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最前線  作者: TF
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Cadenza 戦士達 ⑬

「それじゃ、ここで座っているのは、姫様に会う為に登って、一休みしていたってところ?」

推察が外れているみたいで、口をへの字にして視線を彷徨わせてから階段の隅っこを眺め始める

「階段を登るくらいわけねぇって、若い頃見てぇにいいたいけどねぇ、意外と体のあちこちが堪えるってのも、あるねぇ。そういう理由もあるけど、ねぇ」

女将にしては歯切れが悪い、口を挟むことなく話し終わるのを待ち続ける。

目線が上を向いて人差し指を伸ばし先を空に向け

「この先に姫ちゃんが居て、団長が居るって思っていたさぁね」

私に指先が向けられる。ここで会うのが予想していなかったってこと?

「ここを登り切ってよ、後は…決意を姫ちゃん、おっと、司令官によ、意志を示すだけ!…だってぇのは、わかっちゃ~いるんだよ、でもな、どうもよ、一つの事が気になりすぎててよ」

粉砕姫っというよりも女将としての口調。

もしかしたら、何かご家族の間で問題でもあったのかもしれない、No2がベテランさん夫妻のケアをしたのであれば、女将のケアは私が担当するべき!

医療班の団長として気合を入れ

「どうされたんですか?旦那さんに反対されました?それとも娘さん?それが心に」

「ぁ、いや、それにかんしてはよ、こういうのもあれなんだけどよぉ、家族全員から反対なんてされなかったさぁね。あたしの家族なだけあってよちゃんと理解してくれていたって感じさぁね。あたしが戦士として最後を迎える、そういった覚悟何てとっくの昔に出来てみてぇでよ。今回の戦いもそうだけどよ、敵との戦いが始まったらお母さんはもう帰ってこない、死体すらないのだと全員が腹をくくってたみたいでよ、お母さんの人生なんだからお母さんの気のすむままに突き進んでって背中を押されちまったよ」

流れる様に出てくる、これだけで伝わってくる彼女達がどれ程、家族として支えあい理解しあってきたのか。

「それだけじゃねぇ、更に元気づけてくるくらいさ。あの子達からすれば十二分に守ってもらってる、未来まで守ろうとしてくれるお母さんを止める事なんて出来ないってな、今までありがとうって言われちまったよ、ったく、泣かせるねぇ…」

優しそうな眼をして語ってくれるけど、旦那さんは?

「旦那さんは反対しなかったの?」

「するどころか、自分も連れて行って欲しいとかぬかしやがるからよ、頭小突いてやったさ、幾らあたいでも…あいつから旦那を守れる自信なんてねぇさ、旦那はよ、あたいと違う、戦いだけしか能が無いあたいと、違って、よ。やれることが多い、この先の人類のためっていうやつか?その為に必要な人なんだよ、死なせるわけにはいかねぇ大切な人材、いや、ちげぇな…愛してる人なんだよ」

「もう二度と、失いたくない。だよね?」

驚いた表情を見せることなく真剣な顔つきで頷き

「わかってるじゃねぇか」

嬉しそうな顔で肩を力強く叩いてくる。

バンバンっと洗濯物を干すときに皺を伸ばす様に布を振ったときのような激しい音が塔の中で反響すると

「っだ、いけねぇ、ついうっかり強めに叩いちまった」

申し訳なさそうに手を引っ込め上目遣いで心配そうに此方を見てくるので

「大丈夫だよ、知ってる通り、この体は男性の体、それくらい痛くないから」

女将がするように歯を見せるように豪快な笑顔を見せると

「そ、そうだよね、その、女性らしくなっちまったから…そうだよ、団長の体は男性だったねぇ」

眼球が下から上から左から右からと私の全身を余すことなく眺め、一通り眺め終わると

「男性・・・あのよぉ、兄貴とかいるのかい?」

返答に困る質問が出されてしまう。

兄貴?いるけど、それは、どっちの?

聞かれてしまった事を特に考えることも無く

「いる、よ?」

「いるのかい!!やっぱりいるんだね!!」

口に出してから、失敗したと思ってしまう。

勢いよく両肩を掴まれてしまったから。

「どこ!?どこにいるんだい!?」

大きな顔が近くに迫ってくる

ど、どこって…姫様の心の中っていっても、いいのかなぁ?

ここまで必死な人に嘘なんて言えない。

「姫様の、心の、中」

輝かせていた目が一気に曇り崩れていく。

「・・・それ、って、あ、ぁぁ、そういうことだったのかい…あたい、あたしは、何て質問を」

大きな頭が此方に寄り掛かる様に勢いよく重い衝撃と一緒に私の胸骨に当たる。

服が熱いような冷たいような、湿っていくのを感じる。


彼女が泣き止むまで傍に居ようと女将の肩に手を置くと

後ろから声を掛けられる、聞き間違える事のない声

「あの人は、いないの、ですか?」

後ろを振り返ると小さく唇を震わせ驚いた表情で此方を見ているのはティーチャー、声を聴いた瞬間どうしてここにいるのか理解できなかった、できなかったけれど、いるものはいる


