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最前線  作者: TF
655/694

Cadenza 乙女心 ③

「それじゃぁさ、仮にだよ?あの死の大地で、あり得ないかもしれないけどさ、君を守るために特別に編成されたご自慢の騎士達の肉壁を突破し君の眼前にさ、死の大地の獣が大きく口を開けて鋭い牙や爪…自身の存在全てを殺意へと変えて君だけでも殺すつもりで突撃してきたとしても、ご自慢の鎧が守ってくれるだろうからさ、私は助けないからね?」

起こりえる惨状、その程度の鎧では防げない敵の攻撃、そうなる可能性がある未来を示す。

ただこれは相手の心を曇らせるつもりはないよ、本当の本当にこの先…死の大地であれば十二分に起こりえる可能性。

わかっていない可能性もあるので、甘く考えていないのかと、起こりえる現実を示す。


この先は本当に命がいくつあっても足りないのだと警告を出して…みるが

理解する気が無いのか、まったくもって動じる雰囲気も無く、優雅に微笑を浮かべている。

その姿を見て思うことはただ一つ絶対に助けないからね、忠告もしたから!

君なら、私が何を言いたいのか伝わっているはずだもの。


「助け?お前が?我を?お前も冗談を言うことが出来るのだな、はは、まったくもって面白い冗談だな」

微笑を浮かべながらも緩く首を傾げ、流し目で此方を見てくる。

その姿を見ても彼が死を受けいれているのか、はたまた、先が見通せていないだけなのか、私には、彼の腹の奥が見えない、王族の考えなんてわからない。


つい、目の前にいる人物を受け止め思考を探ろうとする自身の悪しき習慣を止める。

彼の事を理解しようとする愚かな私の事なんて見ている様で見ていないのか目の前にいる傍若無人の塊が言葉が続けていく。


「かの有名な人型で在ろうと我の前に立つことなぞ許しはせんよ、仮にだ目の前に出てこようが、一向に構わぬ、王自らが槍を振りこの手で葬り去ってくれるさ。故にだ、お前は何も心配する必要なぞない、俺に心配という言葉は無用だ」

君たちは敵の強さを知らないからそう言えるんだよ。人と獣じゃ戦い方が大きく違う。

人に対して訓練をし続ければし続けるほど、勝てなくなるからね?…お爺ちゃんは別だけど、あの人は闘うためだけにこの大地に産み落とされた化け物の一つだからね。

「先にも告げたであろう、我は死を受け入れている、この戦い、我が死ねば、王家としてであれば、それはそれでよしとする。戦いを終え月の裏側へと導かれなくこの大地を踏みしめ続けることが出来たのであれば、俺は俺を自由に生きる、そう、第二の生として全ての立場を忘れお前と共に歩む、此度の俺という運命は、それ以上もそれ以下も無い。王だからと言って守る必要は無い、死ぬのであればそれはそれ、誰も悲しむことも無い」

語り続ける彼の声色からは、恐怖などを一切感じることが無かった。

本当に、死を受け入れている、己のすべきこと全てを終えたから?後世を導き終えたから?

…君らしくない、野心の塊で我が道を歩もうとした若き頃の鋭さが無い。


…っま、私の時の君ってやつは、情けなさ過ぎてとっとと死ねって思ってたけどな


それはそれとして、まったくもう、君たちはアレと闘ったことが無いからそんな風に言えるんだよね。


人型の怖さを知らないから言えるんだよ、まったく。

アレを目の前にして冷静に戦えれる人ってのは一握りだっての。

多くの人が何度も何度も経験を積み重ねたからこそ、アレを前にしても動けるんだっての。


死という概念にとらわれず固執することが無いと、彼なりの覚悟が伝わってくる。

見据えてしまった未来、考えられる最悪、滅びを前に…彼の心は冷静に冷酷にしっかりと見据えている。

私の時代と今代の君では違い過ぎてしまう、その力強さについつい心の中で悪態をついてしまう。

そして…その彼を見て己の中で湧き上がってきた結論に私は何て甘いのだと笑ってしまう。


…だって、その瞬間、いざってときになったら、私は、私ってやつはさ、馬鹿だから、何も考えず、ただただ、目の前の命を助けようとするんだろうなぁ。だって、こいつは…今のこいつは死を受け入れた戦士なんだもん。


私が何度も助けられた多くの人達と同じなんだもん。

なら、助けるのが道理だよね…たとえ、問題があり、過去に衝突した影響で憎くと感じてしまった相手だとしても…


自身の湧き上がる愚かで甘い結論によって、想像が、可能性のある未来を示してくる。

その光景が手に取る様に思い浮かんでくるね、見捨てるべき状況でも奮闘しようとする自分の姿を。

自分の甘い所に嫌気がさしてしまう、口ではさ、見捨てる時は見捨てる、冷徹に冷酷に非人道的な判断を下せるっとか言っておきながらね。見捨てることが出来ないんだよなぁ…


でもさ、仕方がないよね?いくら、憎かったと言っても、それ以上に…

うん、だって、私はもう獣共に誰一人として命を奪われたくないって思ってるから…

仕方が、ない、よね?獣共に人類の命を奪われることの方が苦痛だもん。


こうやって、色んな理由をつけて言い訳してさ、見捨てるとか言いながら見捨てきれない…

愚かだよね…微かに残されている記憶の欠片が私を嘲笑うかのように邪悪な笑みで此方を見ているのが伝わってくる。


その視線の通りだと思ってしまう。


そうだよね、成熟する前の私だったら容赦なく…

この先にこの人物は必要なのか、不必要なのかと、あの時代の私だったら冷酷に切り捨てたんだろう、けど、ね。残念ながら多くを奪われ続けてきた私だと…もう奪われることの方が辛く、心の叫びがきつい…


