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最前線  作者: TF
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Cadenza 戦士達 ②

「まぁいいよ。終わった後は、皆でメイドちゃんを宥めたらいいから…たとえ私達がお父さんの傍に居たとしてもね」

そっと肩に手が触れられる。

そうだよね。私の記憶に触れた貴女だったら、ある程度、察しが付くよね。

「うん、団長は」「その先はお互い確認しない、決まってるよね?」

愚かな質問をしそうになってしまった弱い私を制止してくれる。

ありがとう、■■さん…ううん、医療班団長。

「何となく先はわかったことだし、後は呼び出した人がどういう反応するかってことだよね?」

小さく頷くと肩をぽんっと優しく叩かれ

「気負う事ないよ。あの二人なら頷いてくれる。私だって頷く。No2は奥歯を噛み締めて涙を流して頷いてくれる」

ゆっくりと離れていき、二人の到着まで時間がありそうだから紅茶淹れるねっと会議室と繋がっている炊事場に向かっていく。


気負ったりはしていない、ただ、私がその事を二人に伝えるのに勇気という名の覚悟が足りてないだけ。


はぁっと、溜息を溢してしまうと、聞こえてしまったのか炊事場から団長が話しかけてくる

「それに、お爺ちゃんだったら…あれ?お爺ちゃんって会議室に呼んだっけ?」

「呼んでない。彼は誰かがいる場所で判断を仰ぐとかっこつけるからダメ、ちゃんと自分の感情で答えて欲しいから、後で呼び出すつもりだよ」

特に、愛する息子が育てた一番弟子の前だとね、師匠の師匠として見栄を張りたがるから。

彼に声を掛けるとすれば一対一、二人っきりで話し合うのが一番。


不思議と、この部屋に向かっているであろう二人よりも、私の騎士として在ろうとしてくれた彼の方が伝えやすいと感じてしまう。


あの消えゆく世界で、彼は…あの境地に辿り着いたのだろうか?

