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最前線  作者: TF
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Cadenza 戦士達 ⑨

「取り合えず、何もしないと寒いだろうから、はい、タオルケット!」

近くに置いてあった木箱の中から布を取り出して見せてくれる。

「取り合えず、よいしょっと、肩と、タオルケットの端っこを車椅子につけられているフックに引っ掛けてっと、これで胸元から風がはいってこないから、さらに膝ぷらす足を包み込むように、くるんでっと」

固まって動かない私の上半身を軽度前へ倒し、車椅子と私の背中に隙間を作り、その間に布が差し込まれ、そのまま、差し込まれた布が肩から上半身をすっぽりを覆いつくす。

それだけではなく、更には前掛けのように布をかけられたとおもったら、一瞬だけ太ももが車椅子から浮かされた、手際よく太ももと車椅子の間に布が挟まれ足首まですっぽりと全身が頭を残して布に包まれる。


先ほどまで吹いていた風も頬を撫でるだけで全身には届いてこない!温かい!

「これでよしっと!温かいよね!そのタオルケットってやつ!こんな暖かい場所にさこんな布いるのかな?って思ってたけど、こういう時の為に通気性を出来るだけカットした布ってのを開発していたってことだよね?流石だねーおねえちゃん」

私がよくするように、にししっと笑ってから目の前で手を振りながら視界から消え

「それじゃ、私は階段で降りるから!何かあれば、直ぐ近くの魔道具を使えば誰かしらに繋がると思うから、その人に頼んで!それじゃ、ごゆっくり!」

タッタッタッタっと地面を叩く音が徐々に小さくなっていくのを背中で感じ、音が聞こえなくなるころには冷え切ってしまいそうだった心臓も、暖かく動き始めてくれる。

よかった、まだ、私の心臓は動いてくれている。


胸に意識を向けると優しく心臓を鼓動する音が聞こえてくる。


その事に感謝を捧げてから、念動力を使って車椅子を動かし外がよく見える場所に移動すると、先ほど私達を乗せて運んでくれた昇降機構がゆっくりと視界から消える様に下がっていくのが見えた。

─術式を刻んだ鉄板に魔石が接触すると術式が起動するようにセットしており、Aという術式には鉄板を一定の速度で鉄板全体を垂直に持ち上げる術式が刻まれており、更にはセットとして柵全体を支える様に張り巡らされた滑車と共にセットされた特殊な紐、ワイヤー?ケーブル?ケーブルと表現したほうが適切かもしれない、それを巻き取る様に術式が刻まれていて、おりる

はいSTOP!今更おそいってーの!もっと早くに教えて欲しかったかな!


怒りを泥の奥底へ向けると多くの私がにししっと笑ってる!

知ってたな!敢えてだまってやがったな!


