Cadenza 戦士達 ⑦
「命の本流とは何を指すのか?答えは魔力。命を魔力へと変え、自身では生み出せない程の魔力を発生させる。その魔力をもって眼前の敵を殺す確実に、まさに必殺の一撃、それが、それこそが死の一撃。戦士長は多くの生命力っていうのかな?色んな臓器を触媒にして魔力を生み出して解き放ったんだと推察している」
だって、残された報告書によると戦士長は一度だけじゃない、二度、死の一撃を放っている。恐らく、一度目は臓器、二度目は…
小さな笑みが大きな笑みへと変わり、唇に微かに振れている指先が震えている
この先に、私の提案に乗りさえすれば大いなる力を得ることが出来る、求め続けてきた究極へと至ることが出来ることに…力に歓喜しているのかもしれない。
「それが可能とすれば…戦士長が死ぬきっかけとなった、異形なりし人型と言えど、闘えれるでしょ?」
女将のトラウマとなったであろう、あいつ…あいつと闘うのであれば人生で一度しか使えない死の一撃を何発用意しないといけないのか、わからないからね。
…こういうところが冷酷なんだろうな、人の命を弾としか勘定していない。
今はそれでいいと自分に言い聞かせると泥の奥からそっと手を伸ばされ肩を叩かれたような気がした。
「ああ!問題ねぇ!問題ねぇよ!!あたい達でもあいつを…戦士長の仇を!」
「・・・」
女将からは好反応だけど、ベテランさんが何も言わずに黙っている。
彼ならもう気が付いているんだろうね
「質問いいで、ある、か?」
普段、挙手なんてせずに間髪入れずに質問してくるくせに…
その先の事を質問するのが怖いのか、恐る恐る手を上げてくる、されど、その指先は震えることなく真っすぐに天へと向けられている、でも、隠しきれてないよ。声が震えている。
それに気が付かない奥様ではなくそっと腕を伸ばし、彼の太ももの上に手を置いている。
「いいよ。っま、凡その予想はついてるから先に言うね。この改造を施せば、たぶん、一週間…もって、2週間かな?それくらいしか生きれないよ」
はっきりと告げる。礎になるのだと、ある意味、人類の為に人身御供となるのだと。
「、ぁ、、ぁ、は、、っは、、っく、、、ぐぅ」
答えが脳に届いたのか、指先が一気に震え始める、予想していた最悪の答えが完全に正解したからだろう。
隣の奥様も驚いたのか目を見開き口を開いては閉じを繰り返している。
発言を許可していないから開いた口から音が会議室に流れ込んでくることは無かった。
奥様に手を握られながら質問の為に上げられた腕が青ざめた顔と一緒に下がり机の一点を見つめ始め、下がっていった手が太ももの上に置かれもう片方の手を握り続けてくれている奥様の手の上に重ねると、全身が小さく震えはじめる。
それに対して隣の雄々しき女性が口元に添えていた指先の震えがとまっており、笑みを絶やすことなくぎらついた視線を此方に向けてくる。
野心に近い熱き視線…
戦士として、諦めつつあった戦士長と同じ高みに届き、更には仇も討てるっという未来を想像してしまったのだろう。
女将は根っからの戦士だね、負けず嫌いだもんなぁ…
彼女の母としての願いは成就され残された願いだけが彼女の心を強く縛っていたのかもしれない。
その燻ぶりを感じない私じゃない。
だからこそ、戦いから遠ざけようとしていたのかも、最終決戦までに女将が満足してしまわないように…
だとしたら、ちょっと今代の私を軽蔑しちゃうかもね。
即座に多くの瞳がその意見を批判してくる。
はいはい、ごめんねって、わかってるよ、ブラックジョークじゃん!今代の私が女将をただの駒として見てたなんてあり得ないよね。本当に大事な人だから守りたかったんだろうね。
このまま女将に意気込みを聞いてしまうと、女将に対して付いていく、ううん、追い越したいと常に願っているベテランさんが後先考えずにその場の流れで口走ってしまう。
そういうのは良くない、最後の最後、自身の意思で命を…人類の未来の為に捧げてほしい。
この流れはベテランさんにとって良くない、仕切り直す時間が必要。
幸いにして、隣に最愛の人がいる、なら、後は彼女に任せようかな。
「はい、会議はここまで、この改造を受けるかどうかは…本当は1日や二日くらい話し合う時間を用意したかったんだけど、ごめんね。今日中に答えを出してもらってもいいかな?」
「あた」席を立ち上がろうとする女将を直ぐに手で制止させ
「今すぐはダメ、個人個人で私に決意を表明しに来てほしい」
一瞬だけ視線をベテランさん達に向けると女将がそれを見逃すことが無く、察してくれたのか小さく頷いて
「そう、さぁね。あたいも…ちがうね、あたしも旦那と娘と…愛する家族に相談してくるさぁ、ね」
席から立ち上がった表情は勇ましき雄々しい戦士としての表情ではなく、優しさを纏い女性としての柔らかい表情となり会議室から出ていく、その大きな背中が、戦士ではなく女性として見えてしまう程に、お淑やかに去って行った。