小さく首を横に振る、彼であれば辿り着けている、戦士の…ううん、人としての極地に。


私達と肩を並べることが出来ると手放しで語れるほどの強き戦士、彼と過ごした日々を思い出してしまっていると

「おう!邪魔するぜ」

豪快にドアが開かれ豪快にドアが閉じられる。


彼女はノックなんてしない、それが女将だもんね。

年頃の娘さんがいるって言うのにこのお母さんはデリカシーが無い。

でも、そのデリカシーの無さに日常を感じ張り詰めて固まっていく心が柔らかくなる。

「やほ」

デリカシーの無い女将を見て軽く手を振っただけで

「びめじゃん!!」

大粒の涙を流して駆け寄り車椅子ごと抱きしめられてしまう

力強いはずなのに、何て優しいのだろうか。

「こんなにやつれちまって、こんなに暗い表情しちまって」

分厚い手のひらが私の頭を何度も何度も撫でてくれる。

この人もまた、私にとってはお母さん、心配かけすぎてしまったことに関しては今代の私のせいだから謝るつもりも反省するつもりも無い。

「うん、でも、私はまだ動ける」

「ああ!姫ちゃんが動ける!そして!あたいを呼んだってことは、戦士としてのあたいをご所望ってこったろぅ!?」

返事と共に分厚い肉厚から解放され大粒の涙を流したまま此方を真っすぐ、強い瞳で撃ち抜いてくる。

「うん、旦那さんや娘さんには」

「話は通してあるよ。旦那は私が死んだとしても悔いは無いだろうからね」

その発言に口答えをしたくなってしまう、誰だって死んでほしくない、長生きして欲しいとおもうよ?ってね、でも言えるわけがない、だって…


それはお前もだろうっという内容だから、口に出せないでいると


「あたいは根っからの戦士さぁね、こういう日が来るのだと旦那は覚悟をもってあたいを抱いてくれていた愛してくれていた支えてくれていた」

大きな顔をスローに首を横に振ってから

「違うね、戦士である、あたいを…あたしを女にしてくれた」

言い直してくる。


たったのこれだけ僅かな言葉で、二人が歩んできた道が愛で溢れているのだと伝わってくる。


「あたしたちは夫婦として誰もが羨むほど眩しい程に愛し合ったさ、娘も二人…いや、産んでねぇけど、三人目、いや、四人目もいる。これ以上の幸せなんてないさぁね」

力強い瞳、その瞳は戦士としてではなく一人の女性として一人の母としての瞳

「そんなに幸せなのに、手から零れ落ちても」

本当にいいの?っと声を出す前に

「だからこそさ、あたいは守らなきゃいけねぇ、こんなあたいに愛を教えてくれた旦那を守る。旦那だけじゃねぇ、あたいは母としてあの子達の先を守らないといけねぇ。戦いがあってはいけねぇんだよ。平和な世の中ってやつかい?娘達だって、恋のひと…つやふたつはもうしてそうさぁね。でも、まだ愛を知らねぇ…はずだよな?ああ、まだ子を産んでねぇ、あたいと同じように愛を知らねぇんだ、その未来だっけか?明日を守る。それがよ。あたいたち…この街、敵からの攻撃を防ぎ続けてきた最前線の街で使命をもって戦い抜く戦士達の役目ってやつ、だろう?な?戦士長…」

最後の最後は、天に向かって、ううん、月の裏側へ向けられていた。

彼女の姿勢から伝わってくる覚悟、過保護を押し付けていたのは私だと反省してしまう。


そうだよね戦士としてこの街にきたんだもん、そもそもだよね。

大昔から戦士達は自身の命について何てさ、今更確認する事じゃないよね。

覚悟なんてやつはさ、とっくの昔に出来上がって固まっていたってことだよね。


戦士として生きてきた人の姿を見て今代の私はどう思うのだろうか?


押し付けだろうが過保護だと言われようが、きっと、今代の私は、母として接してくれたこの人を死地に赴かせるつもりなんて微塵もなかっただろうね。

でも、私は…ちがう、わたしは ちがう ちがう…


自分に言い聞かせるように復唱しこの先の事を想像してしまい心臓が泣き叫ぶのを殺すように諫める


非情に成れ、冷酷に成れ、冷徹に…心は人であるな。

最後の戦いとなるこの戦い、切れるカード全てを切る、情なんて無意味、そんなものに意識を向けていたら此方が無慈悲に全てを狩り取られる。


今回の作戦の胆は電光石火、雷撃が瞬き音が裂けるように伝わってくるよりも速く決着をつける!何も出来ない!させない!つもりだからね、っていうかそうせざるを得ないんだけどね。


目の前にいる人物の瞳が全てを物語っている。

私に語るようで自身に語り掛けていた、そんな女将の瞳からは最初に顔を見せてくれた時のような母としての瞳ではなく、完全に戦士としの瞳へと切り替わっている。

彼女の瞳から意志が伝わってきている、今その事を聞くのは野暮だとわかっていても、しつこいかもしれないけれど、司令官として最後の確認はするべきだ。

命ってのは重たいんだよ?

「母としてではなく戦士として」確認しようと声を出したが直ぐに相手の言葉によって遮られてしまう。

「確認かい?なら、宣言するさぁね、あたしは女として■■■ではなく、戦士として、粉砕姫として最後を迎える。最後の最後であろうとしても、あたいに襲い掛かる獣共を戦士として出迎え全てを砕き割ってやるさぁね!!」

拳を力強く握りしめ、私の顔よりも大きな拳をゆっくりと突き出してくる。

この行動が何を意味するのか分からない私ではない。

それに応える様に私も拳を前にだし突き出された拳に当て

「戦士として迎えるね。お帰り粉砕姫」

「応さ、あたいがいる限り人類に負けって言葉なんてないさぁね!!」

触れた拳がゆっくりと離れ決意を自分の心に向け決意を忘れるなと告げる様に自身の胸へ導く。


拳が己の胸に辿り着くとお互い豪快な笑顔を浮かべお互いの覚悟を受け止める。


今の私達は戦士だと雄々しい表情で笑いあっていると

「はい、紅茶淹れたよ。女将の…おっと、粉砕姫先輩の分もありますけど、砂糖はどうします?」

お盆を会議室にある机の上に置いた団長が声を掛けてくるとお互いへへっと鼻の下を指で擦った後、女将が申し訳なさそうに自身の頭のてっぺんを触りながら頭を下げ

「ぁぁ、悪いねぇ。立場的に言えば団長の方がよ、あたいよりも上だってぇのにお茶汲みなんてやらせちまってよ」

砂糖が入っている蓋に団長の手が伸びるのをみた女将が慌てて

「いいって!悪いって!そんなよぉ!お茶汲みだけでも申し訳ねぇのに砂糖を入れさせるなんて、お偉いさんじゃねぇんだからよ、自分で入れるさぁね!ぁぁ、でもよ、こういうお気遣いってのは嬉しいからな?ありがとよ団長」

