Cadenza 乙女心 ⑦
「なんで?私、王族の血なんて無いよ?何か調べる方法でもあるの?」
「大事なのはな、そうだな、この際だ包み隠すことなくはっきり言おう。王の椅子に座るという事だが、王族の血脈が大事ではない、大事なのは、始祖の血だ。お前のようにな術にたけ、知力にたけ、才を示したのであれば話は別だ、お前のことであれば平民であろうが貴族であろうがこの大陸に住まう物であれば誰もがお前の才を知っている。そこまで特別な才を持つものであれば始祖の血が誰よりも濃いのだと誰もが納得するであろう。平民も貴族も誰もお前であれば文句は言わんさ。そもそもだ、俺が知らぬわけが無かろう?お前の血脈がどの様に繋がり続けてきたのか、その濃さ王家と同じと見て問題ないであろう。つまり、お前であれば資格は十二分にある何も問題はない」
ぶっちゃけると私ってさ、あんまり私自身の血脈って詳しくは知らないんだよね。
お爺ちゃんもお祖母ちゃんの顔なんて知らない、私が知ってるのってさお母様とお父様だけなんだよね。
「お母様のお母様とか、私のお爺ちゃんとか、君は知ってるってこと?」
「もちろんだ、だが、残念なことに両者ともに月の裏側へ旅立っている、会うことは叶わぬとしれ」
それに関しては知ってるから別にいいや、お父様のお父様は私が生まれる前から月の裏側へと旅立ってるって教えてくれたから知ってるんだよね。顔は知らないけど
「そうなんだ、別に良いかな?会いたいと思わないし」
思った事ないし…お母様のお母様なんて、夢のまた夢、短命種が子を産むだけでも奇跡だってーの。
お父様のお父様は本気で興味がない。
「っふ、お前も人の事を言えないのではないか?血筋を大事にするのではないのか?」
「?しないよ?お父様がどうなろうが別に?って感じだし」
何言ってんだ?何のカウンターだよ?
「ははは、そうであったな、己が大切にしたい人物だけを愛する、例えそれが肉親であろうと、愛さないと決めたら愛さない、それがお前の本質であったな」
成程、ちょくちょく、君の両親について話を振っておきながら自分は自分の父親を蔑にしてるではないかって言いたかったんだね?
んじゃ、これを使って幻滅してもらおうかな?…っていうか、段々と睡魔が、眠たくなってきたんだけど?話を終わらせたい…
「そうだよ?嫌いになった?なったよね?なら」
「そういった部分も俺は良しとしている」
っち、ダメか。ジャブを打ちこみ続けても何一つ響いてねぇや。
そもそも、こいつがさ、私が両親を大事にするって部分が自身の心に響いているわけじゃないもんね。
「話は戻すが、お前の評価は王族の間でも非常に高いのだぞ、お前という個は種の運命を乗り越えている、教会に…いや、古きを知る物であれば、お前という存在は種の弱点を克服した超越者として見定めている。お前がもし、教会の、いや、教会を通すことなく、如何な状況であろうと前にでて民を導くと宣言すれば賛同するものは数多い、お前が覇道を歩むと宣言すればこの大地はお前の国となったであろう、まったく、俺からの助言を何度も断りおって」
そういえば、土地を与えるだの、何だの言ってきてたな。
「…そういう意図だったの?てっきりさ、私に土地を与えて反旗を見せたら好機と捉えて即潰しに来るつもりだったんじゃないの?戦争をする口実が欲しかったんじゃないの?」
「それも一理ある」
あるんかい!深く頷くなっての!
「だがな、その様な考えもあるにはあるが、お前が過剰に武を蓄え天を掴むのだと槍の先を此方に向けないのであれば、元より何も文句を言うつもりは無かったさ、この大地を然るべき時が来れば国として認めるつもりであったさ」
そんな風に言うけどさ、後出しはダメでしょ?
絶対に、その当時はぜぇったいに!土地を与えて難癖付けて戦争吹っ掛けて、責任を取らす形をもって私を殺す為だったでしょ?そっちが本音なんでしょ?
ああーもう、考えれちゃうなぁ!そういった姑息な手段!
もう、いや!腹芸するつもりなら帰れよ!こちとら、眠いんだよ!!
「信じろとは言わぬ、お前の好きなように思えばよい、俺の言葉を全て信じる忠節を誓った家臣と同じようにお前は俺に対して盲目的ではないであろう?それを良しとしている、俺はな」
お前の全てを受け止め受け入れるって器が広いのだぞって言いたいの?どうでもいいよ…ぅぅ、思考が鈍くなってきてる、きをひきしめろー、こいつのまえで眠そうにしたら何されるか!
貞操は絶対に守るんだから!
睡魔に負けまいと、愛する旦那以外に肌を許すまいと気を引き締めなおすと
「紅茶も空となったか…」
「そうだね」
待ちに待った待望の言葉が零れる!
