Cadenza 乙女心 ⑥
「真であるのだとすれば、隣国を通して…それもすでに遅いっというわけだ、語る必要も無い我らは孤立しているのだからな」
後手後手だよね、何時だって私達は何時だって一手遅い。
敵の事を知らなさ過ぎたのと、世界中の国や村と連携が取れなかったのも良くなかったんだろうね。
…取れたとしても、連携が密に取れたのかどうかはってのは、別だけどね。
通信技術を発達させたとしても、それらを繋げる時間が私達には無かったもんね。
「だがな、皮肉っというわけでも、嫌、違うな、これは皮肉だ、俺が戦いに参戦するなぞ王都が滅ぶような事態にならない限り有り得ぬのだ、今こうやってお前と語らう蜜月も無かったのだ」
いや、それも違うからね?蜜はないからね?これって言うなれば密会だからね?勘違いしないでね?
「王が非常事態であると判断し、通達を出し、多くの家臣や貴族が王の判断が正しいのかどうか、王都存続の危機であると家臣共が確信を得ることが出来た主な理由、中継国として地位を築き上げてきていた隣国である大国が滅び、他の大陸の情報が一切入ってこなくなったっというのが大きいだろうな…それが無ければこの瞬間はないモノとなっていたっということだ、つまり、今のような非常事態にでもならなければ俺とお前が、こうやって誰も介入しない席に座ることが許されなかった、俺の願いを叶えることなぞ、不可能だった…喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか、俺にもわからぬな」
今まで通りであれば、王は死の大地から溢れ出てくる真っ白な獣から人類を防衛するために街を機能させ続ける。
故に、引退した後であろうとも、王族が迂闊に大陸を渡ることなんて許されない。
更には、私のような貴族でもない人間と真っ当に対等に会話する事すら許されない。
…ってのは違くない?私って貴族として国が認めていないだけで、力はどの貴族よりもあるけど?
それも王家がとっくの昔に認めているから、君が正式に招いてくれたら…ぁ、私がそれをあの手この手で突っぱねるからどの道ってことか。
うーん…
私も私で落ち度があったってことだよね。
王族だから、君だからってことで突っぱねないできちんと話し合えばよかったってことだよね。
…これもさ、この瞬間の君を知ったからこそ、昔の自分にさ、君に会えばよかったんじゃね?って言えるんだよなぁ。
お互い、若い頃に会うといがみ合いで何も話が進まないだろうからね。
歳を重ねることで分かり合えるってこともある。ってこと、かな?
…でも、私ってさ、正直に言えば心の感覚は20歳の感覚なんだよなぁ、肉体はもっと上なんだけど、なんか、こう、釈然としねぇ…
「そもそもだ、この様な事態になる前にあの馬鹿が外との繋ぎを念蜜にしないのが悪い、あいつは何時だって言われてからでないと行動せぬからな、ふらりふらりとほっつき歩き、日に日に訓練にも顔を出さぬ怠惰」
あの馬鹿ってことは、きっと宰相の事なんだろうね。
時折、この街に来て愚痴を零すだけ零して挙句の果てに隙あらばお母さんに甘えようとする宰相の姿ばっかりみてたけど、宰相が外交で愚痴をこぼすほどに苦労しているのってさ、君の傲慢な要求をした後のフォローとかじゃないの?
疲れているからこそ、休憩も必要なんじゃないの?訓練に参加できない程に疲弊してんじゃないの?
っていうかさぁ、宰相って言葉でさ、思い出したんだけど、宰相が時折、用意して欲しい魔道具を数多くリストに書いて発注しにくることがあったんだけど、それってさ、もしかしなくても?
「ねぇ、偶にさ変な注文あったんだけど、宰相が持ってくるのって」
「変な注文?宰相がっ、であれば、お前の考えている通りだ、他国が欲しがっている品を特別に拵える、取引を有利に運ぶ為に王自ら用意せよと声に出したまでよ」
宰相を通さずに直接発注しろよ!
感情が伝わってしまったのか、不敵な笑みを浮かべながら
「俺から発注するとだ、お前っという人物であれば、当然、然も当たり前のように足元を見るだろう?恩を着せてくるだろう?場合によっては突っぱねるであろう?」
っぐ、わかってんじゃん!その通りだよ!
宰相からだったらさ、受けざるを得ないんだよねぇ…
一応さ、お互い、邪険にできない血の繋がり的な関係があるしさ、一応、この街を管理監督者としてお願いしているから恩があるんだよね、そういったしがらみで、仕方ないって安請け合いしていたってのもある。
君としてもそれらが透けて見ているからこそ、それを利用するってのはさ商人としての戦略としてだったら拍手するもん、正しいよ。
でもなぁ…腑に落ちない部分があるんだよなぁ。
私の中にある記憶、今代の私が記録だとさ、宰相が用意して欲しい魔道具って時折変なものがまざっているっていうか、本当に必要なの?っていう仕様の魔道具が多かった気がするんだけど?
