Cadenza 乙女心 ⑤
「収益がある以上、恐怖心を煽る必要も無し、現時点では我が王都は他の国から補助なぞ受け取ってはいない、生産国として地位を確立するがごとし、下々に品を発注し下々がこさえた品を渡す、我らはその仲介をするだけよ、当然、仲介料としてマージンをいただくのは道理であろう?他の国が求める品々、それらを豊富に扱い様々な取引を行っていった結果、国としての地位も向上したさ」
興味が無さ過ぎて知らなかったけれど、こいつはこいつで王として仕事してたんだ
「そ、う、なんだ?防衛費とか、もう、他の国から巻き上げていないんだ」
てっきりさ、今も死の獣が死の大陸から出て行かないように防衛するための防衛費として他の国から大金を巻き上げ続けているものとばかり
「巻き上げる?何とも愚かな響きだ、だが、それに近しい金品は、他の理由で頂いてはいるがな」
おい!結局のところは巻き上げてんじゃん!
「名前が違うだけじゃん!貰っていることに関しては変わりないじゃん!」
これだから!言葉を変えるだけで!
「早合点をするな、違うぞ。名目としてはまったく違う内容だ。金銭を都合してくれる国に対してのみ、我らが生産している魔道具などを特別に何処の国よりも優先的に取引してやっているのだ、言うなれば、お得意様になる為のお布施っというやつだ」
っむ、そ、れは、確かに…寄付金とは違う、袖の下を通すってやつか。
商売人としてこすいやり方だけど、私も似たようなことしちゃってるしなぁ…取引先が多いのであれば優先順位ってのはね、どうしてもでちゃう、からね。
「ここからは愚痴だ許すがいい。取引とはいえ、直接やり取りをするというのは、滅多になくてな、我が王都に品を発注する際にある国を通って発注されることがある。これがまた困ったことにな、その国に何度も喉が枯れるほど注意しても、それらの多くが仲介をしている隣国の大国が奪っていくのだがな」
中間業者の中間…いや違う、中抜き業者って立ち位置なのか、あの国…
「…まったく、あの国は己の事しか考えおらぬ、そもそも、先王までは防衛費の多くをあの国が中抜きしていたからな、致し方ない事情がある。我らと直接的に取引しようにも遠き大陸にある国が安全に大陸を渡る際に隣国の大地を通らないと行かぬ国もあるのでな、隣国の大国の領土を通らぬ限り我らが王都に辿り着けぬからな、いや、再西南から時間をかければ辿り着けないわけではないが…難しいであろうな、お前がもっと遠くこの大陸の果てであろうと道を整備してくれればそれも易しとなったのだがなぁ」
さり気無く、その中抜きを止めさせたのは俺の功績だって自慢して尚且つ、さらっと最後の最後に私のせいにしやがった…
王家として道路整備を私に発注すればいいじゃん!ったく!こちとら慈善事業じゃねぇぞ?
さり気無く私のせいにしたことを恨みがましく睨んでみても、意に介する様子が無い!平然と言葉を続けられる。
「俺はな長い間、先王が王として椅子に座っていた時からずっとだ、隣国との関係性に、いや、国としての立場に憤慨していた。無論お前なら知っているであろう?俺が若い頃、才を示す為に経理などに携わっていたのを」
自慢げに言うけどさ、知らないっての、知ってるのは後ろめたい人達と繋がっているってくらいだけだよ。
「その頃からだ、この防衛費という名目を疎ましく感じてはいた。貰えるものを継続して貰うのが楽な道であると先王共は思っていたのであろうが、俺からすれば防衛費という名の金銭を受け取るということはだ、己の力だけでは国を守れぬと語っていることになると考えていた。それを裏付けるかの如く、俺が王として隣国の大国と取引をしていた際に感じたさ、我が王都の地位が他の大陸から見れば発言権などなく低いのであるとな」
楽な道を歩まず、困難な道を選ぶってのは、大変なこと、私も嫌という程、味わってるからよくわかるよ。
「王として、俺はな、それを良しとしない、するわけにはいかなかった」
それは、単純に君のプライドの問題もあるんじゃないの?っていう野暮なツッコミはしないさ。
「外交を重ねに重ね、今となっては誰が上なのかと、わからせてやったさ、無論、隣国となる大国にもな。だが、悪しき習慣っというのは直ぐには消えぬ、その流れをくむ腐敗した組織を解体するためにそれらと関係がある貴族共を罰し続けた…その最中に、まさかな、あの国が滅びるとはな、その様なこと予想すらしていなかった」
防衛費が無いと国を維持できない、その状況を打開するために後ろめたい人達を育て繋がりを保ち、暗躍するつもりだったのかな?
だとしたらさ、こいつはこいつなりに若い頃からこの国を変えようと奮闘していたってことになる。
ただ、やり方が横暴で人を人だと思わない部分も貴族達に露見していた。
それを良しとしない一派が教会と相談して、何とか阻止するために策を講じたってこと、かな?
その結果、それらに巻き込まれた人達も数多くってことになるんだよね、まったく、下手するとさ、私が介入しなかったら他の大陸と戦争になってたんじゃねぇの?
