を覆いつくすような構造ではない、小型魔石の数って
─ 小型魔石に関しては既に各地で使用しているので数に関しては問題が無く破損前提で数を用意してある。
ってことで、バックパックから飛び出てたとしても問題ない、壊れたら新しいのに交換する前提、内部ユニットにも小さな魔石が埋め込まれていて外部ユニットと接続した段階で内部ユニットに魔力が充填される仕組みとなっていて、外部ユニットの魔石を交換している間も魔力を体内へと流し込んでくれる、まぁいわゆる一つの補助魔石って感じだよね。
その事を説明すると、隙が無いねっと小さな拍手を送ってくれた。
観察に関しては直ぐに終わるからこの辺りは心配していない。
浸透水式の最中であれば魔力の流れだって把握することが出来る。
「よね?」「うん、今の私なら余裕だね」
確認する迄も無いよね、説明をする段階から胸を張ってくれている。
③魔力が体内に流れていくのを観測したのち、内部ユニットに埋め込んでいる魔石から一定量の魔力が体に満たされているのを計測したのち、体内に流れる魔力を体外へと放出するために必要な改造を行う。
普段は閉じられている魔力放出器官を強引にこじ開ける
体内に魔力を流し込んで、放出することが出来なかったら意味がない。
無限の魔力を自分の体を通すことで魔力を己のモノとして自由に扱う
待機中に霧散していく魔力を搔き集めて意のままに操るなんて、無理。
薄すぎて集めるのに必要な魔力と集めた魔力では消費量と釣り合っていない。
凄まじい程に魔力に満たされている空間であれば、それもありだけど、あんな開けた場所で濃厚な魔力が漂っているわけがないからね。
っま、あの場所でそんな悠長なことしてらんないけどな!
「これが一番、大変」「うん、かなり大変だと思う」
一か所をこじ開けたら終わりってわけじゃないんだもんなぁ…
「これも偏に、私の体質によって判明した部分だもんね」
「姫様と同じような人を救う為に長年研究されてきた、その内容を転用してる、塞ぐ、それの逆をする、非人道的な発想、私では…思いつかない、考えたくない」
悲しそうな瞳で受け止めてくれている。
人を救うための研鑽してきた技術を人を殺すことに繋がる術式に転用されるなんて生粋の医療人からしたら憤慨してもおかしくない。
④生体ユニットを埋め込んだ後は、各々が力の扱い方を知るために練習する必要がある。
これに関しては、私の出番だね、魔石から魔力を引っ張り出すことに関しては誰よりも経験がある。
「ここからは私ではなく姫様が担当するってこと、か」
「うん、この間はゆっくりと休んでていいから」
この発言に何か言いたいことがあるのか黙っている。
「最後は当然、私だよね?それだけど」
「大丈夫、独りでもやりとげるから」
苦悶の表情をしている。わかってる、No2にお願いするのが一番だけど、YESと言ってくれるかどうかはまだ約束を取り付けていない。
故に、これは私と団長の二人でやることを前提にした会議。
No2が私の代わりをしてくれるのなら、楽なんだけど…
説得できなかったケースを先に打ち合わせしておくのが正解。
説得できたのなら、もう一度、No2を交えて会議すればいい、団長としても2回説明を聞く方が理解力も深まるだろうし、一回目で気が付かなかったことも、二回目なら気が付く。
っということにしておこうかなー…単純にまだ、No2に話す勇気が出なかっただけなんだけどなぁ~。
説明を終えて、最後の確認をしないとね。
目の前にいる人物は内容よりも、最後の最後に不安を感じているんだろうな、ずっと、眉間に皺が出来てる。
最後の部分でやや不安を感じている団長に最後の確認を取る
「どう?出来そう?」
「うん、それくらいなら余裕、だけど、物資残量が不安」
確認の声かけに対しては自信満々な表情で返してくれるけど、その不安材料に関しては私も思ってはいる。
「そうだよ、問題があるとすれば」
「今後の事を想定すると、だよね?たぶん、今回の人数分で空っぽになる、と、思う」
だよね、私を起す為にも相当な量を消費しているみたいだし…
あれって精製するのに凄く時間が掛かるし、主な材料も敵の体液だからこの状況下じゃ大型種を討伐して運んで体液を採取する暇なんて無いからね。
不安な要素として、誰かが大怪我を負ったとき、四肢欠損…程度であればまだましか、内臓の6割持っていかれて、されど、即死しなかった状況っとか、かな…
「戦いの最中、大きな怪我をした人たちは大昔の方法でケアするしかない、その辺りは医療班としてどう思う?」
「命さえ繋げればいいのなら何とかする、ううん、絶対にする」
命さえ繋げれば、精製する時間さえあれば、どうにか出来るってことかな?