慌てながらも団長の動きを手で制止し直ぐに手を伸ばして自ら砂糖が入った瓶を掴み、砂糖を紅茶が入っているカップに勢いよくざぶっといれ豪快にされど零れないようにかき混ぜてから口の中に流し込むと砂糖を入れ過ぎて甘かったのか、驚いた顔で此方を見てくる。

「?…姫ちゃん、これは砂糖が上等なやつなのかい?それとも茶葉かい?」

甘さで驚いたのではなく風味と上等な砂糖に驚いたって事ね。

「両方、だと思うよ」

目を閉じて鼻から伝わってくる豊かな香りで確信する。

「この広がっていく高貴な香り…これ、たぶんだけど王家御用達の上物の茶葉だと私は思うんだけど?どう当たってる?」

王家御用達という言葉が耳に入るのと同時に女将の目が大きく開き団長の方へと顔を向け

「だ、だいじょうぶかい?あたいが飲んでも」

手に持っているカップに指を刺してる。

これくらいで大袈裟だな~、ほら、そんな反応するから、団長が視線をこっちに向けたり女将に向けたりして不安そうにしてんじゃん

「だぁ~いじょー、っぶ!ここにあるんだから誰でも好きに飲んでいいから。王家御用達の茶葉なんて私達でも買えるんだから、王家御用達だからといって禁制の品じゃないからね?ってかさそもそもじゃん!その茶葉を育てているのってさ、女将の旦那さんとこでしょ?女将だって飲んだことあるでしょ?」

自分の所で栽培してるんだから、当然、夫人として味見位してるでしょうし、なんなら?自分たちの分くらい取っておかないの?

「だからだよ!王様がご所望品ってのはだね、特別な意味が、えっと、あってよぉ、それを、下々が飲むってのは不敬ってことで処されたり…」

遥か昔であればそりゃ、不敬だって断罪されるだろうけれど、たかが紅茶、それも大量に栽培していてるし、どんな経緯か知らないけれど、旦那が栽培している紅茶を王族が口にして気に入ったから優先的に卸しているってだけで、王命によって王様の為だけに育てているわけじゃない。

故に不敬ってのはおかしな話だよね?ってなる。

「ってのは、自分で言っておきながら大袈裟さぁね。でもね、この茶葉がどれ程の、あたいはよ、卸値を知ってるからね、卸し値であれってことはよぉ?相当高いだろこれ…」

段々と落ち着いて冷静になっていく姿に笑ってしまいそうになるのを堪え

「庶民おっと、平民の皆からすればこの茶葉は高くてもね、私からすればこの程度?何も問題な~いの。それにね、会議室なんて常に誰かが利用するわけでも無し、そんな場所に高級な茶葉を配置してると誰も飲まないから悪くなるじゃん、茶葉が悪くなって捨てるよりも、美味しく飲めるタイミングで美味しく飲んでくれる方がさ、茶葉も嬉しいんじゃない?」

農家の妻として作物を無駄にする方がよくないでしょ?っと諭すと

「それも、そうさぁねぇ…淹れてくれたものを飲まないってのが、不敬ってやつさぁね!淹れてくれたんだからありがたく飲ませてもらうとするさぁね」

ニカっと豪快な笑顔で紅茶を豪快に飲むのかと思いきや背を丸めて小さなティーカップを指先で摘み丁寧に優しく持ち上げ、舌がやけどしないように空気を含ませながら紅茶を飲んでる。

一口つけては熱かったのか、ふーふーっと息を吹きかけて冷ましたりティースプーンで掻き混ぜたりと、豪快な渾名とは遠い繊細なその仕草にわら…微笑んでしまう。


女将のこういうところが可愛いのかもね、旦那さんの気持ちがちょっとわかったかも。




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