やっと、帰るのか…長かった。
「うむ、楽しい夜会であったぞ、褒めて進ぜよう。お前は…俺の隣に居るのが最も適している、喜べ誇れ嬉しさで咽び泣くがよい感情を溢すことを許そう」
ふざけた言葉を残して椅子から優雅に立ち上がるので、流石にね?見送らないといけないので車椅子を動かそうとすると
「っふ、見送りなぞ要らん、時間も時間だ、直ぐに寝られるようにしておくがよい」
「いいの、ついで!これはついでだから!君を見送ってから、隣の部屋に移動する予定だから、物のついで!ったく、自分が全ての中心だと思うなって~の」
んべっと舌を出すと
「はは、その様な考え、とうに捨てたさ…いや、捨てさせられたっが、正しいか」
ドアを開けて外に出ていくのを追いかける様に車椅子をこいで廊下を出ると直ぐに
「先に休んでいろと」
「いえ、こればかりは」
声が廊下から聞こえてくる、そりゃ居るでしょ?王命と言えど、王を一人になんてさせらんないっての、近くで待機してるに決まってるじゃん。
「ご苦労なことだ、これを言い訳として翌日、体たらくであれば王都に帰ってもらうぞ?」
「はい、その様なこと絶対に有り得ませんのでその時は是非ともお申し付けくださいませ。」
顔を横に向けた時に見えた顔がこれまた、嫌そうな顔してらぁ、私以外にも君に対して反論する人いるじゃん。
「では、俺は先に行く、お前はお前の憂いを吐露してから後を歩くのを許そう、想いを抱えるな、ここは王宮ではない、ああそうだ、忘れていた」
此方に振り返り
「お前の音色、甘美であった。不思議なモノだ、お前の傍にいると嫌な音色が消える」
なんか意味深な決めセリフを放ってからかっこつけながら廊下を歩いていく。
その後ろ姿を侍女が頭を下げてから後をついていくのかと思いきや、王に向けてお辞儀をしてから直ぐに此方に向かって視線を向けてくるんだけど?敵意むき出しだったからなぁって…何で泣いてるの?
「貴女を私の主として認めます。どうか、王家が秘宝を輝かせてください…」
私に向かって深々とお辞儀をされてしまう。それが何を意味するのか!外堀が埋まっていく!!
っげ!?侍女にも私、認められちゃったって事!?
っていうか、考えるまでも無く、この人ってあいつの事を長年、傍に居続けている王直轄の…ってことは、侍女長ってことだよね?
深々と頭を下げたと思ったら優雅に綺麗に背筋を伸ばす様に顔を上げ此方を真っすぐに見据えてくる。
「私は、何年も、いいえ、生まれて初めてあの方があのように笑ったのを耳に入れたことがありません。失礼ですが、私の本音としまして、貴女の事を恨みに恨んでいました。貴女がいる限り王は銅のくすんだまま錆びついていき永遠に輝きを失い続けるのだと思っていました」
私としては錆びついてくれてた方が良いんだけど?
「でも、違ったのですね、王は…いいえ、あの御方が輝くべき場所は玉座ではなかったのですね。今までの私をしっせきし、今この瞬間、新たなる主を受け入れました。矢継ぎ早に申し上げて申し訳ありません奥様、貴女に忠誠を」
教会で聖女に祈りを捧げる仕草で私に祈りを捧げ、此方が口を開くよりも早く自身の願いを押し付ける様に頭を下げて、顔を上げると直ぐにあいつを追いかけていく…
何も言わせないそのやり方はちょっと汚くない?
最終決戦に向けて、これ以上…いや、何も言うまい!私の知ったことじゃないもん!だよね?
泥の奥へ同意を求める様に意識を向けるが何も返事が返ってこない…
小さく誰にも聞こえない程度に歯を食いしばり、車椅子をこぎだし隣の部屋、団長たちがいるドアを開けると
「・・・」「・・・」「・・・」
壁の近くで耳をつけていた三人がドアが開かれたというのに、誰一人此方に目を合わせず、背を丸めて一斉にベッドに潜り込んでいく。
何も言うまい言われまいと、そそくさと横になろうとしている…
その姿勢に苛立ちを覚えてしまうけれど、その行動は正しいとも思ってしまうから追及するつもりはない!ったく!恋愛脳ばっかりだなぁもう!!蜜な音色が聞こえてきたらどうするつもりだったんだっての!!
「私も寝る!ベッドに上げて!」
横になろうとする三人に向かって言うと団長が申し訳なさそうにベッドから起き上がって近くにきてくれる
「あ、はは…その、気になっちゃって」
あどけない垢ぬけない顔かと思いきや、驚いたことに雰囲気が私が知っている団長だった。
…あの子と団長は別つことなくきっちりと受け入れあったのかな?
下手すると、お母さんと叔母様みたいになるのかもしれないって思っていたんだけど。
もし、そうなるのだとしたら、この先の戦い、団長は置いて行くしかないかなって思ったりもしたけれど…大丈夫そうかも。
車椅子が後ろから押されるのと同時に熱い溜息が脳天に降り注ぐ
「はぁ、恋バナって良いよねぇ~」
熱いため息に苛立ちが加速する。
人の事を娯楽扱いしたことに対してまったくもって悪いと思っていない人には何かお仕置きするべきかな?
お灸をすえてやろうかと私をベッドに移動させるために正面にやってくる団長を睨み続けてはいたけれど…目の前に現れたその表情は反則だよ。
穏やかな表情を見て、毒気が抜かれてしまった。
団長の全てを受け止め全てを理解し、大きく前進した彼女の心境が伝わってきちゃった。
そっか、そっちでも色々とあったんだね。
ベッドの上で横向きで寝かしてもらうと先にベッドにもぐりこんだメイドちゃんと目が合う、その瞳が潤んでいるけれど、どことなく?精悍な顔つき、活力に満ちている?
そんな彼女の決意をぼんやりと眺めていると唇が動く?えっと
『母性が何か理解しました』
ぁ~えっと、うん…
どう返事を返せばいいのかわからないので、取り合えず頷いてから目を閉じると直ぐに意識が泥の奥へと吸い込まれていく。




