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最前線  作者: TF
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Cadenza 戦士達 ③

女将を眺めていると近くの机にコンっと高い音が聞こえてくる、団長が机の上にカップが置いたのかなっと思っていると

「はい、姫様の分、砂糖は自分で入れる?」

この流れで砂糖を入れるかどうかを聞いてくる辺り、団長の本質は変わっていないんだろうね。

この流れであれば、普通の精神性なら自分は偉い人ではないって意味で自分で砂糖を入れるのが普通なんだろうけれど!ここは敢えて!

「う…いや、敢えて言おう入れて欲しいと」

「はいはい」

女将は遠慮したかもしれないけれど敢えて!

私は偉い人なのだぞとアピールする様に胸を張ってお願いすると

「今日の気分は?2?3?」「ぁ、3で」「っだは、しまらないねぇ」

女将が噴き出すのも致し方なし!

胸張って砂糖多めを頼むなんてお子様すぎるってね!


だってー、甘い方が美味しいんだもん!!


砂糖を小さじ3杯入れてもらい、丁寧にかき混ぜてもらいさらには、適度に冷まそうと口をすぼめようとしてくれたので、それは、流石に申し訳ないので制止する「ありがと!」お礼を言いながら手を伸ばしカップを受け取り淹れてもらった紅茶を口に含む…鼻腔を突き抜けていく香りに、舌を通して脳を蕩かせる適度な甘み、そうそう!これだよね!あんな甘いのなんてダメだよね!

適度な甘みと甘美な香りに包まれるだけで幸せを感じてしまう。

うん!これぐらいがちょうどいいよね!!甘すぎるのはダメ絶対!!糖尿病になるってーの!


「「はぁ~」」

二人揃って零れる溜息が高貴な香りとなって会議室を満たしていく。

紅茶の高貴な香りに包まれすぎて、ここが会議室であるのだと忘れてしまいそうになる、優雅な一時です事。


こんな優雅な一時、私達ばかり紅茶を堪能するのは忍びない。

団長は飲まないのだろうか?


紅茶好きな彼女が一緒に飲まないことに疑問を感じ視線を向けると炊事場に向かって歩いていくのが見えた。

きっと、自分の分を淹れに行ったのだろう。


その後ろ姿を女将も見ていたのか微笑ましそうな表情で後ろ姿を見送り、此方に向き直すと柔らかい表情と共に落ち着いた声で

「いいねぇ、こういう時間。不思議と姫ちゃんの前だと心が穏やかになるねぇ」

っへ、そういう口説き文句は旦那さんに言うんだね。

「何時だって女将は雄大で雄々しく気高く、比類なき鋼の精神じゃないの?なんてね」

意地悪をいうねぇっと小声で呟かれながらほっぺを太い指先でつつかれる。

照れ隠しだい、てひひ。

「もう、怖くないの?」

「へへ、怖くないのかって言われるとよ、正直に言えばこえぇよ?でもな、わかっちまったんだよ。失う方がもっと怖いってな、痛い程わかっちまってな。己が消えるよりも誰かが…いや、ちげぇな、大切な人を目の前で失う方が、あたいはこえぇのさ」

突かれた指がそっと離れると私を見下ろしている女将が更に深く下を向く、全てを後悔するかのように俯き垣間見えた女将の表情が全てを物語っている。


私はその感情を否定しない、だって私も同じだから。

その進み方も一つの歩み方。

恐怖を飼いならすことは出来なくても、それ以上の怖さを知っているのであれば…怖くても前へ進めることが出来る。

どんなことであれ前へと一歩踏み出せるのであれば問題なんて無い、その勇気が何れ恐怖を克服する。


彼女なりにトラウマを乗り越えようと奮闘してきている。

その願いを踏みにじるつもりは無く単純に寄り添う為に震えていない拳にそっと手のひらを重ね情けない自分を曝け出す

「大丈夫、私が守ってあげるから…って言いたいけれど、今回ばかりは」

情けない言葉に俯いた彼女はゆっくりと情けない私の顔を見て

「…ああ、そうだね。今回ばかりはどうなるかわからないさぁね…いや違うさぁね、今回って言うかこういった局面だと負けちまってばっかりだもんなあたい達は」慰めてくれようとしてくれる。

…そっか、そうだったね。女将も私の記憶に触れたんだっけ?夢という形で

「そうだったそうだった、今ので思い出したさぁね!姫ちゃんには聞いておきたかったんだけどよ、夢の」全ての言葉を言い終わる前に挟み込む

「うん、事実だよ。私が死んだ世界、どういうわけか原理は知らないけれど女将もその断片に触れちゃったんだね」

ああ、やっぱりそうなのかいっと巨体から考えられない程にか細い声が死んでいった私達に零れ落ちてくる。

零れ落ちた悲しみを受け止める様に重ねた手のひらを悲しみに暮れる幼子をあやす様に動かし

「より深く怖くなったんじゃないの?」

死というトラウマが新たなに刻まれていないのか、確認する。確認しないといけないから。

「いや、より一層、あたいの心は強くなったさ、あたい達は…保守的ってやつかい?守りに徹し過ぎていた。悠長に畑を耕している場合じゃなかったのさ、あたい達は戦士長が死んだのに仇を取ろうともせずに怯えていた、そのつけが、あたいの故郷、あたいの両親を失うことになっちまった…もう獣共に奪わせたりなんてしねぇ、全ての仇を討たせてもらうさ、そう、夢の中だろうと、その全ての仇をね!何度も殺されたあたいの仇も乗せねぇと割に合わねぇとおもわねぇか?」