そう納得させながら

彼にも正直に答える

「お兄ちゃんは、姫様といるよ」

正直に答えたのに彼もまた女将と同じように俯き胸に手を当て苦しそうにしている


二人同時に塞ぎ込む様に黙ってしまう。

この状況になってようやく理解する

これは、ただ単純に悲しませただけではなく、もっと違う何かをやらかしたのだと


前後を二人の戦士に挟まれ、二人がただただ俯き何も音を発しない…

沈黙が続いてく。


どうしたらいいのか、どう声を掛けたらいいのか、どう先導すればいいのか

私はこういう状況が苦手だ


うん、何度考えても私では解決できそうもない。

視線を階段の先へと向けると、仕方がないっと呆れた顔で助けてくれる人の顔が思い浮かぶ。


っとすれば、頼りになる人物が頂上にいる

彼女であれば全ての答えを提示し悩める彼らを導いてくれる

「と、取り合えず、姫様のとこに向かおうよ?二人とも」

前後で項垂れている人の肩を強めに叩くと両者ともに頷き、ゆっくりとゆっくりと一段一段、踏みしめる様に階段を登り始めてくれる。


一段一段と元気のない二人の後をついていくように登っていく最中、頭の中にあるのはただ一つ。


懺悔の念


こんな状況にさせてしまって、また、彼女に負担を強いてしまう。

今は違う事で頭を使っている人物に迷惑をかけてしまうという罪悪感だけが私の中を埋め尽くしていく


「…」


階段を登り切り頂上に来ると足音で私達が到着しているのに気が付いているのに姫様はずっと遠く、死の大地の果てを見続けている

二人は入り口で固まっているので、二人の間をすり抜け姫様に近づくと

「どういう状況?」

小さな声で質問される、どうやら気がついてはいるみたいだけど、想定外の状況って感じかな?

小声で経緯を説明すると

「…その言い方は違う風に捉えられちゃうからね?」

呆れたような溜息が通り過ぎ

「後は私が説明するから、車椅子の向きを変えて」

言われたとおりに向きを変えると


「…彼も来ちゃったんだ」

ティーチャーを見て小さく呟いたのが聞こえた。




── 遠きを見据える白き乙女へ

階段から複数の足音が聞こえてきたからさ、てっきり、女将とベテランさん御一行かと思ってたんだけど、予想外。

っていうか、団長が戻ってくるのも遅かった、ってのも予想外だったりする。


まさか、団長が気を利かせて私を独りにする時間を作ろうってさ、そんな風に気が利くように人の事を考えてくれるなんて思っても無かったんだよなぁ。


だからさー女将と団長が道中で出会うってのは想定外だってーの。


しゃぁねぇお姉ちゃんとしてフォローしてあげないとね

「第一に女将は勘違いしてるからね」

布に全身包まれた状態で偉そうな雰囲気を出してみても、たぶん、締まらないなぁ。

ちらっと団長を見ても布から出してくれる様子も無いって言うか、腕だけ出して点滴を繋げようとしてるからたぶん、そっちに意識が向いちゃってんだろうね。


まぁいいや、このまま布にくるまれたまま、謎な雰囲気を醸し出してやらぁ

此方が言葉の続きを言わないので女将の方から少し苛立ちが伴った声をぶつけられる。

「何がちがうってんだい?戦士長には二人、お子さんが居たって事だろう?」

第一声が否定なのが良くなかったかも?イラつかせてしまったよ。

っま、気にせずにいこう。

「違うものは違うんだよ。よく考えなおしてほしいかな?そもそもさ~、あの戦士長が隠し子とかいるとおもうー?おかあさ…No2から耳が閉じちゃうほど彼のお話を聞かされてんだってーの」

No2っというワードに反応したのかイラついた表情が抜け聞く姿勢に入ってくれる

「あそこ迄、純情で、真っすぐで、嘘をつけない」

一言一言に確かになぁっと腕を組んで大きく頷いてくれている。

「そんな真っすぐな人がさ、お父さんや奥様との約束を破ってさ出来ると思う?約束を破って何食わぬ顔でさ誰にも相談することなく長年も皆と一緒に何食わぬ顔ができるわけないじゃん」

言葉の一語一句をふか~くふか~く頷いて噛み締めている。

これで納得してくれるのであれば、至極当然の反応が返ってくる…かと思いきや、大きく頷いた後、此方に向けてくる表情がしかめっ面なんだけど?まだ納得できないの?

「でもよぉ、それじゃ、あたいが」「僕達と共に戦った彼はいったい、何処のどなたなんですか?」

二人同時に声を出すなよ、聞き取れるけどさ

二人が何をそこまで意固地になるのか…気になってる部分、引っかかる部分があるってことだろうけど、原因は百も承知なんだけどー…時間かかり過ぎる。

手っ取り早いのが二人と魂の同調を行ってより深く私の記憶を追体験してもらうべき、納得してもらうのならするべき!…なんだろうけど~…


どうしたものかなぁ、魔力に余裕がないってのになぁ。

困った困ったと、鼻から零れてしまった小さな溜息を塔の隙間を駆け抜けていく風に混ぜ込んでいると

『同調しなくても、記憶の追体験までしなくてもいい。俺と彼女を繋げてくれればそれでいい、後は、俺から全てを話そう』

唐突な申し入れに驚いてしまい、体が小さく跳ねてしまう。

幸いにして、既に点滴用の針が腕に刺さっていて、点滴が流し込まれている感覚がする、急に動いて団長の邪魔にならなかったから良しとしよう。


軽く鼻から息を吸い心を落ち着かせ、珍しく助け舟を出してくれた愛する旦那に意識を向ける。



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