ふと、思い出す作った魔道具の仕様。
ってことはさ、君ってしっかりと相手の需要を聞き取れてたってことになるけど、ちゃんとやってんだね。もしくは、あれかな?親孝行、とか?んなわけ?
「そっかぁ、それじゃ一つ質問、肩こりが酷いからマッサージに適した魔道具とかリストに入ってるときもあったんだけど、おかしいよね?だって、宰相であれば専属の按摩師さんがいるであろうに、それなのにいるのかな?って思ってたんだよね。でも、取引の為だったのだとしたら納得だよ、取引を有利に進めるために君が欲しかったんだね。もしくはあれかな?外に出づらい親族の為だったり?」
だとしたら、なんだかんだ言いつつ、親孝行してんじゃん。
「…?」
見直そうと覆った矢先、彼の視線は明後日…右斜め上に視線を動かして顎を親指でなぞってるんですけど?それも首を傾げながらさ
「何で小さく首を傾げるの?君が発注したやつじゃないの?」
「記憶力の良いこの我が?その様なモノ…覚えがないな、外交でそういった品々を用意させたことがあるが、マッサージとな?…平民が欲しがりそうなものを頼んだことは無いな」
そう、だよね?貴族だったらそういったプロを呼ぶよね?
「恐らく、それらは…平民が好みそうな品々は、宰相の奴が個人的に欲しかったものであろうな」
あいつ…!自分が欲しいモノもさらっと混ぜてやがったな!職権乱用…ってほどもでもないのか?
でも、国の予算でそれらを購入しているのであれば横領じゃね?…まぁいいのかな?国家予算の枠組みで見れば高いモノでもないし。
「この様な場で知るとはな、あやつめ、国の予算を我が物顔で使っていたか、まぁよい、微々たる金額であろう?それくらいの役得、お目こぼしをしてやらんでもない、あやつには苦労をかけたからな」
おや?以外にも?君がお目こぼし発言するなんてさ、二人の関係は良好だったりするのかな?
「なんだ、殺されそうになった相手なのに、宰相のやつ、ちゃんとやってんだね」
「それに関してはだが、俺がアイツの内情を語るのも可笑しな話ではある、されど、語ってやろう。今も俺の事は憎いはずだ、その憎悪、さらに深まっているであろうな」
時がたつにつれ殺意が膨れあがるってやつ?
「憎い相手から与えられた試練、それを乗り越えた先に待っていた与えた役割、それらを考えれば俺の事を良く思うわけも無い、憎いと思っているはずだ」
宰相に何したの?素直に右腕の席に座らせてあげなよ、私の要求忘れたの?
周りの家臣が何か言おうと…王であればって言いたいけれど、あの状況じゃ牙も爪も、威厳何て全部奪われちゃってるから、どうしようもなかった、とか?
「寛大なりし王である我があの程度の…何処までも憎まれようが恨みを込められようが、あやつが王に成る何ぞ口走らぬ限り殺すつもりは無い、ただただ、あの纏わりつく様な視線が鼻についただけだ」
眉間に皺を寄せて軽くため息を吐き溢している、その姿がお互いが王宮で密かに衝突していたのだと、そういった歴史を歩んできたって物語ってるって~の。
…前言撤回、仲良くないわこいつら、お互いの理が一致してるから一緒に居るだけ。
きっと、今もなお、お互いの腹の奥底では相手に対して憎しみが渦巻いてる。
「やっぱり、宰相の事は認められないの?」
「当たり前のことをいうな、あれを認めるわけにはいかんな」
んー、頑張ってはいるんじゃないかって思うんだけど、厳しい世界だね。
「それも今の王政ではなおさらだ、あいつは始祖の血が薄い、それだけで王の席に座ることは叶わぬ、それが叶ってしまっては、誰であろうと王の座に座ることを許すということになる、そうなると何が起きる?決まっているさ、欲深き愚民共が王の座を求め内乱が起きる、この大陸にある絶対的な都である我が王都、その頂に座ることを許されるというのは絶対的な力があるからこそ王が王であるからだ、力無き王は王にあらず」
認めるってのはそっちのこと?王の席に座ってもいいのかってことで伝わっちゃったよ。
違う違う、私が言いたいのはそういうのじゃなくて、仕事仲間として認めているのかどうかってことだったんだけど。
っていうか、そんな条件もあったの?
王に座る前提としてあるのが、始祖様の血が濃いか薄いかって事だったら、私ってたぶん、濃い方だよね?
「それじゃ、仮に私がさ王の座に座ったらどうなるの?」
意地悪な質問をしてみる、王族の秘密に近い内容、王族以外の人が知ってはいけない内容。
「お前であれば、資格がある何も問題はない」
ん?あっさりと認めるじゃん?その根拠ってなに?
王族の血ではなく始祖様の血が濃いかどうかなんてどうやって調べるのさ?
私が密かに行っていた研究と同じ内容を王族は既に確立していて、血の濃さを調べるための何かしらの検査方法でもあるの?




