Cadenza 花車 ②
『私は非戦闘員、後方支援、常に魔力が必要じゃない、誰かを助ける時に動くか、お姉ちゃんが想定としているのが、それ以外にも降りかかる獣共を蹴散らすのが役目だとしても、そもそも、私の所まで敵が攻めてくるようなことは滅多にないでしょ?お姉ちゃんが居るんだから』
あー、そっか、戦士達みたいに常時、戦場で必要じゃないってことか
だったら
『なおさら、お姉ちゃんのほうがいいって思うかもしれないけど、お姉ちゃんは魔力が切れたら歩けなくなったりする』
あー、そう、だね。
その通り、魔力残量が乏しいタイミングってのは絶対にでてきちゃう
『魔力を常に消費するのではなく温存するっていう理由もあるけれどさ、それならいっその事、私達が囮となる様に敢えて、敵からも目立つ車椅子で出撃するってのはどうかな?』
なるほど、歩くだけ、立つだけで魔力を消費するよりも…
『あまりよくない方法だが、君達なら出来るかもしれない』
ん?ぁ、旦那様?
『お兄ちゃん?』
『妹と魔力パスを繋げ、妹が魔力を君の傍で放出しそれを触媒にして術を発動するか、もしくは…妹を生きた魔石として扱い術を発動させる』
それ、団長の、妹の体がこわれるよ?
『ああ、普通では無理だろうだが』
『うん、それ、出来ると思う』
なん、で?・・・まさか、私の知らない何か、あるでしょ?いって
『…妹の体は』
『妖精の、僕の体が半分以上、人と妖精の体で構成されているんだ』
雰囲気が変わった様な気がしたから、何かあるって思ったんだけど、予想と予感ってあたるんだね。やっぱり、そうなんだね
『うん、何となく感じてはいた、小さな違和感、さっきね、繋がったときにより深く違和感を感じて…その時にお兄ちゃんが教えてくれた』
何時の間に…これだから■■■くんはゆだん、できない。
『だから、ね、もう一人のお兄ちゃんには申し訳ないかもしれないけど、この体はこの戦場で使い倒すつもりでいる、ううん、それがいい。だって、お姉ちゃんなら私の新しい体、女性の体、約束したよね?プレゼントしてくれるって…何が有ろうとしてくれるよね?』
うん、約束したもんね。もちろん、大事な大事な、私達の約束、やぶるわけ、ないじゃん。
こんだいの、わたしなら、団長の、素体となる、ものは、保存しているとおもう。
─ 必要なものは全部、あの小部屋に
…うん、ある、ちゃんと、ある。
きみの、おかあさまと、おとうさまのがある…
ああ、そっか、おうとで、美容目的で、美容整形で、しんとう、みず、しきを何度かし、たんだ。
貴族達に…うん、そのときに…サービスでお爺ちゃん達の一族皆、引き受けたんだった。
そのときに、集め終わっている。
あるよ、だいじょうぶ、約束はぜったいに、守るから。
二人だけの秘密の会話は続いていく。
起きているのか寝ているのかわからない、泥の中なのか、浮いているのか、夢の中なのか、何もわからない。
ここが夢の中だろうが、現実だろうが、終わらない。
二人の言葉だけが紡がれ続けていく。
なのに…泥の中に眠っているであろう瞳達の目が開く様子が無かった。
「寝ちゃった」
何も反応が返ってくることが無くなった。
このまま、塔の上で寝かせるなんてかわいそうなことはしない。
ひめさま、ううん、お姉ちゃんの体に触れれば触れるほど、嫌でも気づかされてしまう。
胸が痛い。
お姉ちゃんもその運命から解放された体を求めれば良かったのに…
どうして、用意しなかったのだろうか?
姫様の考えなのか、お姉ちゃんとしての考えなのか、私にはわからない。
何か理由があるのかもしれない、実は密かに用意している可能性もある。
用意されているのであれば
思い出す、託された言葉を…
『後はお願い』
その意味が何を意味するのか、察するのが苦手な私でも理解できる。
今の私だったら、出来る。
お姉ちゃんの記憶の一部を受け継いだ私なら、お姉ちゃんほど効率よく最短で出来るわけじゃないけれど、残された資料と記憶があれば出来る。
出来るからこそ…お姉ちゃんの意思が知りたかった。
私がお姉ちゃんの年齢を超えたとしても、お姉ちゃんを蘇らせる、絶対に。
きっと、私なら出来る。
きっと…
歯を食いしばり、もっと触れていたいのを我慢し、布から出ると
「寒い」
通り抜ける風がとても冷たく痛く感じてしまう。
塔から下りて熟睡しているお姉ちゃんを乗せた車椅子と共に、病棟へと向かって歩いていると
「孫ちゃん!」
後ろの方から私を呼ぶ声が聞こえ、振り返ると、鎧姿のお爺ちゃんが小さく手を振りながら此方に歩いてくる
「泥が付いてるってことは勤務終わり?」
「そうじゃ、一夜通して踏ん張ったわい」
兜を取ってシワシワの顔を出して笑顔を見せてくれる
「今からお風呂?」
「その予定じゃ、さすがに老骨に堪えるわ、風呂入って飯食って寝るつもりじゃ、どうせなら孫ちゃんに背中を流してもらいたいが」
「ごめんね、この姿になってから大浴場の男湯には清掃とか、そう言う仕事としての理由がない限り利用禁止になっちゃったから」
私としても、この姿になってから男性の視線が気になる様になってきちゃったってのもあるから、その、恥ずかしい。
「ほほ、別に裸にならんでも背中を流すことは出来るじゃろうて、若いというのに頭が固いぞ?柔軟に思考を走らせるんじゃぞ?」
即座にその考えではダメだと教育されてしまう。
言われてみればそうだ、医療班として洗体するとき、此方も裸になったりしない、それ用の水をはじくエプロンとか手袋がある、それを身に着けて行う。
それに、自意識過剰は良くない。
この体は男性の体、その体が女性らしくなるのは歪で醜いって考える人もいる。
私の体が男の人達にとって見るに耐えないのであれば、服を着ていれば問題ないって意味も含まれているって、ことだよね?