今の医療班であれば、培養とかも出来る人が多いって事だろうね。
そうなるとさ、戦いが終わった後の事も考えて、動いてもらうべき、かな?
培養液に使われている材料の一つも敵の体液だからなぁ
戦いで身体欠損の戦士達を救う為に、彼らの未来に備えて回収班も全力で大地を駆け抜けてもらうべきだね。
…庇って二次災害もあるから、全部終えてからがベストかな?いやでも、うん、何が起きるかわからないし、出来る限り、回収してもらおう。
「今のところ、問題は無さそう?」
「・・・ない」
返事が曇っているのは最後の憂いだけってことだろうね。
取り合えず、この時点で大きな問題点が思い浮かばないのであれば問題が無いと判断し、進めて行こう。
粗が無いのか探る為にも思考を加速させて見つめなおすのが一番なのだろうけれど、思考加速は出来ない、なら…私には頼りになる私達が居る
現段階で問題が無いか泥の奥で眠る瞳達に意識を向け聞いているであろう瞳達に質問を投げかける
だが、反応が何一つ返ってこない。
魔力残量が乏しいから、起きてこないのかもしれない。
だとしたら、愛する旦那も呼び起こすわけにもいかない。
魔力も団長から貰うわけにもいかない。
仕方ない、二人で粗が無いのか探していこう
ベッドの上で、もう一度、粗が無いのか話し合う。
改造術を行う際の注意点、手順、誰から行うのか、話し合いが続けられていく、思っていたよりも粗が無く、時計の針がひと目盛り動く程度で全てが決まり、会議が終わりとなった。
「これで、大体は…」
「問題なく、恙無くだね、後は…成功率を高めるためにも」
粗を探すうえで、どうしても不安、懸念点である、団長を改造するのに私だけは、少々、リスクが高いしその後に対して私の体調が芳しくなくなる可能性を考慮し、どうしても説き伏せに行かないといけない人物がいると口に出すことなく二人は感じていた。
お互いの想いを確かめ合う様に二人で頷いてから、彼女のもとへと向かおうと決意を固めあうと
「いつするの?今日の夜?」
ドアが開かれる音と同時にNo2が部屋に入ってくる
それも、無表情で…
「えっと、可能なら今日の夜、って、おもって、ます」
その無表情で鋭い目つきについ敬語になり視線をそらしてしまう。
「わかったわ、メインは団長ね?」
「は、はい、私がメインをつとめ、ます」
腕を組んで私たち二人を睨みつけ
「違うでしょ!今回メインを担当するのは私が適任!団長にも施すのでしょう?団長も戦場へと出撃するのでしょう!?団長を疲弊させるわけにはいかないでしょう!!なら!誰がするのよ!?決まってるじゃない!それとも何?私が首を縦に振らなかったら姫ちゃんがするっていうの!?独りで!?ペアで行うのが浸透水式での鉄則でしょう!!」
正論を勢いよくぶつけられ、私達が先ほどまで話し合っていたお互いが問題だとわかっていても、No2の心情を心配してしてしまったがゆえの間違いを正されてしまう
「えっと、はい、そうです。団長は私が」
「貴女らしくないわね!わかってるでしょ!あれにはかなりの魔力が必要だって!魔力が無い人がどうやってやるの?」