泥の奥の私が冷たい視線を一度だけ向けた後、何も言うことなくゆっくりと瞳が閉じられていく。


うん、わかってるよ、君が何を言いたいのか。

この先、獣たちとの闘いによってどんな結果になろうとも、人類にとって必要な人材っていうのは、正直に言えばある。

才能によって、命に優劣を冷酷に冷静に冷淡に生かすべき守るべき人材を見定める。

…つまりはさ、私の尺度で人類全体を考え未来を見据えて命の優劣をつけるべきだ、っていうのが選定者であれば正しいのだと思うよ?


でもね…


もう、その頃の私には戻れないんだ。


だって…色んな経験を通して、私は…お母様以外の人達も大切だと思えれる様になっちゃったからね。だから、私は…私の中に注がれ緩やかに全身を流れ続けている人々の祈りが…純粋なる生存するための願いを叶えるために…


この体を動かす。

そう、私は人々を救済するための魔力で動く魔道具。

その概念は人を救うこと、ただただ、それだけの為に人々の祈りを全身に受け止め、何度も何度も、請われ続けても歩み続けてきた…壊れかけの人形、それが私。




突如振ってきてしまった自分を見つめなおすようなきっかけに、心の中で冷静に受け止め切る。

心の中で受け止め切ったつもりだったけれど、目の前で優雅に紅茶で唇を潤わせている絶対に隙を見せてはいけない相手に僅かな緩み、隙を見せてしまったのか

「変わったなお前も」

慈しむような慈愛を感じてしまう程に優しく声が胸を刺す。

まさかの人物からまさかの言葉が投げかけられてしまい、ついつい驚いて目を見開いて相手を見つめると

「初めてお前を見た時は、お前の事を人だとは思えれなかった。お前の瞳を見た時、正直に言おう、お前からは、人を人とも思わぬ視線を感じた。その様な眼光を持って俺を、いや、世界を見据えていた。もう一度言おう、俺は、お前からは人ならざる…超常なる存在、人とは違う、捕食者のような雰囲気を纏っていた、だが、今はどうだ?」

今は、何処からどう見ても何処にでもいる人だって言いたいのかな?

それに関しては私も同意だよ…そもそもさ、君と初めて会ったときは、君に対してかなり敵意むき出しだったからね。しょうがないってーの。ってか。

「君に私の何がわかるんだっての、変わんないよ?見捨てる時は見捨てるから、例え王であろうとね」

つんっと鼻を上げつつ、相手から視線を外すようにそっぽを向いて悪態をつく。


私の心に踏み込んでくんなってーの!

私の心には…もう一生を…共に歩む人がいるんだから。


「何度も同じ音を奏でる為に喉を震えさすな、構わぬ、と言っている」

怒った様なセリフなのにさ、穏やかな顔。

君も、私と同じで完全に自身の死を受け入れて、先の世代に残すと決めたんだね。

…こんなやつと一緒なんてさ嬉しくない、はずなんだけど、っさ。同じ志の人が増えるってのは、その、嬉しいって思っちゃうあたり、私って意外と絆されやすかったりするのかも?

「残すべき責務はない、死のうが生きようが、誰も何も言わぬ、俺の最後くらい俺が決める」

だとしてもさぁ!って反論したくなる!

そんなのおかしいってわかってるよ。自分でも支離滅裂だって…

それでも、言いたくなる!

「私が欲しいんじゃなかったの?生きたいと、共に歩みたいと願ったりしないの?生にしがみつかないの?」

未来を欲しがっておきながらさ、死を受け入れているってどうなの?

「王は、いや、俺が言葉を違えることなぞ無い、無論、欲しいさ」

自分の言葉に酔いしれているのか、噛み締める様に瞳を閉じてさ小さく頷いてんじゃないっての…

言葉の歯切れが悪いから続きを言うまで待ち続けると、閉じた瞳が僅かに開かれ、その瞳を見て心が動かされてしまう。


頷いた後に薄っすらと開いた瞳から力強い意志が伝わってきちゃったじゃん。


「現状を理解できぬほど、俺の頭は愚かではない、犠牲無く全て万事解決、人類が勝利へとたどり着き勝鬨を上げる。大団円っというやつか?そのような結末…誰もが笑顔で終わるなど、王として、いや、俺個人の予感、いや、推察としても楽観視なぞしておらぬさ。されどな、願うくらいは良いと思わぬか?お前が傍に居ればっという泡沫の夢っというやつに包まれても良いと思わぬか?その夢の中であれば、王としての責務から解放された後もお前と共に行動するのであれば、先王達のように、死ぬまで暇を吟味することはないであろうからな」

緩やかに語る口調は裏腹に瞳から伝わってくる強き意志。

野心を抱く様なぎらついた瞳!私に言い寄ってくる貴族と同じ…ってことは、そういうこと?

「やっぱり、私のお金が目当てってこと?」

眉間に小さく一瞬だけ皺をつくった?図星でイラついたの?


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