その後ろ姿をベテランさんも奥様も追いかける様に会議室から出ていく。
部屋を出ていく際もずっと二人はお互いの手を握り締めていた…
会議室が静かになり団長が全員分のカップを手に取り炊事場に向かっていくので
「団長は、相談しなくてもいいの?お母さんに」
「する必要は無いよ、お母さんに最後…そんな会話なんてできるわけない、できないよ、お母さんに…できるわけない、だからね、いいの。これは…私の原初の願いでもあるから」
伝わってくる怒りの波動…そうだよね、団長も敵に、恨みを晴らせれるのなら晴らしたいと願っていたよね。
…この街に居る人達で獣に恨みを抱いていない人なんていない
私達は、復讐者だから。
炊事場にカップを置いて直ぐに出てくると決意を固める様に熱い言葉が私に向けられる。
「ここにいる人達は皆、後世に命を繋ぐために集まっている、王様だってそうなんだから、私達だってそうだよ。弟に…ううん、皆に獣達との戦いが無い未来を私は贈りたい」
笑顔で決意を語ってくれる、その笑顔は屈託なく眩しい笑顔。
例えるのなら…うん、そうだね。これこそが、白き黄金の太陽
彼女が太陽であるのであれば、私は月となる。
その輝きを全ての人に伝える。
その輝きを人類に届ける。
それが、月に導かれる白き聖女だから…
「それじゃ、二人の答えが出るまでの間、私達は」
「取り合えず、No2がお薬とか、点滴液を調合してると思うから受け取りに行くよ」
優雅に外の散歩でもって思ったけれど、そういうわけにもいかないみたい。
車椅子を押され会議室の外に出ると
「・・・」
一つの視線が背に刺さる、その視線によって音を消す術式を使わなかったことに幾ばくかの反省をする、彼だったら聴覚の強化くらいやってのけるか、会議室の会話、全部聞かれちゃったか。
っま、彼に知られたとしても、何も問題なーし!
だって、彼が前に出るとは思えれないんだもん。
君は…王族が近くにいる限り隠れるもんね。
それが正解、君だけでも、奥さんとさ、子供と一緒に未来を歩んで欲しいかな。
■■■くん…あ、ちがった、ここじゃティーチャーだったね。
外の日差しは何も変わらない筈なのに、肌寒い。
実際問題、冷たい風が吹いているから、ただ、単純に冷たい、だけ。っと不安に感じてしまう程に、風から生命の息吹を感じない。
どうしてかな、寒く感じてしまう。
…なんてね、心で気温を感じるなってーの、こういうのは単純にただただ理由も無く気象の変動ってだけでしょ、きっとそう、敵が気象まで操れるわけないってーの。
もしも、もしもだよ?
この気象の変動ですら先生の策の中であるとすれば、どうする?
一瞬だけ考案し直ぐに答えが突きつけられる。
…どうすることもできない、っという答えが。
だってさー、時間ないって!
今から寒さに対して何かできる事なんて無いもん。
考えられる対策なら直ぐに思いつくよ?でもね、それを施す時間がない!
例えばさ、寒いのなら鎧そのものに軽度の人肌よりも低い温度、15℃から20℃くらい?を目安に熱を発生させる術式を刻み込んで敵の攻撃が当たらりにくいであろう背面の一部にでも魔石をセットする箇所を用意して、鎧そのものが熱を生み出すヒーターとしての術式を刻み込む。
熱を生み出す術式ってなると、手っ取り早いの火なんだけど、そんなのを鎧に刻み込んだとしても一点だけ熱くなるだけだからしないけどな!
光りと熱をベースで刻み込んで発動させると鎧全体に熱を発生させる仕組みにすればいい、発生時は一瞬だけ30℃以上の熱を生み出して、その熱をある程度逃がさないようにすればいい、つまるところ、鎧の内側に熱源を生み出す術式を組み込めばいいってこーと。
戦闘服の上から鎧を着るからその程度の熱源程度じゃ火傷なんてしないからその点は問題なし!
この程度の術式だったら、術式班と研究塔の皆が総出で休まずにやれば…うん、全部は無理でも奥地へ単独行動をする戦士達の分くらいは間に合いそうだけど、優先度は低い、かな?
たぶん、これに関してはまやかし、この一手はたぶん、先生も想定していない。
だから、気温の変動は考慮しない、敵が施したって有り得ないから。
なので、そういうのよりも、術式班や研究塔の皆は忙しそうに何か作業をしているみたいだから、今代の私が何か彼らに図面でも渡している可能性がある、それを邪魔するわけにはいかない。研究塔の皆はそれを優先してほしい。
ただ、語りたがりの今代の私がそのことについて記録が呼び出されない辺り、今代の私としても優先度は低いのかもしれないけどね。
かといって、今の私が何か思いついて研究塔の皆に何か開発を頼んだとしても時間が足りな過ぎてさ新しいモノは作れない、作れるとしたらさっきみたいに誰でも作れるような簡単なモノだけ、かな?だとしたら研究塔の皆に指示を出すなんてさ、何も言えないってーの。