いや、そもそも…獣共が策によって王都は…
思い返すだけで腸が煮えくり返りそうになる。
目の前にいる人物に気づかれないように小さく深呼吸をして心を落ち着かせる。
「そもそもだ、帳簿を見ていた常々、思っていた。他の国共は年々、防衛費を渋っていたからな、溢れんばかりの潤沢な予算を寄こしてくれるのであれば問題で無かったのだがな、年々減らし微々たる金額を恩着せがましく渡したのだから当然、要求を通そうする、その我が物顔で我を通そうとする態度に何度、つどつど臓物が熱く熱を蓄え、しまいには煮えくり返ったわ」
眉間に大きな皺を作って指先で叩き続ける音がなだらかな落ち着いたリズムではなく激しいリズムとなり、苛立ちが音となって伝わってくる。うるさい。
「だがな、他国の態度よりも何よりも、それをその状況を表情を曇らせることなく笑顔で頷いていた先王、あやつの態度を見る度に幾度なく心の奥底で殺し軽蔑してきたさ」
その苛立ちが積もりに積もって若い頃は過激だったって言いたいのかな?若気の至りって?っは、それが君の本質でしょう?
「俺も若かったという奴だ、今となっては俺も含め全てが愚かであったと反省し、後に起きた出来事、後世に伝えるべき事態となってしまったわけだがな」
ほらでた、貴族の皆が良く言う反省の一声、若気の至り。まったく、そういえば全部許されれると思うなよ?…私も含めてだけどね、私も若い頃は感情で動きすぎてた。
「ここに書記が居ればな、惜しいモノだ。王として後世に伝えるべき反省すべき点、勿体つけることも無い、敵を馬鹿にし見下し続けたっという一点のみ、人類にとって害を生み出すようなモノを利用しようなど浅はか、あのような得体のしれない脅威をのさばらし他国から援助をしてもらう口実にしたのがそもそもの間違い。現時点での脅威が温いからと他国から永久に近い金銭を要求するなぞ、欲深き業、先代達が如何に浅慮なのかと見下すことを禁じ得ない。真に人類の平和を願うのであれば各国に何年かかろうが説得し続け、決戦時のみに防衛費を潤沢に集中させ他の大陸、全ての人類が英知を抱き肩を並べ共に立ち上がり師の大地を行軍し、奥底にあると言われる獣共が巣窟を攻め獣共を一つ残すことなく駆逐するべきであったのだと、脅威をのさばらしにしておくなと後世に残すのが正解であろうな」
饒舌に語る内容、反省点が正しすぎて。んぅ、何も言い返せないな。
ちゃんと反省しているし客観的に今の状況をしっかりと把握してんじゃん。
…こいつと私は正しい出会い方をしていれば、なんて考えないよ?幼い時にこいつと会う術も説得する方法も無いから衝突すること間違いなしってね。
っていうかさ、他の大陸の人達って、定期的に一団を組んで死の大地に特攻という名の観光してなかったっけ?いっつも、入り口で兎や鼠、鹿に負けて撤退するっていう獣とのワクワクふれあい体験ツアー、血を添えて、って感じのやつ。
「他の大陸の人達ってさ、死の大地の獣がどれ程の脅威か知らない、ってこと?」
「いや、その様なことは無いと思うが、どうであろうな。王家の伝わりし書物によれば始祖という争いの火種を残していったやつが現れた時代、多くの大陸で真っ白な獣に襲撃され多くの街や村が滅んでいると記されている、それらを討伐する際に騎士団が派遣され壮絶な戦いがあったと記されている」
っげ、ってことはさ、昔っから敵は海を渡る術があったってことじゃん!
それを知っていたら、もっと海に対して警戒したってのに!!
「そいつらって何処から現れたのかって記載されていないの?」
「信憑性が低いと王家も判断している書物だ、語り部から語られた内容をメモしているだけ、故に信頼性に欠けていると王家は判断している。それでもよければ内容を語ってやろう」
それでもいいからっと頷くと
「世迷言だ、この我もその様なこと不可能であると思っている、まず、獣共を目撃した者が語ったのが、天から降ってきた、地中から湧いて出てきた、野を駆けてきた。その様なことが書かれていたさ、野を駆けてきた、これに関しては誰でも理解が出来よう?だがな、天?地中?世迷言…っと言いたいが」
天?…始祖様が倒した敵の中に空を羽ばたく翼を持った大きな敵がいたってのも書かれていたから、恐らく、そいつが多くの獣を背に乗せたのか、もしくは、何かの術を使って運んだってことだよね。
地中…ワーム、っとか、かな?もっと前に知りたかった情報だよ。
話を聞いている最中、その光景が脳内で易々と再生されてしまう程に私は煮え湯を飲まされ続けている。思い起こされる経験が苦痛となり眉間に大きな皺を作っていると
「その反応、語り部が語った内容、絵空事ではなく正しいとみるべきだったのか…王家がお前たち白き偽りの聖女達と深くかかわっていればまた違う道もあったのかもしれぬな」
机を叩く指が止まり、何処か悲しそうな瞳で天井を眺めている。
こいつにも死を憂う心があるんだ。でもね、たぶん、私以外の聖女達と深く心を通わせたとしても何も得られないと思うよ?
…私だからこそ、理解できる部分が強いんだもん。
もしかしたら、始祖様の傍にずっといた聖女様なら全てを語れたかもね。
「っち、それがわかっていれば、恐怖心をもっと深く揺さぶって多くを巻き上げれたというのに」
あ、違うね、死を憂いたりしてないやこいつ、この悪態、照れ隠しでも何でも無く本心で言ってるね。
「語り部ってことは吟遊詩人かな?その時に語られ伝えられてきた内容が錯乱した人が話の内容を吟遊詩人が盛っているって考えた結果、信憑性が低いって判断したってこと?だよね?」
小さく頷いたってことは、正解ってことだよね。
わからんでもないよね、吟遊詩人とか、そう言う人達って内容を盛ったりするからさ、そもそも、語られた内容が当時の人達でも安易に信じられる内容じゃないんだよね。
私だからこそ多くを見てきたからこそ、その内容に対して嘘偽りが無いって言えるもん。