「っと、言いたいところだが、大事な孫に裸体を見せびらかす不届きな輩もいるからのぅ、背中を流してもらうとすれば個室じゃな」
何度も頷いてるけど、そんなに体を洗って欲しいくらい疲れているのだろうか?
「大変だったの?」
「外か?何、あの一件から長きにわたり、かの大地で戦い続けておる、慣れてきたわい、老いたとはいえ、闘いにおいて後れを取るほど耄碌はしておらんわい、人と獣、大差ないわ、我が剣にかかれば造作も無し切れるもの全て切ってくれるわ」
女将さんみたいに豪快に口角を上げて自慢気に笑顔を見せてくれる。
体が疲れているってわけでもないのなら、心が疲れているってやつだろうか?
だとすれば、家族付き合いがしたいのだろう。
「前に居るのは姫ちゃんじゃろう?」
「そうだよ、何か用事が有ったりする?」
少しだけ首をかしげてから
「うむ、挨拶をしようと思っておっただけじゃ、起きてから顔をまだあわしていなかったからのう」
元筆頭騎士として礼節を重んじるところがあるから、そう言う部分かな?
「これから…ふむ、寝ておるのか?」
膝を小さく曲げ体を傾けて私の後ろを覗き込む様にするので
「そうだよ」
「ふむ、では、後に会いに行くとだけ起きたら伝えてくれ」
兜を被りなおして歩き出す、進行方向的に装備を外しにいったのだろう
お爺ちゃんが姫様に用事ってなると現場から得た情報を伝える為だろう。
姫様とお爺ちゃんは何故か仲がいい、その疑問も姫様の記憶を見たからこそ、どうしてなのか、知ることが出来た。
二人の関係を覗き見てしまったことに、ちょっとだけ、後ろめたい気持ちもある。
何処か切なげな背中を見送ってから
車椅子を押して歩を進めていく。
病棟に入ると
「あ!団長!」
何処からか声が聞こえてくる?周囲を見渡していると
廊下の奥の方から手を振っている人物が見えたので手を振り返す、それでお終い。
別に彼が私に何か用事があるわけでもない、ただ、見かけただけだから声を掛けてきたのだろう
車椅子を押して前へ進んでみても呼び止める声も無し
No3、えっと、ネクストだっけ?彼は、昔から、この街に来てからずっと変わらない。私を見かける度に声を掛けてくれる。
懐いてくれている後輩に悪い気はしないんだけど、何故か姫様もメイドちゃんもNo2も…医療班の多くの女性が彼の事を危険視している、二人っきりになるなと注意されるけど、彼の何がダメなのだろうか?
うーんっと、彼の素行を思い返してみても、特にこれといった素行が悪い印象が無い、それにしても、久しぶりに顔を見た気がする、私とNo2が外に出れないから
…あれ?確かNo3って外勤務予定じゃなかったかな?
病棟も落ち着いてきたから、医療班としても交代するのは大事だから
お爺ちゃんもここにいることだし、一緒に帰ってきたのかもしれない。
だとしたら、過酷な外勤務の後なのだから多少は労ってあげるべきだったかもしれなかった、こういう気遣いが出来ないのが私の悪い所。
かといって、今から引き返して呼び止めると何か非常事態だと勘違いさせてしまいそう
お姉ちゃんならこういうか、まぁいいかっと。
病棟に帰ってきたのはいいとして、階段を登らないといけない。
運ぶ人が起きていたら背負えばいいのだけど、今は熟睡されているので危ない。
だとすれば、ずり落ちてこないために必要なものを取りに行けばいい。
姫様を運ぶために背負った状態でずり落ちてこないように固定する為の紐が欲しい。
階段へ行く前に、シーツか何かを貰おう
シーツなどを保管している部屋へ向かっていると
「あら?お帰りなさい…ああ、そういうことね」
廊下の角を曲がるとNo2と目が合う。
No2が何時もの白衣を着て木箱を抱えている
「ただいま戻りました」
にこやかに笑顔を作って返事を返すと
「少し待ちなさい、運ぶのであれば担架を使いましょう、用意するからこの先の階段で待っていなさい」
出会って直ぐに状況を理解して言うまでも無く協力を申し出てくれる。
医療班に配属されてから…思い返せば思い返すほど彼女には支えてもらってばっかり。頼りになる先輩。