性悪な私達を叱ってしまいたくなるが、っふっと、笑みが零れてしまう。

だって、私の時は泥の瞳達は決して悪ふざけなんてしなかった。

きっと、今代の私が彼女達を導き満たしたから、彼女たちの炎は鎮火したのかもしれない。


嗚呼、だから…か。

私の時とは違って湧き上がってきて狂ってしまいそうになるほどの激情が思考を支配しようとしてこないのは…

単純に私が完全敗北した影響で私の心が折れてしまったのかと思っていた。


でも、真実は違っていたのかもしれない。

私は、過去の瞳達の炎を受け止め過ぎて真っすぐに解き放とうとし過ぎたのかもしれない。


冷たい風が頬を撫で、私の頭を冷やしてくれる。

体から溢れ出る熱が布に宿り、ううん、布が逃がさないように包み込んでくれているから体がほのかに…焚火の傍にいるみたいに暖かいと感じてしまう。


焚火なんて、私はしたことが無い、たぶん、今代の私の記憶なのだろう


冷たい風が通り過ぎていく…

何処までもどこまでも自由に…

私とは正反対、だって、私は自由に見えて自由じゃない…

ずっとずっと、死に続けている…

長い永い、間、ずっと…


獣達に殺され続けている…

その運命を悲しき巡りを死の連鎖を断ち切るために…

連鎖の波紋が広がり続け人類が滅ぼされないために…

波紋の始まりであるこの最前線で必死に戦い続けている…


見方によっては私という個は、この大地に縛られ続けている


目を瞑ると多くの鎖が私を縛り付けている

その先にある重みが嫌だった、辛かった、鎖を通して私に語り掛けてくる憎悪が私の心を染めようとしていた。


でも、今は、鎖に縛られていることには変わらないけれど、鎖の先に重しがない。

感情に支配されることが無い。


『ぼくたちが』「俺が」「僕が」

『傍にいるよ』


多くの愛する人達が私を支えてくれる。

ありがとう、私の子供達

ありがとう、私の旦那様


愛する多くの家族に囲まれながら

私は前を向く

最後の戦いに向けて


眼を開き、視野を広げる。

思考を止めない、一手遅い私が後の先をとる。

その為に、先生が本当に動いて欲しいと願っている意図を探り

それよりも上にいく、それくらいのつもりでいないと、一手どころか手遅れ詰みの状態にまで追い込まれちゃうからね。


さぁ、今代の記録、そして、この塔から見える情報を元に考えよう。

作戦はある、でも、全て作戦通りに行くとは限らない

今できる範囲で1の矢、2の矢、3の矢と考えて行こう。


私はもう、過去の私に情報を送ることが出来ないから。

これが最後なんだ…



幾ら風が冷たくても私を暖めてくれる人達がいる

幾ら風が強くても私を後ろから支えてくれる家族がいる



全てに支えられながら目に力を込める、目に魔力を宿らせる。

遠い遠い死の大地

ここからなら見える

私は目がいいから望遠鏡なんて無くても


私の時では観測できなかった大穴が見える

大穴の奥にいるであろう…怨敵を睨みつける睨み続ける


獣達は私の気配を感じたのか一斉に此方を睨み返してくる

今代の私が放った決死の一撃で多くを失ったであろうに

まだまだ、獣数は私の時代と同じくらい、いてそう。


怖気づくことなく睨み返すと泥の奥から炎が燃え広がろうとしていくのを感じるのと同時に、二つの手が私の肩を叩いてくれるので、目を閉じて、視線を死の大地から逸らす。


心の奥底で眼を見開いて得た情報を今代の私が残してくれた記録にプラスして作戦の見直しをしながら、作戦の流れを整えていく。







── 場所は変わり、病棟の一室


「成分問題なし、容量も問題なし、当分はこれで良いわよね?よし、こんなところね」

粉を固めただけの錠剤、あの子専用に配合した点滴液、痛み止めから何から何まで準備よし。

忘れ物が無いか指さし確認しても、忘れている薬が無いのも確認完了。

間違いはないわね。


ただ薬とは関係ないけど

「こういう時に独りごとが漏れるのは歳ってことかしらねぇ」

自身の行動に、はぁっと溜息と独り言が止まらない。

なぜなら、若い頃に見ていた頼りになる先輩の背中を思い出してしまうからよ。


夜遅くとか、ちょっとした時間に独りごとをぼやきながらカルテの整理をしていた先輩の後姿を思い出してしまうのよ、こういう作業をしている最中に独りごとをボヤしてしまうとね。


あの時の先輩を、まーた独り言いってる。そんな風に思いながら冷ややかな目で見ていた私が、今このときも、直ぐ近くに居るのでしょうね。はぁ、歳をとりたくないものね。

後ろを振り返ってみても誰も居ないのが幸いでしょうけれど、独りごとは確実に誰かの耳に届いているでしょうね。


ふぅっと小さな溜息を吐き捨てながら、もう一度、用意できた薬に視線を向けると、喉が閉まるような感覚に襲われる。


さて、薬が出来たのはよしとして、持って行った方が良いのかしら?

会議室に居るのは判ってることだし、運んでも良いのよね?

持っていくべきなのはわかってるのよ?でもね、その、私も会議室に入って良いのかしら?


姫ちゃんのあの口ぶりからして

私を含め、当事者以外、来て欲しくないって雰囲気が伝わってきたのよねぇ。


こういう時の姫ちゃんは何か覚悟を決めていることが多い。

あの子が覚悟を決めることなんて考えるまでも無い。

長い付き合いだからこそわかる、わかってしまう。

何かしら命に係わること。


次の作戦、女将の奴もベテランの奴も、絶対に前線へと出ていく。

私が知りうる限り、あの二人を超える戦士はこの街にも王都にもいない。


でも、惜しむらくは二人ともかなりのご年齢

孫が居てもおかしくない年齢なのよね~…


そのハンデをどうにかする方法が姫ちゃんの中ではあるのでしょうね。

ただ、その内容が非人道的なのか、二人を作戦で一番命を落とす場所に配置するのか、その事を話すことに対して決意を固めていたのでしょうけれど、そもそもね、命の危険に関係する事なんて死の大地に置いて山ほどありすぎて、その程度の覚悟くらい、私達はこの街に来た時から覚悟何てしてるわよ。

でも、それ以外の事だったら予想なんて出来やしないわね…


ただ、どの様な内容であれこれだけはわかっている、確実に言えるのが、あの二人は帰らぬ人となるのでしょうね。


そうなるとよ?…あの人は、どう思うのかしら?ってことになるわよね?

閃光姫と呼ばれベテランの馬鹿を支え続けてきた良妻、普通、あそこ迄、外で女遊びをしていたら咎めたりするでしょうに、愛する騎士様がそんな事をし始めたら私じゃ嫉妬で狂ってしまいそうよ、まったく、よくできた奥さんよね。

私も、側室として生きる一族だからこそ彼女の考えは理解できるのよ?

一人の女性だけを愛し、外で遊ぶのであれば咎めたりはしないけれども、ダメね、もう一人の私がそんな事を考えるなって睨んできてるわね、気持ちを切り替えましょう。


会議室に出向くのに足を運びにくい原因があるのよ、あったのよ~…

朝に、ベテランのやつを捕まえにいった時に奥さんもあいつの隣にいたのよ…



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