幼子をあやしているつもりが、起こしてはいけない燻ぶっている火種を燃やしてしまったみたい。

眉間に大きな皺を作って殺意を大きく膨らませていく、肌がピリピリする程に伝わってくる。


負けず嫌いの一面が大きく出てきてる、それでこそ粉砕姫だよね。

私の胸を貫くほどの心の波動を感じ彼女の本質を思い出し、自分の中にある保護欲が間違いであると言われたような気がした。


そう、だよね、彼女はどんな時であろうと、どんな遊びであろうと負けず嫌いだったよね。


大きな拳の上に置かれた手を優しく撫でていた、されどこの瞬間、己の情けなさに動きが止まっていた。

その手を力強く握られ、心に秘めた力を強く感じる。

「全部、敵にぶつけてやらないとお互い気が済まないよね?」

「まったくだよ!」

豪快に伝わってくる巨木のような力強さを分けてもらう様に握られた手は握手という形で終わりをつげる


そっと分厚い肉から手を解放され、熱く厚く握りしめられたせいなのか、手のひらが熱く、紅茶を手に持ったとしてもカップから熱を感じることが無かった。


唇を紅茶で湿らそうとすると

「っでだ!思い出したけれどさ、戦士長の息子…ってのは、いる、のかい?その、姫ちゃんとよ?良い感じの雰囲気だったような気がしたんだけどね?隠し子がいる、ならよ?迎えに行かなくてもいいのかい?姫ちゃんの好い人なんだろう?」

…さぁどうやって逃げようか?


この質問に関してはまったくもって危惧してなかった!!

どうやって切り抜けるか考えてなかったよ!!

うっわ、どうしよう!?


助けを求める様に炊事場を見ると鼻歌が聞こえてくる

完全に自分の世界にはいってる!団長を使って切り抜けるのは難しそう。

ううん、むしろ?今の状況の方が誤魔化しやすいのかな?

だってさ、団長だったらさらっと答えを何も考えずに…

突拍子もない内容すぎて説明したとしても信じてもらえない気がする。

こういうのは順序立てて物語を整理しないと、かといってそんな時間ないんだけど?


時間が無いのであればさらっと簡易的になる、そんな信じられない摩訶不思議な話を今一度、話しても良いモノなのか?思考を加速することなく決断する様に考えては、みるが…直ぐに決断が出来ない。


んー隠す必要は無いんだろうけれど、突拍子も無さ過ぎて信じてもらう方が難しい、よね?

こういった事を泥の中で眠る愛する旦那に相談したいんだけどさ起きてこないだろうね。


手っ取り早く知ってもらうのに適した術を使えばいいんじゃないかって■■■くんならいいそうかな?

でもなぁ…

魂の同調を行えればいいんだろうけれどさ、あれって地味に条件揃ってないと難しいんだよなぁ~…難しいけれど出来ないことはないんだけど、その、ぶっちゃけるとお互い不安なんだよな。


ちらっと、女将に視線を向ける、その強大な肉体、私の中に残された魔力で全身を駆け巡らせること出来るのかな?

そもそも、女将と魔力を繋げれるのかな?

女将って魔力操作の技量どの程度まで磨かれているの?そこんとこどうなの?今代の私?…記録が語ってくれた事実に目を背けたくなる。


…うん、今代の私も女将が魔力操作にたけているとは思っていない。


そうなると、私の方でコントロールしないといけないからより一層、私にかかる負担が強そうなんだよなぁ…

魔力も乏しい今の状況で出来る限り、したくない、かなぁ…っていうか、完全に繋がることが出来なくて断片的に伝わったとしても、それはそれで?良くないよね?


さてさて、どうしたものか…この熱い視線…

真っすぐに此方を見つめてくる彼女の大きな瞳を見つめ、真剣に!はぐらかそうと口を開くと

「吾輩が呼ばれているのであって、お前は呼ばれていないのである」

ドアが豪快に開かれ不機嫌そうな声が会議室に放り込まれ

「私だって戦います!昔と同じように!」言い争う声が追加で会議室に流し込まれ

「それを決めるのはお前じゃないのである!作戦として邪魔になるのであれば引き下がるべきである!」力強く否定する雰囲気が彼の言葉が亭主関白のように聞こえそうだけど、作戦を預かる幹部として真っ当な意見

「それはまだ決まっていません!直談判し指示を仰ぐためにも姫様に合わせてくださいと何度も!」うげ、直談判されたとしても、奥様を最前線に連れて行かないよ?

「此方から話を通すのである!それが物事の道理である!幹部の嫁であろうと筋道を立てずに我を通すのは良くないのである!それにである!ここに求められているのは幹部である!姫様は幹部と話をするために集めているのである!幹部以外はお呼びではないのである!ここから先は幹部のみである!お前は下がるのである!!」廊下からドアを跨ぐことなくずっと言い争っている

「・・・!!」

入り口で行われた討論の最後は決して間違ったことを言ってない為、反論することが出来ず無言で歯を食いしばって愛する旦那を睨みつけつつ、愛する旦那の足をガンガンっと金属音を響かせるように踏みつけて終わりを告げた。



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